作品タイトル不明
南の領都にて
「それじゃ本日はこの町に停泊しますんで、なにかあれば商会窓口で相談してください。出発は明日の昼になります」
そういって隊商は雑踏の中へと消えていき、俺達はホテルの前でそれを見送った。
今日はここ、南の辺境伯領が最大の町。領都セイルスルーで1日を過ごす。
そして、明日。俺達は国境越えとなる予定だ。
だから、
「今日は自由に過ごしてもいいが、明日からは国境を超え。そうするとしばらく次の町はねぇから、あんまりはしゃぐとしんどいぞ」
それらしいことは言っておく。
あくまでも俺達は隊商の護衛。近くに町や村のない道を進む場合には、途中でモンスターに襲われやすい。戦闘になることが多いってことは、ここでくたびれていくわけにはいかねぇってことだ。
「それはもちろんなんだけど、それならゼネスさんはどうするのかしら? このままホテルへ?」
「いや、俺は確認しておきたいことがあるからしばらく外すぞ」
「そう、じゃあ私達も。それぞれ気になるところでも回りましょ。夜にはちゃんとホテルに帰ってくること。いいわね?」
全員にキチンと了承させるエイラの姿はまるで母親だな・・・と。思いながら背を向け、目的の場所へと歩き出した矢先、
「それで、どこに行くのかしら?」
「は?」
隣を見ればエイラの姿が。
あいつらはどうした? 急いで振り返ってみたが、あいつらはあいつらでもういない。なんとも早い行動で。
「・・・なんのようだ?」
「ゼネスさんが気になってることってなんなのかなって。それに、私だって面倒を見てばかりは疲れるじゃない?」
「それは俺も同じことだと思わねぇのか?」
「あら! そういう契約だって、サンパダさんから聞いていたのだけど・・・違ったかしら?」
確信的に顎先へ人差し指をあてながら首を傾げるな。腹立たしい。
「それで? どこへ行くの?」
行先も知らねぇくせに前に出て、立ちふさがるようにこっちを向くな。やけに楽しそうな顔が憎らしさすら覚えさせる。
「そんな楽しいところじゃねぇぞ」
「大丈夫、期待してないから」
まったく。どこまでも失礼な奴だ。
「で? 本当になんのようもないのか?」
目的地に向かう道すがら、エイラにもう一度確認しておく。
「そうね? これと言っては特に。ホテルに残ってもやることがなかったからっていうのが一番かしら?」
「別に1人で町を回ればよかったんじゃねぇのか?」
「目的もなしに歩き回ってると途中でジェイド達に出会いそうでしょ? そうしたらまた、面倒を見なきゃいけないかもしれないじゃない。毎度毎度面倒事を起こすとは思ってないけれど、ないとも言い切れないのよね」
はぁ、とため息をつくエイラ。
今までも色々とあったんだろう。主にジェイドと、それにくっついているキューティーのせいで。
あいつらは貴族らしい貴族・・・っつーとアレだが、自分の都合を優先しすぎる時があるのは見てればわかる。そのたびに頭を下げるのは周りの人間だ。
同じ貴族の娘たるエイラがそれをやっていたとは思わないが、そのための人間を用意したりとか、そういう間接的な仕事はやっていたと見ていい。
時折見せる母親のような姿は、その面倒見の良さから出たものだろう。
「でも、その点ゼネスさんと居れば! 責任はあなたが取るべきでしょ? たまには楽もしないとね。それに、ここで疲れるわけにはいかないって言ったのはゼネスさんじゃない? だったら、ねぇ?」
なにが、ねぇ? だ。わかってるでしょ? で話を進めるんじゃねぇよ! そう言ってやりたいが、
「わかったから。そのわざとらしいのはやめろ」
論理的にここからの逆転は難しい。
それなら、そこに力を入れるより早々に諦めしまい同行については許可し、せめてその鬱陶しいあざといまでの甘えた態度をやめさせるべきだと判断した。
「お気に召さなかったかしら? 皇都の社交界では年上の方にはそれなりに人気だったのだけど」
「見え透いた態度は鼻に付く。本性っつーか、普段を知ってるからな」
「それは――そうかもね。でも、普段と違う異性の姿にキュンと来たりは・・・」
「すると思うか?」
「思わないわね。折角だから甘やかしてもらおうと思ったのに。失敗だったかしら?」
「自問自答も結構だが、ちゃんと前見て歩けよ? 思ってた以上に人の数が多い」
「っ! っと、確かにそうね。もう街外れのはずなのだけど、この先にはいったいなにがあるっていうのかしら?」
言ってる側から肩をぶつけそうになって身をよじっているエイラ。
にしても・・・すれ違う連中はどいつもこいつもガタイがいい。ただ、その割には雰囲気が暗いのが気になるな。
なにがどうなってんのか?
あまりいい予感はしないが、見ておかないわけにはいかないんだよな・・・。