作品タイトル不明
全てが崩れ去る条件
引っ掛かるな。
もう少し状況を整理してみるか。
今この領地には世代交代の波が来ている。
それは領主だけでなく、大規模な軍をまとめる要になる軍団長もだ。
その中で領主には兄上の、軍団長には俺の名前が上がった。
兄上は嫡男であり正当な継承といえるが、俺の方はそうもいかない。
加護を持たないことが発覚した件で領内は騒然とした過去がある。そして、そのことを知らない領民なんざいねぇといっていい。だから、俺の名前が上がることに不信感を覚えたはずだ。
その不信感が俺を軍団長に。ではなく、領主に挿げ替えようという動きがあるんじゃねぇかっつー疑惑を生んだ。これが噂の正体。
ここまでは妥当な・・・というか、あり得そうな話だ。真偽がどうであれそう言う過程だったと言われれば納得できる。
問題はここから。
その噂をなぜか国外に流した奴がいる。
そいつは恐らく敵方、つまりは帝国側の間者であり、軍内部に潜んでいる可能性がある。
さらには、その噂を聞いてなぜか敵軍の指揮総司令に就いたばかりの帝国貴族の中でも上位の家柄の娘がこの国にやってきて拘束された。
年越しに合わせて悪趣味な祭りが催されるのはこの辺りでは周知の事実。
そこへ単身で乗り込んでくるなんざ無謀の極み。普通ならありえねぇどころか、周りが止めるはずだ。
だが、現にことは起こっている。なにより――
――娘。つまり女だってのが問題だ。
ここに来るまで、実物を見るまでは男だと信じて疑わなかったっつーか、女であるとは微塵も考えてなかった。
なにしろ、全てにおいて”弱すぎる”からだ。
まず軍の指揮総司令としての威厳がない。若い男でも務まるとは言えねぇのに、小娘ともなれば誰も従わないだろう。そのことを決定付けるのは皮肉にも兄上の存在だ。
兄上は男で、歳はそれなり。にもかかわらず腕っぷしの強さが足りねぇと兵士共になめられている。これがさらに若い女ならば組織を維持するなど不可能だろう。
次に交渉材料としても優先度が低い。
帝国の貴族が! 軍の指揮総司令が! 自らの意思を貫くため、勇敢にも単身で敵国に乗り込んだ結果。卑劣にも敵方はこれを有無を言わさず拘束の上、晒しものにして処刑し。あげく、我々の誇りを笑いものにした‼
事実をもとにこの文面を掲げれば戦争をするにはあまりある力を持つが、その本人が女と知れていれば周りの反応が変わってしまう。
そもそもなぜ1人で向かったのか? 止める者はいなかったのか? その程度のことも考えられなかったのか? といったように、男ならば勇敢と称される行動も、女がすれば場違いな行為となってしまう。
そして最後になるが、これが一番問題だ。
聞こえが悪い。
あるいは姿勢が悪いと言ってもいい。世間体や風体、外から見た時の見栄えが悪いんだ。
貴族の男女の違いはどの国も大体同じ。であれば、交渉の場に女を出すということの意味はどうなるか?
そう、相手を下に見ている。見下しているからこそ、交渉の場に責任者として女を出す。敬意も理解も必要ない相手だと、周りにわかるように接しているようなもんだ。
そうなりゃ戦争になったとしても、諸外国は帝国のことを責めるだろう。
『交渉に女を使わせたことで怒りを買った』『当然の報いだ』と。
そうまでして戦争を引き起こしたいのは誰だ? なんの得がある?
帝国が汚名を被ってまでそんなことをやりたがるか?
あるいはカーナとかいうあの女を消すことに、それだけの価値があるってのか?
・・・駄目だな。流石に、これだけの情報で向こうの肚を読めるわけがねぇ。
けど、
「もしかしたら、間者なんてのは・・・・・・」
前提が違っていたら?
間者なんて存在しなかったなら?
帝国に泥を被せてまで戦争を仕掛けたい人間が、こちら側にいたとするならば?
それは間違いなく―――御父上っつーことになるよな?