作品タイトル不明
答えなど知っているくせに1
遥か幼少の砌を最後に思い出すこともなかった扉の向こうが、記憶にないほどの賑やかさを見せていた。
「随分騒がしいが、お前ら兄上に迷惑かけてねぇだろうな?」
かつて。シン――と食事を済ませた空間に、こんなに人が集まるとは思いもよらず、開けたそばから警戒するかの如くチクリと嫌味が差す。
「大丈夫だ。お前が心配するようなことはなかったよ。むしろ皆、大人しいほどだった」
「なんで兄上がそんなことを知っているんですかね?」
「それはもちろん、私がこの要塞を案内したからに決まっているだろう?」
「はぁ・・・こんな時期の領主代行というのは忙しいものでは?」
「忙しいというのは否定しないさ。だが、何事も。かかりきりになればよいというものでもあるまい? 休息も、時には必要なことのはずだ。なぁバロン?」
兄上はそんなことなど知ったことではないと、それっぽいことを並び立ててから、俺が後ろに連れていた自分の息子に話しかける。
「なにか掴めたか?」
「それは・・・・・・」
抱き上げるようにして持ち上げられる過程で、バロンがチラとこちらを見るが、
「ちょっと難しかったかもしれません」
視線を合わせるだけで会話になるわけでもない。
その顔が不安に見えたのは考えすぎってもんだろう。
「そうか。まぁそうかもしれないな。昔から、ゼネスは難しいことばかり考えていたからな」
「好きで考えてたわけじゃありませんよ。昔も。――今も」
今度は兄上と見合う形になるが、兄上なら今の言葉の意味も分かるだろう。
俺がなにかを企んでいるということも。
それが、直近で表沙汰になることも。
「それならいいのだがな。お前も、もし悩んでいるならこの兄に話してくれ? 少しは力になれるだろう」
「そういうわけにはいきませんよ。お手を煩わせてはまた不満が上がる。俺は俺に出来ることだけしかやりませんから。どうぞ毅然とした態度でお願いします」
だからこうして手伝えることは? と聞いてくれるが、それに頼ると面倒なことになるからな。”なにも知らなかった”というのが状況的に一番ありがたいとそれとなく伝えると、小さく。
仕方がないな・・・そう零して話題を変えた。
「それにしてもゼネス。皇都では随分活躍したそうじゃないか? 兄として鼻が高いぞ?」
「大したことをした覚えはありませんが、そんなことで盛り上がっていたんですか?」
「あのワンダーゴーレムを単独で討ち取っておいてなにを言う。ここにいるお前の教え子達も、それはもう素晴らしく頼り甲斐のある背中だったと言ってたぞ?」
あからさまにふざけた口調であり得もしないことを言う。
一応ジェイド達の方を見るが、全員がブンブンと首を振っている。
「いくら子供相手だからといって、話ぐらいはきちんと聞いてやったらどうですか? それとも、激務のせいで途中からは夢でも見ていたのでは?」
「ははははは! 酷いことを言うな? 確かにお前のことを聞いていた中で、素晴らしいも、頼りがいがあるも聞いた覚えはないが。せめて心の底では、そう思われていて欲しいと願う兄心まで否定するのはどうなんだ?」
「そんなことをするから、くだらない噂話が広がるんですよ。尾ひれや背びれまで付けた状態でね」
思うのは勝手だ。
だが、言葉に出すとどうなるか・・・知らねぇはずねぇ。
なのに、なんでだろうな?
「・・・例えば?」
「後継者争い」
特殊房に捕まっていた帝国貴族の息女。名前はカーナ。
そいつはこのグラーニン辺境伯領で後継者争いが起こると聞いて、単身。停戦を取付ける為に乗り込んできたらしい。
根も葉もない噂。
だが、そんなものが国内いや領内ならまだしも、滅多と人が通らない橋の向こう。敵国の人間にまで届くだろうか?
「なにか。身に覚えはありませんか?」
ふぅ、と一息。
兄上は預けていた背を離し、前掛かりになって述べる。
「帰ってくる気はないか? ゼネス」