作品タイトル不明
抜け道探し
中央広場から大市を通って、軍学校とは真反対にある町外れからさらに先。領都を囲う壁の向こう側に寄せ詰めの廃材で築かれた街。
そこへ、俺とエイラは腹の足しを持参して踏み入る。
「よかったのか? こっちに来て」
「構わないわよ。乗り掛かった舟でしょ? それに、ゼネスさんがどうするのかも気になるもの」
ここへ来る途中、大市でジェイド達の姿を見かけた。
ジェイドとキューティーは出店をあちこち見て回り、ヨハンとリミアは腰を落ち着けて食事を。ケイトは・・・よくわからねぇ本を並べた露店で釘付けになっていた。
どこも俺といるよりは楽しそうだったが、エイラは気にせず俺と一緒に来るようだ。
「俺がどうするかを知ったところで、お前になにか意味があるとは思えねぇんがな」
「そうかしら? より貴重な体験はこっちだと思うけれど・・・鼠の王様っていうのも気になるし」
「まぁ、表に出ないような奴から話を聞く機会なんざそうはねぇとはいえ、その経験が役に立つなんてことも、そうは起こり得ねぇはずだけどな」
ついてこられたからどうってことはねぇが、相手方に警戒はされるかもしれねぇな。
なんてことを考えながら貧民街を歩く。
「まずは抜け道を探すんだったか?」
「確かそう言っていたわね。目印は洗濯物に隠れた旗だったはずだけど・・・」
ざっと見た感じ、表に干されている洗濯物はない。
っつーか、流石は栄えてる町にある貧民街だ。かなり規模がデカい。
ここを全部自分の足で回るのは骨が折れるな。
「どうするの? 手わけでもしましょうか?」
「いや、連絡して合流も面倒だしな。ここは”こいつ”に頼るとするさ」
俺は両腕に抱えた袋を示す。
「その大量の串焼きに?」
「ま、見てろ」
腹の足しにと買った出店の串焼き。
サイコロ串肉サラダパンの店もあったが、ここにはアレを好物とする誰かはいねぇからな。手に持って歩きながら食べやすい串焼きを選んだ。
俺とエイラは道中、この串焼きを食べて空腹を満たしたが、俺の買った串焼きはまだまだ大量に袋の中に残ってる。
当然、購入時にエイラから、
『そんなに買ってどうするのよ?』
とは言われたが、とりあえず食えと串焼きを渡すだけ渡して説明をサボった。
そして、その意味を。今から見せようってわけだ。
固く閉じられていた袋の口を開ければ、肉の焼けた香ばしい匂いと少し甘いタレの香りが周囲に広がる。
すでに満腹を感じている俺達には勘弁してほしいものだが、常に空腹に支配されている貧民街では悪魔の誘惑と言ってもいい代物だ。
これに耐えられるのはありもしねぇ誇りを持ったつもりの半端者だけ。欲望に忠実な子供や、余計なものを捨て去った老骨なんかは、すぐに寄こせと集まってくる。
今回集まったのは子供ばかり。
「それちょーだい!」
その中の1人が背伸びをしながら、両手を伸ばして訴える。
「探してる場所がある。そこへ案内してくれるなら、いいぞ」
「どこ?」
「洗濯物を干してる場所だ」
「変態・・・?」
「そうかもな」
最初に話しかけてきた子供に串焼きを手渡しながら、先導させる。
「こっち」
串焼きを受け取った子供は即座にかぶりつき、タレで汚れた顔も拭かずに指を差して動き出す。
周りにいた子供達も、あっちにもある。こっちにもある。と服の裾を引っ張り懸命に主張する。
全ては空腹を満たすため。
動物や、モンスターの習性を利用するのと同じだ。
この大量の串焼きは、無駄な出費なんかじゃねぇ。
知らねぇことは知ってる奴に聞くのが早い。
そのための先行投資ってやつだ。
どうだ? と、エイラを振り返ると―――
「悪いことだとは言わないけれど、そう得意気にされても困るわね。他に方法はなかったのかしら? あまり一緒に居たいとは思えない状況なのだけれど・・・」
渋い顔でため息をついて、額に手を当て首を振る。
簡単な仕事をこなすだけで、子供は空腹を満たせる。俺は情報を得られる。
悪い取引じゃねぇと思うんだがな?