軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

正義と偽り

「どこへ行くんだ? ゼネス」

「部屋の片付けを投げ出したままだったので部屋へ戻ります」

「食事はどうする?」

「要りませんよ」

気になることを確かめに部屋を出ようと扉に手をかける。

「――待て」

「なんです?」

「まだ・・・答えを聞いてないぞ?」

なにのことだ――と思ったが、そうか。

「要りませんよ」

俺なんか。どうせこの地に残ってもなにも変わらないさ。

軍団長なんて地位も、混乱を招くだけの俺という存在も、兄上には必要ない。

「・・・そうか」

兄上は俯き気味にそれだけ呟き、部屋を後にする間際にまた、小さく。そうか・・・と繰り返していた。

折角にぎわっていた食卓の雰囲気を壊したのだけは申し訳ないが、踵を返して向かうのは特殊房。

本当に戦争が起きるってんなら、俺だって。意味なんざなくとも、厄介に思われようとも、例え必要とされてなかったとしても。この地に残って軍にも入る。それが御父上の軍門に降ることだとしても、構いやしねぇ。

ここには守るべき、守りたいと思う家族が居るからな。

兄上の存在は俺にとって、これ以上ないほど大切なものだからだ。

父を知らず。母は・・・いつもあちこち飛び回っててどこにいるのやら。そんな中で兄上だけが気にかけてくれた。もちろんその息子も無条件に守るべき対象になる。過去の仲間達と比べても、遜色ないほど大切な存在だ。

だが、であればこそ。

「戦争なんざ起こさせるつもりはねぇからな」

兄上の悩みは兵達からの信頼のなさ。

その原因は戦争が起こるんじゃねぇかっつー緊張から来ているに違いない。じゃなきゃこんな時期に不満が出たりしねぇ。いつもなら祭りに浮かれてる頃だぞ。

甥っ子の悩みは正しさの証明。

刷り込まれてきた正義は本当に正しいのか、罪なき者を罰するのが正義か。っつーしょうもねぇ話だ。確証なんざ存在しねぇんだから、自分がそれを正しいと信じれるかどうかだ。

そのためにも、

「――なにがあった?」

「なにが・・・って、なにがよ!」

俺はこの女から出来る限りの情報を引き出さなくちゃならねぇ。

「お前はここの後継者争いの話を誰から聞いた?」

「誰からって。なんでアンタにそんなこと――」

「間者がいるかもしれねぇからだ」

「アタシのこと馬鹿にしてるわけ⁉」

「とんだ馬鹿だから捕まってんだろ・・・ってのは置いといて、そいつは本当に信用できるんだろうな?」

「ぐッ‼ ・・・当然でしょ! 古くから帝国を支えてきた生粋の軍人よ! 少し前までは諸外国の情報を集める任務に就いてたから帝国を離れてたけど、その忠誠心は疑いようがないわ‼」

「その任務中に抱きこまれたって可能性は?」

「くどいわね‼ 誓いの儀でもなんの問題もなかったわよ‼」

誓いの儀っつーのは魔法による真実の証明――だったか? こっちではあんまり聞かねぇが、確か宣言に偽りがあると魔法が使えなくなるとか。結構きつい縛りがあった気がするが・・・それが問題なしってなると寝返りの可能性は低いか。

「”己の誓いに偽りなし‼ 帝国に自由の風を‼”の宣言は胸に来るものがあったわ‼」

拳を胸の前に握り締め、語る顔には興奮の影。嘘はついてなさそうだが。

それにしてもどっかで聞き覚えのある・・・って。そんな、まさかな。

「じゃぁ他の奴はどうだ?」

「そんなことわからないわよ。アタシは歓迎されてなかったから、ほとんどその人としか話てなかったもの」

「ならやっぱり・・・? となると、軍の上層部からそう言う指令が出てたとか?」

「それもないわね。あの人の口癖って”正義なんてのは自分で決めるもの”だし、私もそう思ったからこうして停戦を取り付けに来たんだもの」

こいつはその軍人とやらのことを随分信用しているようだが、その軍人からしたら今の状況は悲惨この上ないな。

自分の言葉を信じる奴が、自分の言葉を真に受けて、自分の知らないところでやらかしてんだから。しかも立場上おそらくこいつが上司だろ? 貴族の息女で指揮総司令が自分のせいで処刑なんてことになったら、どうするんだろうな?

「それで? なんで間者なんて話になってんのよ?」

「ここの後継者争いの話な。領内には出てねぇんだよ。なのに――」

「国外には出てる・・・なるほどね。確かに内通者が居るって考えるのが普通よね。けど、それならアタシの側じゃなく、アンタ達の方ってこともありえるんじゃない?」

「そりゃぁな。だが、それで一番怪しくなるのが御父上なわけだ」

「アタシの話も聞こうともしないで、しかも決まりだからってアタシを殺そうとしてる領主ね・・・そこまでして戦争がしたいのかしら?」

そこなんだよなぁ。

「今、戦争をする意味があると思うか?」

「それをアタシに聞くわけ? そんなのアンタの父親に――って碌に顔を会わせたこともないんだったわね」

兄上の下へ顔を見せに行く前にある程度のことは話して協力を取り付けておいた甲斐があるな。話が早い。

「肚の中どころか、なにを見てるかも知らねぇよ」

「どうすんのよ⁉ 予定変更とか言ったら、ただじゃ置かないわよ‼」

「そん時にどうにかなってんのは俺じゃねぇだろ」

「呪ってやるって言ってんの‼」

呪われたところでどうってことはなさそうだが、戦争は無しだ。

「連絡は?」

「出来てなきゃ死ぬだけよ‼ そっちこそ、ヘマしないでよ‼」

「言われるまでもねぇ」