作品タイトル不明
side――ジーナ・V・マーラグ1
最近の私は以前にも増して忙しい。
発表した研究の成果があまり振るわないのも、きっとこの忙しさのせいだ。
今の研究が滞っているのも、恐らくはこの忙しさのせいだ。
そうに違いない。ああ、この私が言うんだ。間違いないとも! 決して、最近は心踊るほど興味を持てる対象がないとか・・・そんなことはない。
なぜなら私には、世界有数の明晰な頭脳と、それを支えるべく研究を手伝ってくれる数多くの仲間達がいるのだから! 絶対にやる気がないとか、そんなことではないのだ‼
では、そんな私が。なぜ、こうも忙しいのか。
それは実家の爵位をこの私が簒奪したからだ。
いや、簒奪というと悪いことをしたかのように聞こえてしまうね?
言い換えよう。
私が父から公爵家当主の座を奪い取ったからだ。
そう奪取だ!
なぜそんなことを‼ と。父は嘆いたけれど、全ての原因は己の行いだと、母が伝えてくれたことだろう。
理由は見合い話を私と、ましてや母にすら断りなく、四方八方そこかしこから、集められるだけ集めてきたからだ。
確かに、私はもう今年で24になる。
だが、私にはやるべきことがある! この世の魔法を解き明かすという使命がある‼
それを理解出来ない凡愚を婿になど、貰うつもりはないよ。
しかし、そのせいでアドレスにある拠点と、新しく作った研究所と、皇都の実家で行ったり来たりは流石に疲れる。
なにより。あと1つ、自由に設置できるはずだった転移扉を使わざるを得なかったのが痛い。
最後の1つはもっと有意義に使うはずだったのだけれどね。
そんな後悔を引きずるように、新しく作った研究所がある街で、所用を済ませた帰り道。
私は興味の対象を見つけた。
「おや? こんなところでどうしたんだい? 珍しい」
冒険者ゼネス。
本当の名をゼネス・C・グラーニン。
私と同じくガルバリオ皇国の貴族に生まれ、しかして正しく評価されず。自らで生きていく道を決めた・・・いわば同志のような存在。
私にしては珍しく、考えるより先に言葉が紡がれていた。
しかも、顎に手をやって覗き込むような姿勢も合わせて。さながら、興味深さを全身で表現しているみたいじゃないか! 恥ずかしい‼
だというのに! 振り返った顔には、いかにも”迷惑です”とでも書いてあるかのよう!
どういうことだい?
つい、恥ずかしさを紛らわすために変なことを口走ってしまったじゃないか‼
こんな夜中に男を部屋に呼び入れる淫売な女だと思われるのはまずい。現公爵としても非常にまずい。
だが、まだ大丈夫。
私の部屋は研究所の中にあるが、ゼネス本人はあまり興味がなさそうだし、もし仮に研究所へ招くことになろうとも、研究成果の確認というお題目がある!
だから、まだ大丈夫! 戦える‼
勢いでガッ! と腕を掴めば、振り払ってくれないだろうか? と思って思い切って掴んで走り出そうとしてみたものの、本当に振り払われると、胸に来るものがあるね?
いやいや、悔しいとかじゃあないよ?
今は部屋も散らかっているだろうし、来られても困る。
研究とその他の雑事で忙殺されていたせいで部屋の状況なんて覚えてないけれど、それでも。困るものは困る。
しかしだ! しかし。
だからと言って、にべもなく断られて、それを”はい、そうですか”では私に魅力がないみたいになってしまうだろう!
思い出してみたまえ! 私・・・というか、私のパーティー”全ては魔法の上に”の存在を!
君の仲間だって鼻の下をだね‼
若かったからって、成人は済ませていたはずだろう?
というかだね? 君はなんで1人なんだい?
そろそろ誰かが回収に来たりは・・・?
なに⁉ 引退したッ⁉
聞いていないぞ‼ どうしてそんな重大なことを私に黙っていたんだ‼
その辺りのことをもっと詳しく――ッ‼
問い詰めようと思った矢先、ゼネスの肩ごしに誰か・・・?
なんだか悲鳴を上げているようだけれど、あれは君の知り合いかい?