作品タイトル不明
独白
「くだらない話はここまでだな」
空を見上げ、話を切る。
幾何かすれば日が傾き、茜が 滲(にじ) む。
皇都とは目と鼻の先ではあるが、無駄に夜の闇に飲まれることもない。
慣れないうちは暗い中での舗装されていない道は歩きにくいだろう。
「暗くなる前に帰るぞ」
「・・・待ってください」
呼び止めるのはリミアだ。
ほんの、一瞬の間を取って話し始める。
「私の母は、長らく患っていました」
自らの正義を。
「父は医者を呼びはしましたが、教会に頼ることをしませんでした。詳しい理由はわかりませんでしたが、父が言うには今の教会は信じるに値しない、と・・・ですが、母は信仰心の強い人でした。どんな時も神様は見ている。それが口癖で、何回聞いたか覚えていないほど・・・」
思い出すように眼を瞑りながら。
「母が亡くなった時、たくさんのあしざまな言葉を聞きました。母に対するもの、私に対するもの、父に対するもの。その中に、恋だのと抜かして娶った若い 後妻(ごさい) も病になったら見殺しか。俺達の生活もどうなることやら・・・というものがあったのです」
領主ともなれば、小さなことでもなんだかんだと言われるものだ。
庶民のくだらない嫉妬だと吐き捨てられるものでしかない。
だが・・・?
「私は母の歳など知りもしませんでしたが、そういわれるのならそうだったのでしょう。ですが・・・それならばなぜ、父は母を娶ったのでしょう? 教会を信じる若い母を。そして、母はなぜそれほどまでに神を信じていたのでしょう?」
そこだ。
今の教会を信じていないにもかかわらず、若く信仰に厚い後妻を迎える理由。
幾つか考えられる線はある・・・それが親のことだというんだから、気になるのは当然だ。
「私はそれらを知るために教会に入るつもりでした。母の信じた、人を救う教会こそが正しい姿だと思って・・・。それすらかなわず今はこうしているわけですが、それを・・・」
俺を見上げるリミアは少し躊躇って、
「先生に押し付けたのは私の落ち度でした。申し訳ございませんでした。考えたらずだと言われても仕方なかったと、反省しています」
恥ずかしそうにして頭を下げた。
謝るか。
しかもそのために、なにがいけなかったか、まで話すとは・・・恐れ入る。
「周りが見えなくなるなんてのはよくあることだ。思いのほか集中してたってことだろう? 気にするな。そのうち笑えるようになる」
「私は笑い話にする予定はありませんので、そちらもそのつもりでお願いします」
そう言ってあげられた顔が赤いのは、夕日のせいにしておいた方がよさそうだ。
ほんのり薄暗くなった皇都への道を歩きながら話す。
「昨日と今日でちょっとは冒険者ってのがわかったか?」
「連日、有意義とは言えない内容ですので言明は避けるべきでしょう」
「先生の性格がよくないってのは分かりましたよ!」
「ハッ! いい子ちゃんで冒険者なんざ出来るかよ」
「であるのなら、私たちの発言は冒険者らしいと言えるのではないでしょうか?」
「だったら僕ら、昨日と今日で冒険者らしくなったってことだよね?」
「失言でした」
そんなことを言い合い、笑う。
「それで? 次はどうする?」
「次ですか? やはり早い方がいいのでしょうか・・・?」
「じゃぁ明日ですかね?」
明日・・・。
今日の続きからとなると、魔法を使えるものにすることか。
今日やったことと言えば、初級以外の攻撃魔法の発動と暴発だけだからな。
これだけ見ると一日なにやってたんだって話だな。とてもじゃないが有意義とは言えない。
そうなると、やはり戦闘訓練か。
しかし、
「・・・・・・・・・」
「どうしたんですか?」
「あまり見つめられても反応に困るのですが・・・?」
「いや、お前らのその装備はどうしたもんかと思ってな・・・」
二人の身を固める心許無い装備を見てしまっては、戦闘訓練などとは言っていられなかった。