軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

情報収集・・・?

ギィと押した扉は、今まで開いてきたどんな扉よりも重かった気がする。

そんなことを考えるジェイドの緊張とは裏腹に、店内では閑古鳥が鳴いていた。

「静か・・・ですわね?」

「まだ開店してない、とか?」

「それはないんじゃない? 表には閉店の札もなかったのだし」

ジェイドの幼馴染である3人娘が口々に感想を述べる。

だが確かに、奇妙なほど静かな店内には人影が見当たらない。

この酒場自体はかなり広い。

にもかかわらず、奥の奥まで丸い机がびっしりと設置されている。

であれば、本来の客足は相当なものと予測できる。

なら今のこの状況は、なにか事情があってのことだろうか?

ジェイドが困惑しながらも頭の中を整理していると、

「とりあえず奥まで行ってみてはどうでしょう? 店員くらいはいるはずですが・・・」

同じ教育係がついた縁で仲間になった2人の内、少女の方であるリミアが提案する。

「・・・そうだな」

余談だが、ジェイドはリミアとの距離感を測りかねている。

あまり年下と接したことがなかったからだ。

もう片方の少年であるヨハンとは、同性であるということもあって、深く考えずとも雑な関係で居られるのだが・・・。

だからジェイドの返事が一拍遅れたのは苦手意識からである。

しかし、

「なにか気になることでもありましたか?」

それを知らないヨハンはその一拍に食いついてしまう。

原因は教育係であったゼネスだろう。

わざと含みを持たせたような会話の仕方をするあの教育係のせいで、変に間を作った返事をすると、なにか考えがあるかのように聞こえてしまう。

しかも当の本人に質問をすれば、大概にして答えが返ってきたものだから、この傾向を助長させた。

困惑し、頭の中を整理していたジェイドへ。苦手意識を悟られないように隠すという任務と、ありもしない機転を捻り出すという使命が発生した。

これはパーティーのリーダーとしての面子がかかった重要な責務だ。

仮にもリーダーが仲間を苦手としているなどと、知られるわけにはいかない。

どうするかと、いっぱいいっぱいになっていた所へ。

救世主が現れる。

「やっと来たか! なにしてんだ! 早くこっちへ来い!」

その口ぶりから人違いであることは明白。

この場に来たばかりのジェイド達を待つような人間はいないのだから。

だが、ジェイドはその誘いに乗る。

なぜなら全てをごまかすことが出来るから。

勘違いの責任さえも、相手の落ち度であるからだ。

「――って、誰だおめぇら‼」

ぞろぞろと並ぶジェイド達の顔に見覚えのない声の主。予想通りの反応だが、焦る必要はない。

「アンタが呼んだんだろ?」

「いやそうだが・・・こっちはてっきり・・・」

「てっきり・・・なんだよ?」

「なんでもねぇ! それより、こんな時間にこんな場所でなにやってやがる?」

ゴホン! と咳払いを一ついれ、わかりやすい話題の転換を試みる変なおっさん。

この場合、ここからどういう態度で行けばいいのか迷うジェイドをよそに、

「! そうか! おめぇらおのぼりさんか!」

ジェイド達を呼びつけた変な髭面のおっさんが手を叩く。

「ああ・・・まぁそうだよ」

「は~なるほどなあ。そんで酒場で聞き込みにでも来ちまったのか。はっはっは! いや、仕方ねぇさ。誰もが通る間違いだ!」

誰もが通る間違い。

なぜそんなことが起きるのかと言えば、大きくは冒険譚などに酒場での情報収集が多く描かれているからだ。そういうものに触れ、冒険者を目指したものこそ、情報収集は酒場に頼る。

なによりジェイド達の場合、やはりゼネスの存在だ。

エイラは実際その様子を隣で見ていたし、ジェイドもそのことを聞き及んでいた。だからこそ、酒場を選んだのだ。

ひとしきり笑った後、無駄に太い腕ときわどく後退を始めたであろう生え際が特徴的なおっさんは話を続ける。

「ここじゃあこんな時間から酒場に入り浸るような冒険者はいねぇのよ! 誰もが必死こいて生活してるからなあ!」

「そういうアンタは?」

「おっさんはな! 工房主だ! だからこんな時間から酒場に居てもいいってわけよ!」

工房主。

アドレスにある拠点サルベージにて工房を構える技術者。又はその頭目。

工房が扱うものは多岐に渡るが、冒険者と比べて暇なわけではあるまい。

「工房主・・・ですか?」

そう考えたヨハンが疑問の声を上げる。

本当に工房主か? と。

「なんだ? そんなことも知らねぇのか⁉」

「工房主については知っています。ですが、その工房主がなぜこんなところに居るのかと聞いているんです」

それを無知であると誤解したおっさんに、リミアがきつい口調で補強しながら切り返す。

「なぜって・・・そりゃあ人を待ってるからさ。おめぇらがそうだと思ったんだが、最近は目も霞んできちまったみてぇでな。寄る年波には勝てん」

そういえば・・・と思い当たる節に苦い顔をするリミア。

そこですかさずジェイドが続く。

「待つだけなら工房で待ってりゃいいんじゃねぇのか?」

「それはそうだが、こんな時間から飲んだくれる特権を使わねぇのも、もったいねぇだろ? それに、ウチは狭いんだよ。4人も5人も入って来られちゃ困るのさ」

いいながら片手に持った酒を煽る。

このまま言い合いになっても得はない。

聞きたいことだけ聞いて、さっさと店を出よう。

そう結論付け、ジェイドがいざ! と意気込んだ瞬間。

「お? 今度こそは本物だろうな?」

ギィと扉の開く音が聞こえた。