作品タイトル不明
side――キューティー
「ここが訓練場だよ。といっても、ここは上から眺めるための場所だけどね」
とあるお部屋の前、廊下を挟んで向こう側にテラスのように突き出した場所があって、私達はそこへ案内されたみたいですわね。
見下ろしてみると言われた通り、軍人らしい人達が列になって訓練を行っています。
『そこ! 遅れるな‼』
『はい! すみません‼』
といった声が下から聞こえてきますわ。
その中で、
『あらかじめ決められた動きを合図と同時に行うんだ! お前ひとりの遅れが全体の遅れになることを忘れるな‼』
『はい! もう一回お願いします‼』
『よし‼ 隊列を組み直せ! 前列はパターンAから! 後列はBから順番にだぞ‼ 間違えるなよ‼』
『『『了解‼』』』
というような、どこかで聞覚えのある内容が耳に届きます。
「あれ、って・・・・・・」
「そうね。ゼネスさんが私達に似たようなことを言ってたわね。連携のパターンを作って、短い合図で連携できるようにしとけ。だったかしら?」
ケイトも気が付いたのでしょう。つい言葉に出してしまい、そこへエイラが私も、と続きます。
「そうか。ゼネスの奴・・・そんなことを・・・」
グラン領主代行様は思い悩むような顔を見せ、
「やはり、器の大きさは私などとは比べ物にならないな―――」
自嘲気味に遠くを見やったかと思えば、
「――っと! 今のは聞かなかったことにしてくれ。下手に言いふらされると大事になってしまうからね。約束だよ?」
それも一瞬。すぐに顔色を整えて、優しげに笑っていました。
「それはもちろんですわ! ですけれど、良ければなぜ、それがゼネスさんの器の大きさに関係するのか。お聞かせいただくことは出来ませんか?」
どうしてでしょう?
ジェイド様のことならともかく、ゼネスさんのことはそれほど気になるわけではないのですが・・・気付いたらそのようなことを口走っていました。
ジェイド様に勘違いされたらどうしましょう?
チラリと視線を送ってみますが――ジェイド様も話に夢中なようですわね。こちらには目もくれていませんでした。
ホッとしたと言えばいいのか、悲しむべきなのか、迷ってしまいますわ。
「そういえば・・・君達はあいつのことを”ゼネス様”とは呼ばないね? どうしてだい?」
「え・・・? それは、本人がそう言ったから・・・です。自分は冒険者で、貴族のどうのは面倒だからって」
「それで君達は納得した?」
「そうですね。隔たりがあると聞きたいことも聞けないだろうと言われて・・・確かにそういうこともあるかなと思ったので。それに、なんていうか。周りの人がそうだったから。というのもあるかなと思いますね」
唐突な質問返しにケイトとエイラが答えます。
それに一体何の関係が?
「たぶん。私が同じことを言っても、誰も聞いてはくれないだろう・・・そういうのが器の大きさだと、私は思うんだ」
「それは立場が違うからではありませんの?」
「もちろんそれもあるだろう。けど、想像してみてくれ。ゼネスが私の立場だったとして。君達が同じように言葉遣いを崩せと言われたら、どうだ? 堅苦しいのは嫌いだと言われたら?」
少し想像してみましょうか。
私達にはなにか目的あるいは用事があって、この要塞にやってくる。
そこで、領主代行としてゼネスさんが現れ――。
丁寧な言葉で接していると突然、鬱陶しそうな態度で言うのですわ。
『そういう堅苦しい話し方をされるのは嫌いだ』
・・・凄く、言いそうですわ。
言われて私達は困惑するでしょう。困惑するでしょうが・・・。
「・・・恐らく従ってしまいますわ」
「そうだろう? なぜか、アイツの言葉には含蓄があるように思える。そして、その理由こそがアイツの器の大きさなんじゃないかな」
「いいえ。きっとあの態度のせいだと思いますわ! あの鬱陶しそうな態度で適当にあしらわれることに不服を唱えるためにも、とりあえず合わせようというこちらの譲歩を誘っているのですわ!」
「ハハハハハッ! なるほど! 態度か! それもあるかもしれないな!」
私の渾身の解析にグラン領主代行様がお腹を抱えるほど笑ってくださりますが、
「けど、やっぱりアイツの合理性のなせる業だと私は思う」
どこか嬉しそうに微笑みながら続けられます。
「あそこだ。見えるだろう?」
そう言って、急に指差すのは訓練場の端。少し奥まった小さな空間。
「今はいないけど、あそこの主はゴルドラッセという名の軍団長。君達もあったことがあるみたいだね?」
「え、えぇ」
「そのゴルドラッセは子爵の出なんだが、厳しい家だったらしくてね。貴族としての品格にもうるさいんだ。私もよく叱られたよ。当然、軍団長であることから、その腕も中々のもので。ここでは鬼の軍団長として名を馳せているわけだが・・・」
どうしていきなりそんな紹介を・・・?
流れを理解できなかった私達がいけないのでしょう。
「そんな男の下。2歳で立てるようになってから約4年間。理想を押し付けられ、出来るようになるまで何度でも叩き起こされ、やめることも、休むことも、逃げることも許されずに刻み込まれた技術を。さも自分の考えのように、合理性に富んだ優秀な手段だなどと振舞うことは。私には出来ない」
その壮絶さすら、微塵も思い描けていなかったのですから。