作品タイトル不明
変な奴1
先程までの牢屋前よりもいっそう暗い廊下。
特殊房は鉄格子ではなく厚い鉄扉で閉じられており、中には窓もない。
故に廊下側の灯りがあまりに強すぎると囚人の目が焼かれてしまう。
それを避けるために最低限の灯りを天井の隅に配置している。
すると当然だが。どこが使用中で、誰が捕らえられているのか。一目では分かりずらくなっている。
カツンカツンと足音を鳴らしながら、丁寧に扉の前で名前と罪状を確認しながら目当ての人物を探す。
だが、それらしいものは見つけられず。
しかし。
「なんにも書かれちゃいねぇが・・・他に使用中の部屋はねぇ。っつーことはここがそうってことになるんだが――」
使用中にもかかわらず、名前も、罪状も、なにも書かれてない部屋を見つけた。
「どうするの?」
「お前は顔を見たんだよな?」
「う、うん。近くではっきり見たわけじゃないけど、覚えてるよ」
「なら、これを開けて確認するしかねぇだろ」
未だ幼いがため身長の足りない甥を抱き上げて、目線の高さを合わせる。
そこには唯一、中の様子が見れる開閉式の小窓がある。
「開けてみろ」
両手が塞がっている俺の代わりに、俺の両手を塞いでいる張本人であるバロンが小窓を開ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
2人で覗き込んだ部屋の中には、1人の女が眩しそうに目を細めてこっちを見上げていた。
「女・・・?」
「この人⁉ この人だよ! 叔父様‼」
そして案の定、こいつが件の人物だったわけだが・・・――、女か。
ここまで、俺は目の前の人物を男で想像していた。
だからよっぽど自信過剰な奴か、大層な夢を描いた奴か、あるいは。親の言いなりになるだけの操り人形見てぇな奴だと思ってた。
だが、女だった。
そうなると話が変わってくる。
本物の頭お花畑がありえるからだ。
これは断じて男女差別ではないが。
貴族の子育てにおける方針は、男女でかなり変わってくる。
理由は明確だ。
男は跡継ぎで女は嫁入り。
嫁に行くということは他家に渡るということだ。政略結婚なんざ日常茶飯事な貴族社会。最悪、敵になることだってありえる。
そうなった時、脅威にならないためにはどうするか? 簡単だ。
貴族のどうこうを教えなければいい。
政略結婚の道具として、男に愛される女であればいい。
だから、貴族の女子は蝶よ花よと育てられることが大半なんだ。
それが帝国でも変わらねぇなら・・・まずいな。
あらゆる意味で教育に悪い。
「どうしたの?」
俺が自分を持ち上げたまま動かないからか、痺れを切らしてバロンが話しかけてきた。
「あぁ。こいつを外に出してもいいもんかと思ってな。俺達が中に入るのと、どっちがいいと思う?」
「うーん・・・中の方が一目は気にならないかもしれないけど、話やすいかな?」
「特殊房は基本1人用だから、狭いかもな」
「じゃあ外の方がいいんじゃない? 手錠はしてるんでしょ?」
ここからじゃ碌に見えやしねぇが、手錠も足枷も外れてはねぇはず。
「そうだな。そうするか」
バロンを降ろし、扉の鍵を開け、ゆっくりと押し開ける。
ズズズズッ! 地面と扉の擦れる音が扉の重さを教えてくれる。
「・・・・・・・・・なによ?」
「出ろ」
「やっと、アタシの言ってたことが理解できたわけ? だったらこの鎖、外してくれてもいいんじゃない?」
「残念ながらそいつは出来ねぇ相談だな? そもそも、俺はお前がなにを言ってたかも知らねぇからな」
「はぁ⁉ じゃあなにしに来たのよ⁉」
なにを――って言われると困るな? 話をっつーとややこしいだろうし・・・。
「・・・教育。ってところだな」
それを聞いた女は自分の身を抱き、
「サイテーね‼」
吐き捨てるようにそう言った。
「そんなつもりは微塵もねぇよ‼」
自意識が高すぎる女に、それこそ俺は吐き捨てた。