作品タイトル不明
side―――エイラ
「君達の知っているゼネスの笑った顔というのはどんなかな?」
「どんな・・・って言われても。なんて言ったらいいか・・・」
「ちょっといきなりだったかな? じゃあ私から話そうか」
急ぎ過ぎたね。と苦笑してグラン様がおっしゃる。
「私がよくアイツの笑った顔を見ていたのは――なにを隠そうこの場所なんだ」
一瞬。意味がわからなかった。
「どういうことですか?」
だから、反射的にそう聞き返したんだけど。
「言葉通りの意味だよ」
また。今は主のいない空間を指差す。
「あそこで。ただひたすらに打ちのめされて、それでもアイツは笑っていた。目の前に理想だけをぶら下げられて、それだけを追い求めろと突き付けられて。辛かったはずだ。苦しかったはずだ。なのに、アイツは笑って見せた」
遠い。遥か遠くを見ているような目で続ける。
「もちろん、ずっと笑っていたわけじゃない。むしろ目を血走らせて、歯を食いしばっていた時間の方が長かったとは思う。今にもゴルドラッセを殺そうと飛び掛かるんじゃないかと思ったことは1回や2回じゃ足りないからね。でも、不思議と一番印象に残ってるのは笑った顔なんだ」
グラン様はどこか懐かしそうにしているようだけど、それは懐かしんでていいことなのかしら? 当時を知らない以上はなにも言えないし、今さら言ったところで・・・っていうのは、まぁそうね。
「ただし、あれは子供の笑った顔なんかじゃないかった。当たり前ではあるが、とても楽しそうには見えなかったしね。追い込まれた先に見せる笑顔。アレは見たものに恐怖を与える顔だ。普通ならそんな状況で笑えるはずがないのだから。私は、そこに器の差を感じていたんだ」
それはどんな笑顔なのかしら?
ゼネスさんの笑った顔を改めて思い出そうとしてみるけれど、そんな顔には及びもつかない。
誰かわかるかな? と皆と顔を見合わせてみても、全員首を傾げるばかりだった。
「先生の笑った顔はその・・・悪戯っぽいというか、そんな怖い顔ではなかったですよ?」
それほど大きな差はないけれど、私達の中ではゼネスさんと一番付き合いの長い2人の内のヨハンが笑った顔について話す。
そう言われれば、なんとなくだけど。そんな感じで笑った顔は想像がついた。
「そうか。君達は見たことがないのか・・・。いや、その顔も見たことはあるんだ。ほんの少し。それこそ、悪戯をした時にね」
「そんな生活の中で悪戯・・・ですか?」
「訓練中にじゃないよ? 年に何度かあった休みの時にね。私の幼い時の服を着せて町に行ったりした時のことさ。あの時だけはアイツも年相応の顔をしていたと思うよ。いつも、最後には決まって苦い顔になっていたけどね・・・」
「悪戯がバレたんですか?」
「まぁ、そんなところかな」
グラン様は曖昧に返す。
なにがあったのかしら? ちょっと気になるわね。
「じゃあそうだな・・・。怖い顔はどうだい? 見たことないかな?」
なにかが気になったんだけど、それがなにかわかる前に次の話題に移ってしまった。
「そういえば・・・」
「記憶にねぇな?」
「どちらかといえば、呆れられていた・・・とでも言えばいいでしょうか? 期待に応えられずとも、怒られることはありませんでしたね」
「そうですわね? 褒められこそすれ怒鳴られたことはなかったはずですわ!」
確かに。
蟻の事件の時ですら怒っていなかった気がする。
というより、よく頑張ったなって褒められたような・・・。
「私は。怒られたこと、あるよ。怖くはなかったけど」
そんな中で1人、ケイトだけが名乗りを上げる。
でも、
「そんなことあったかしら?」
心当たりがない。
そう思ってた。
けど、
「うん。あったよ。自殺、しようとしたから」
そうだ! そんなことがあった!
私達にとっても重大な事件だったはずなのに、なんですぐに思いつかなかったのか!
「そんなことが⁉ よく助かったね⁉」
「その、色々上手くいかなくて。悩んでて・・・それで。助かったのはゼネスさんが助けてくれた、から。でも原因もゼネスさんだったり――」
そこからは。なんでそんなことになったのかという話から迷宮攻略の話になって、私達の試練やその後のゼネスさんがワンダーゴーレムを討伐したで盛り上がり、気付けば食卓に着きながらの談笑となった。