作品タイトル不明
酔う装う
「こんな昼間からお酒なんて・・・っていうのは言わない方がいいのかしら?」
軍学校からはそれなりに離れた中央広場の近くにある酒場でエイラがぼやく。
それはこんな昼間から飲んで潰れて、くだを巻いている目の前の連中に言ってるのか。あるいはこの酒場に入った俺に対していっているのか。
どちらにせよ、
「個人の趣向に口出しは――するもんじゃねぇな。碌なことにならねぇ」
言わぬが花ってやつだ。
くだを巻く連中に絡んだところで利益になるとも思えねぇし、俺はここへ飲みに入ったわけじゃねぇからな。
つっても、それを一々説明するつもりはねぇが。
ざっと辺りを見回して、話を聞けそうな奴に狙いをつける。
複数人で集まって飲んでる連中はアタリなら多くの情報を手に入れられるが、ハズレなら目も当てられねぇ程の時間を無駄にする。しかも、酒が入ってる量も他と比べりゃ多いことがほとんど。飲み始めでもなけりゃ候補からは除外される。
2人連れなら酒を飲むことが目的ってより、会話を目的としてることが多いから狙い目なんだが、残念ながらその姿はない。
となれば、必然的に候補は1人で飲んでる奴になる。
カウンター席に3人。残りはテーブル席なのに1人で飲んでる奴か。
どっちも見た目じゃ情報を持ってるかなんざわからねぇが、カウンターの3人は比較的に席が近いせいで会話に横やりが入ったり、話し声が聞こえるせいで煙たがられて邪険にされる可能性がある。
つーわけで、広い机を1人で占領している飲んだくれに声をかける。
「ここ、構わねぇか?」
「好きにすりゃあいい。ここは俺の店じゃないんでな。他にも席があんのに、わざわざ女連れでここに座る意味は分からねぇがな。あてつけか?」
顔は上気して赤らんじゃいるが、呂律はハッキリしてるし、酔いが回りきってるなんて心配はしなくてもよさそうか?
ふん! と鼻を鳴らすおっさんを観察しながら話を進める。
「そう言うなよ。こんなガキじゃ添え物にもならねぇだろ?」
「まぁ・・・そうかもしれんな」
上から下まで。エイラをざっと見てから、おっさんも納得したように息を吐く。
失礼じゃない? とは本人の言。ご立腹のところ悪いが、今は蚊帳の外。
しばらく大人しくしててくれ。
「最近、なにかあったのか? こっちに戻ったのは久しぶりで、見たことねぇ顔ぶれに驚いてるんだが・・・」
「知らんよ。そんな大事ならこんなとこで飲んじゃねぇさ。それに、見知らぬ顔なら俺の前にもあるんだがね? あんたはどちらさんだ?」
話を聞くなら同郷を装った方がいい。多少なりと酒が入ってりゃぁ違和感にも気付かず、気分が乗れば色々としゃべってくれるからな。
「俺は冒険者だ。ここを出たのは15年以上前。当時はまだ10歳になったばかりだったからな。顔に覚えがなくともおかしくはねぇさ」
「そいつがいったいなんの用で今さら?」
「昔に別れた腰抜けが、今じゃぁ軍学校で教官なんてやってるって聞いてな。それでひやかしにでも・・・と思ったんだが、あの行列だろ? 中に入るのも躊躇われてな」
「なんだぁ? 腰抜けに会いに来たのにブルっちまったのか?」
「ここじゃぁ軍なんざ愚か者しか入らねぇと言われてたのに。それが今や、あの人気なんてのはおかしいだろ? たかが10数年だぞ? 用心するに越したことはねぇ」
「言い訳だきゃぁ一丁前だな。だが、その通りだ。軍なんてのは商売に失敗したか、デカくなるのを諦めた奴が行く場所だ。墓場と言ってもいい」
ハンッと笑って、おっさんは一気に酒の入ったジャグを煽る。
ここは南で一番栄える町だ。
南の霊峰のお膝元から近く、安全だから冒険者に由来した素材やらが広く大量に出回り、商人は冒険者たちへと食料などを多く買いあさり、いつか自分達もと夢見る冒険者が訪れる町。
流通にしても、観光にしても、冒険であっても。
一発あてれば成り上がれる環境で軍に入る理由は乏しい。
故に、軍に入るものは愚か者と呼ばれる。その大体が、あてが外れて借金濡れになった奴か、冒険にも出れないような腰抜けだから。
「なにがあったのかは知らんがな。なにがあったのか知ってるかもしれん奴なら知ってるぞ?」
タン! とジャグのそこを机に叩きつけて、次いでとばかりに給仕を呼びつけると、
「おう! 嬢ちゃん! 酒の追加だ! それで? アンタはどうする?」
俺の方を見てニヤリと笑う。
「同じのを」
給仕の少女に短く頼む。
それが気に入ったのか、酒が運ばれて来るより先に、おっさんはその人物の居場所について話す。
「壁外の瓦礫町へ行って、抜け道を探せ。目印は干された洗濯物に隠れた旗だ。入り組んだ迷路の先で、鼠の王が待ってるぜ」
壁外の瓦礫町ってのは、貧民街のことだな。
旗の色と形は――まぁ行けばわかるか。目印っつーぐらいだ。
入り組んだ迷路が鬼門だな。なにかしらの法則があるのかもしれねぇし、案内なしじゃ通れねぇ可能性もある。
「お待たせしました!」
「おう! わりぃな!」
さっきの給仕が酒を運んできた。
おっさんが酒を受け取り、もう片方を俺の方へ。
だが、謝るのはおっさんじゃなく俺の方だ。
俺は3杯分に少し余るだけの代金を机において立ち上がる。
「おい! 飲まねぇのか⁉」
「悪いな。ガキを侍らせて飲む趣味はねぇんだ。情報料として、その酒はそっちで飲んでくれ。金も3杯分置いて行く」
じゃぁな! と言い残して、隣で突っ立っていたエイラの手を引くようにして俺達は酒場を後にした。