作品タイトル不明
災厄の気分
「一体なにを見ていたんだい⁉ ほら! もう一度よく見たまえ‼」
ジーナは素早く扉を閉じると、装置を弄っては扉を開いて、階段を見せる。
そしてまた同じ手順を繰り返して、さっきのどこかもわからねぇ部屋を見せつけてくる。
「あぁ、扉を押したり引いたり出来るってことだな? つっても、その程度――」
「そんなわけがないだろう‼」
ふざけて答えたら迫真の否定が飛んできた。
「そ、そうですよ。ゼネスさん。迷宮にあるものは・・・基本的に、同じ場所としか行き来が出来ない。でも、この扉は違う」
「そう! それだよ‼ よくわかってるじゃないか! 君はどこぞの凡愚とは違って優秀だねぇ。どうだい? 私の研究チーム”全ては魔法の上に”へ入らないかい? 今でも冒険者として活動している面子もいるよ? どちらかと言えば女所帯だし、そこらの事情も理解できるから、いいように使われているだけなら、今のパーティーなんか捨ててしまおうじゃないか!」
お得意の勧誘か。
どちらかと言えば~どころか、男の研究員なんざ見た覚えはねぇけどな。
さて、直ぐにやめさせてもいいんだが、ケイトの返答も気になるところだ。
確か。ケイトがジェイド達とパーティーを組んでるのは、なし崩し的な理由だったはず。
本人が強く望むようなら、やめさせるのは目の前の変態じゃなくジェイドになる可能性もある。
そう考えていたが、
「いえ・・・せ、折角のお誘いをその、お断りするのは心苦しいのですが。私は友達と居ます」
そんな必要は微塵もなかったようだ。
ま、憧れは所詮、憧れだ。
遠くから眺めるくらいで丁度いいんだろう。
「いい判断だ。その変態の元へ行くと婚期を逃すからな」
「だから! 私は行き遅れてなどいないと――」
「お前だけじゃねぇだろ? 研究員には貴族令嬢も多かったはずだよな? その中で何人が結婚してるんだ?」
「それは・・・・・・全員が結婚しているとも! 魔法研究とね‼」
「っつーわけだ。女所帯~云々も。ほとんど、どころか女しかいなかったはずだ。それで婚期に焦ってた頃、まだ子供と言って差し支えなかった元パーティーメンバーのエリックを誘惑しようとしやがってな。以来、俺はこいつを変態と呼んでる」
「あ、あれは私が主導・実行したわけではないと、何度も説明しただろう⁉ って! 今はそういう話をしているのではなくてだね‼」
もう少しからかえるかと思ったが、
「この扉こそが! 君の時空魔法を使った私の研究成果物で、君と私の関係を象徴する代物だと言う話さ!」
不利を察して強引に本筋に戻してきたな。
「な、なるほど・・・共同研究なら、確かにパートナーということに」
「本当に共同研究なら、な」
「なにが違うというんだい?」
「お前が勝手に俺を利用してただけだろ? やれ報酬は弾むだの、この間の礼をしろだの、恩着せがましいことを言って、俺に無理やり時空魔法を使わせた結果なんざ持ってきやがって!」
ジーナの魔法知識は大したもんだし、その利巧さは認めないわけでもねぇ。
ただ、冒険者ギルドへ依頼として出したり、俺の知らねぇところで他のパーティーメンバーへ恩を売ったり、そういう一方的な協力要請で成り立った関係をパートナーとは呼ばねぇだろう。
「なにより! その成果がこんな失敗作じゃぁ話にならねぇだろ! なんでこれで俺が認めると思ったんだよ!」
そう言われて、ジーナはパッと顔を逸らす。
「失敗作、なんですか?」
「そ、そんなわけがないだろう? この扉は間違いなく使えるんだ。失敗作とは呼ばないさ」
「なら聞くが、この扉は単体で行き来が出来るのか? さっきは迷宮の門に比べて、さも優秀であるかのように語ってたが・・・?」
逸らした顔がドキッと跳ねる。
「まぁそうだよな。じゃなきゃ、こんな端に専用の廊下なんぞ作らねぇわな」
ジーナは答えなかったが、饒舌な奴が答えなかったということは、つまりそういうことだ。
この扉は単体での往来は不可能。
わざわざ隠すように、部屋の端に細い廊下を作って、その先に配置している時点でわかりきった答えだった。
「反対側が下り通路にでもなってるんだろうな」
「はっはっは! 流石だね? たったこれだけの情報で、そこまで理解が出来るなんて。まるで長年連れ添った相方のようだね?」
「自分の研究成果を隠すような馬鹿が、こんな施設立てられるわけねぇだろ。大々的に見せてねぇのは欠陥品だからだ。しかも、技術的に転用が難しく、私的利用の場合に危険性が高い。だから発表はせず、せめて自分達だけは便利に・・・なんてのは、それこそ馬鹿じゃなきゃ気付く」
もし本当に1つの扉で、あちこち行き来できるなら、部屋のど真ん中に置いとけばいいだけだからな。その方が注目も集められるってもんだろ。
「それなら、どうしてあの扉があれだけ凝った作りになっているのか・・・わかるかな?」
「普通の扉として使えるようにしてるのは、追及があった時に誤魔化すためだな? 装置をノブの近くにつけてるのも、鍵だと誤認させるため。扉の押し引きを入れ替えるのも同様の理由だろう。押せって書いてある扉が開かなきゃ鍵がかかってるようにしか見えねぇからな」
「いやぁ流石、流石。これほど私を理解してくれているのは君ぐらいのものだよ?」
なにかを含んだような物言い。
だが、それがなにを言わんとするか。
俺が考えるまでもなく、
「普通・・・夫婦でも、そこまではわからない」
ケイトが圧巻だと首を振るようにして言い放った。