作品タイトル不明
答えなど知っているくせに2
え⁉ という反応を見せたのはジェイド達。
「・・・どういうつもりですか?」
続く俺の返答にもギョッとしたように視線をズラす。
すぐに突っぱねるとでも思ってたんだろう。
だが、兄上がこの期に及んで伊達や酔狂でこんな話はしねぇはず。だったら、その理由ぐらいは聞かなきゃならねぇだろ。
「立ったままというのも疲れるだろう? 腰を下ろして話し合わないか?」
一度流れを切るように神妙な面持ちで促す。
細長い長方形の机。短い辺には兄上が、向かい側にはジェイド達が座わっていて、すぐ手前にある椅子は兄上に一番近い位置。
話をするのに申し分ない位置だと手を伸ばすが、バロンの存在に気付く。
甥の為に一つ空けるべきか? と逡巡する間に。バロンは俺の後ろを通り抜けて兄上とで俺を挟むように座った。
出来るならこの聡い甥のためにも、より良い選択を取りたいもんだが・・・さて、どうなるか。
椅子を引き腰を下ろすころには腹を決める。
「それで? どういうつもりなんですか? 兄上。俺に、この地に戻れだなんて」
「戦争が・・・起こるかもしれないのは知っているな?」
落ち着きを取り戻そうとしていたジェイド達がまたざわめく。
「残念ながら、心当たりはありませんね。それに、今も戦時中ではありますよね?」
「そういうくだらない問答がしたいわけじゃないのはわかっているだろうからあえて言うが、このままでは近く。帝国との戦争が激化することになる」
「理由は?」
「言うまでもないだろう」
「言うまでもない・・・だとしたらおかしいでしょう?」
「どういうことだ?」
「どっちが先かって話ですよ。処刑が理由なら、その原因となった後継者争いの話がどこから出たのか。誰が流したのかを調べる必要がある。逆に、後継者争いを聞きつけてその隙を突いてくるなら、あの捕虜をいきなり処刑台に送る理由がない」
ここで今、なにが起きてるのか。あまりにも乱雑としすぎている。
毎年公開処刑が行われる悪趣味な祭りの時期に、なぜか単身で乗り込んできた敵国の将。
そして、来訪そうそう逮捕拘束されたと聞かされていたその敵国の将は、実際には数日前まで来賓として軟禁されていただけで処刑の候補者ではなく、そんな事実すら知らなかった当事者。しかも女だ。
さらにはそこへ降って湧いた後継者争い。
俺がこの地に寄り付いてないのは関係者なら知らねぇはずがねぇ。にもかかわらず、領地内どころか敵国にまで流れる噂。その噂を基にやってきたという敵国の将。
なにが正しい?
仮にすべてが正しかったとして、その順序は?
なにより、誰がそんなことをしたのか?
「それに、俺が戻らなければならない理由も。まだ聞いてませんしね」
兄上が考えたんじゃないのはわかっていた。
そうなると黒幕は1人しかいない。
御父上―――そう思っていた。
だが、
「ゴルドラッセに言われたんだ。こんな時に私を支える人間が必要ではないか? とな。不甲斐無い話だが・・・今領内、いや軍内部といった方がいいか? それを私がまとめきれていなくてな」
予想外の名前が飛び出す。
「それでアイツが俺の名前を?」
「ああ。私も驚いたよ。ゴルドラッセがお前の名を口にしたことなど今までなかったからな」
だとすりゃぁゴルドラッセが噂を・・・? いや、そうだとしてもその裏にいるのは変わらず御父上でいいはずだ。
あの軍団長を顎で使えるのは他には誰もいねぇんだから。
「しかし、その理由はわかっている。私に統率力がないからだ」
「なんでそうなるんです?」
「父上は今、なにかをしようとしている。それがなにかはわからないが、そちらに力を注ぐために私が領主代行になった。そこまではそうおかしな話ではないだろう。だが、私は父上のように強くはない。ここの精鋭と呼ばれる兵士たちと比べても見劣りするんだ。それが原因で侮られているのか、軍事遠征の際など。作戦に不満をあげられたり、従わないものが出たり。その度にゴルドラッセが諫めてくれたが・・・」
言われれば目に浮かぶ光景ではある。
兄上は優しい。それは外見にも表れている。
だが、それでなめられるのはおかしい。
「兄上は単純な強さよりも、貴族としての交渉力を重視して育てられたでしょう? 上級貴族とはかくあるべきと。辺境伯といえば聞こえはいいが、歴史もない。血筋もない。戦争で成り上がった蛮族呼ばわりされていたのをどうにかするために、品格とやらを身につけさせられた。それを――」
「いいんだ。お前だけじゃなく多くの者そのことをわかってくれているのは承知している。ただ、腕っぷしで成り上がったというのも間違いではなく、それらを統括するには単純な力の強さも必要だったというだけだ。父上には学のなさや品のなさを感じさせないだけの英雄的な魅力があった。それが私には受け継がれなかったというだけなんだ」
今までは・・・じゃぁねぇな。育てている時に不満は上がらなかった。
それは御父上やゴルドラッセが不満を押さえつけていたか、あるいはその時にそんな不満がなかったか。
しかし。その当時の兵士が親になり、そいつらの子供が今の兵士ならば、そんなことは知らねぇと。仮初の、想像の中だけの戦争しか物差しがねぇから、強さ以外で測れねぇと。そういうことか。
つっても、
「ゴルドラッセに任せればいいでしょう。それがアイツの役目だ」
相手にとっての絶対的な強者であるゴルドラッセが兄上に跪けば、時間はかかるかもしれないがその内そういうものだと理解されるはず。
なにも俺である必要はない。
「ゴルドラッセがいる間は、な。ゴルドラッセは父上よりも年上だ。そして、その父上の代行は私に任された。つまり――」
「俺が軍団長に?」
「恐らく・・・後継者争いとはそのことだ」