軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変えなければならないもの

「勝手に入っていいの?」

「駄目ならもっと厳重に施錠されてるだろ?」

不安がるバロンを適当にいなす。

理由はもちろんいいわけがないからだ。

これで脱走犯なんて出した日にゃ、俺が処刑台に上がることになるかもしれねぇな。

「笑うところかな?」

「ん? あぁ。気にすんな」

くだらねぇことを考えてたら表情にも出てたらしい。

そんなことになったなら、心の底から笑えるな・・・と、そう思ってたからか。

「・・・この中ってこうなってたんだ」

頑丈なだけの錠前を外して扉を開け、立ち並ぶ鉄格子の並木道を奥へ、奥へとゆっくり進む。

「おい! 誰だてめぇ‼」

「誰でもいい‼ こっから出しやがれ‼」

その道中、何度かそういう声が響く。

静かにしてりゃ足音がこだまするほど反響する空間で、よく騒ぐ気になるなぁと感心するが、

「もうすぐ出荷の時期だろ? 誰にしたもんか、品定めに来たんだが・・・どうした? そんなにここから出たいか?」

そんな感じで聞いてやれば、悉く全員が黙った。

一々ビクビク脅える甥っ子が可哀想だったんでそうしてやったんだが、まぁまだ6歳の子供だ。犯罪者に絡まれりゃ恐わがって当然。脅えるのも無理はねぇよな。

そんなせいもあって、初めこそゆっくりだった歩みは、途中から速くなり、そそくさと最奥の特殊房を目指した。

牢屋を突っ切って、行き止まりを曲がって、さらに突き当りにある階段を下りた後の廊下の先が特殊房へ繋がる分厚い扉。

っつーか、牢屋前とここには見張りがいるはずなんだが・・・看守部屋にはそれらしい人物は見当たらず。

俺の知らねぇ間に規則が変わったのか。

それとも、兄上はここまで読んでたのかもな。

どっちにしても都合のいいことに変わりはねぇから気にせずに鍵を頂戴して中へ――と思ったところで。

「叔父様はどう思う?」

立ち止まったバロンが不意に切り出す。

「ここに来るまでに見た人たちは全員、悪い人なんだよね? 殺されても仕方ないような。なのに、あの人たちは悪びれもしないでここから出せって言ってた。でも、いざ処刑の時になると決まって泣き出すんだ。許してくれって・・・それなら。それならどうして、捕まって牢屋に入れられた時点で反省したりしないの? それが出来ないから、処刑されるの?」

なぜ今、ってのはたぶん。怖くなったんだろうな。

上にいた奴らはバロンの目には”生きる価値無し”と映ったんだ。

自分に都合のいいことばかりを並べ立て、それが叶わないとわかった時にだけ服従するふりを見せる。

そんな醜い人間よりも、この先にいる人物は悪いのかと。

怖くなったんだろう。

もし、それよりも悪ければ・・・人間として怖いと感じることになる。

だが。そうじゃなかったなら?

この扉を開けて。その先に待っている人物がた、だの善人であったなら。

自分はその人を殺さなければならない。

そのことを受け入れられねぇから、受け入れたくねぇから、今この扉の前で聞いたんだ。

「そうだな。上にいた連中は犯罪者で間違いねぇ。大なり小なり法を破って好き勝手した結果として、ああやって牢屋に繫がれてる。だから、悪い人間ってはその通りだ」

真実の前に動揺するのはわかる。

本当のことってのはいつだって怖いもんだからな。

「なのにあいつらが悪びれもしねぇのには理由がある」

「理由・・・?」

「あぁ、それはな―――」

だが、いつまでも。

知らないままじゃ居られねぇんだ。

「自分を正義だと信じて疑わねぇからだよ」

同じなんだ。

どいつもこいつも。

自分こそが正しい。自分だけが正しい。

そう思ってるから言葉を聞こうとしねぇし、理解も出来ねぇ。

そして、それでいいと思ってる。

だから、これ以上ないって時にしか間違いを認められねぇ。

そうなってから間に合うことなんざねぇのに。

「誰になんて言われようが、自分だけが正しいと思ってりゃなんの関係もねぇ。なにをしようが、どうなろうがな。それで捕まったとしても、不当だと喚くだけだ。なにしろ、連中にとっちゃなにも間違ってねぇはずで。むしろ、正しいと思うことをしただけなんだからな」

「そんなの!」

「おかしいと思うか? そうだよな。誰が作ったかまでは知らねぇが、この国には法がある。誰もが守ってきた規則がある。それに従うなら、上の連中は殺されても文句は言えねぇはずだ。例え、死に際にそれを理解出来たとしても、改心の機会なんざ与えられていいわけがねぇ。そう言いたいんだよな?」

「そこまでは・・・!」

「違わねぇだろ? お前は上の連中を見て。腹を立てて、あいつらなら死んでもいいとそう思ったんだろ? それが決まりだから」

「それはッ⁉ でも!」

「けどなぁ。そう思うんなら、お前も。決まりには従わねぇとな?」

「どういう、こと?」

「この先に待ってるのが善人でも、お前は殺さなくちゃならねぇってことだ。それがここの決まりだからな」

バロンの目が大きく見開く。

流石は兄上の子だ。俺の言葉の意味が簡単に理解できるほど賢い。

つまり、バロンに植え付けられた正義という観点で見れば、バロンの悩みこそが間違っているということを、俺は今伝えたんだ。

頭では分かっていたはずだが、言葉にしなければそれがどれ程矛盾していたか理解できてなかったんだ。

悪くない人間を殺すのは良くない。これがバロンの中にある正義。

であれば・・・、今まで自分が正義だと思っていたものはいったい何になるのか?

その衝撃は大層なもんだろう。

だが、それが落ち着くまで待ってやるつもりはねぇ。

固く閉じた扉を開けて、

「さぁ、答え合わせと行こうじゃねぇか?」

若く、幼く、未熟な甥を誘う。

正しさなどない真実の下へと。