作品タイトル不明
side――ゴルドラッセ1
本当に。本当に、強くなられた。
涙を流し、惨めに喚き、歯を食いしばって這いつくばっていたあの頃。
なにもかもを諦め、悟ったように無表情で、いつしか狂気に染まり、全てに抗うが如く歯向かってきた。
そんないつかの面影など、微塵も感じさせないほどに。お強くなられた。
「駄目だ‼ 密集するな‼ 距離を取って魔法で――うわぁあああ⁉」
「まず動きを抑えろ‼ じゃないと魔法も発動できない‼」
「無理だ‼ 見ればわかるだろ‼ こっちからは近付けない‼」
「その槍は飾りか⁉ 同じ武器だろ⁉ だったら同じことが出来るはずじゃないか‼」
「ならお前がやって見せろよ‼ どうやったら、こんな硬い槍の柄を一刀両断に出来るって言うんだよ‼ あんなのが腕にでも当たってみろ‼ どうなるか・・・わかるだろッ⁉」
少々経験が浅いとはいえ。若く、勢いもあり、それなりに訓練を積み、自信を纏っていたはずの精鋭達が、いとも容易く叩き伏せられていく。
遊ぶように、踊るように、悪戯のように。
奪った武器をまるで自分の相棒の如く振り回し、あまつさえ笑みを浮かべながら1人、また1人と沈めてしまう。
魔法の1つも使わせられないとは。我が軍のなんたる様か・・・。
それに加えて、
「軍団長‼ どうしましょう⁉ 捕虜が‼」
好きに振舞うゼネス様より遥か奥。その教え子達が、私の部下を無傷のままに翻弄しているではありませんか。
これには、今まで築きあげてきた私の矜持も揺らがざるを得ませんな。
それと同時に、我が目に狂いはなかったと。誰もに自慢したくもなりました。真に心強き者こそ、指導者に向いているのだと。
しかし、困りましたな。
このままでは全体の士気も下がりますし、なによりゼネス様が言うことを聞いてくれそうにありません。
いえ、昔から私の言うことなど真っ直ぐに聞いていただけたことなどありませんから、力で示して従わせてきたのですが・・・それが出来なくなってしまいます。
そうなると、グラン様の領主としての地盤が揺らいでしまい、結果として軍の弱体化にまで繋がってしまう。
過去の戦争を知る身としましては、それだけは避けねばなりません。
かといって・・・、
「軍団長‼ 指示を‼ 軍団長‼‼」
情けなく私に縋ってくる部下達ではどうしようもないのかもしれませんね。
もう少し頭も鍛えるべきだったでしょうか?
戦力の推し量り方も、戦力差のある相手との戦い方も、緊急時の対処方法も、全て事あるごとに徹底して教えてきたはずなのですがね。
必要な時に発揮できないのであれば、身についていないという証拠。であれば、私のやったことは意味のなかったことということに。
そう思うと不甲斐無さやらやるせなさ。果ては怒りまで覚えてしまいます。
それに比べて―――。
目を見張るような槍裁き、寸分違わぬ間合い管理、圧倒的実力差による敵の掌握。正に威風堂々といったところでしょうか。
部下達の声の中には、近付くな! といったような言葉が聞こえてきますが、それすらも間違いです。
ゼネス様はその場を1歩たりとも動いておりません。
より正確に言うならば、最初の1歩を踏み出した位置からまったくもってブレていません。
その地点を中心に。腕を伸ばし、槍を長く持ち、全身を傾けて、射程を調節しているのです。その逆に。腕を畳み、槍を短く持ち、全身を絞って近距離にも対応している。
普段は槍などお使いになられないでしょうに、どこでそれほどの技術を手に入れて来たのでしょうか?
それとも、幼少期に私が施した訓練で体得していたのでしょうか? そうであれば、私としてはこれ以上ないほどの僥倖なのですがね。
違うのであれば、是非その人物にも会ってみたいものです。きっと、とても楽しい思い出話が出来ることでしょう。
しかし、
「どうした? こんなもんか? っつーか、よかったのか? ゴルドラッセ。お前の部下、もう半分になっちまったわけだが?」
「そのようですな。困ったものです。もう少し、軍人としての自覚を持っているものかと思っていたのですが・・・・・・」
どうしたものでしょうな?
あまりの実力差を見せつけられたおかげか、ゼネス様を囲んでいた部下達が戦意を挫かれてしまっています。身体は無傷だというのに、どこまでも情けのない。
「残念だったな。自覚どころか、実力すら足りてなかったみたいだぜ?」
親指で後ろを指差す。
どうやら、奥での戦闘にも決着がついたようです。
まだ幼い少年少女にのされた部下達がまとめて縛り上げられています。
折角の手札でしたが、奪われてしまっては仕方がない。
後々に奪い返すためにも、その理由を聞き、処遇を検め、部下達も奮起させねば。
「それで、ゼネス様はあの方を私達の手から奪って・・・いったいどうするおつもりなのでしょうか?」