作品タイトル不明
変えられるべきは?
「なにも気にしなくてもいいかどうかを決めるのは俺じゃねぇ。わかってるだろ? だから悩んでる。違うか?」
「それは・・・・・・」
そのまま背中を押すことも出来た。
だが、俺はそんな考えを正しいとは思わねぇ。思えねぇから冒険者になったんだ。
「そうだよ! だって、わからないじゃないか! 本当にその人が悪い人かなんて‼ わかりようがないじゃないか‼」
俺の言葉に一瞬俯き、けれど吐き出す思いに偽りはない。
っつーことは、
「本来なら入念に調べ上げられた”殺されてしかるべき悪人”が舞台にあげられるはずだがな?」
「僕だってそう思ってたよ! でも・・・違ったんだ‼ 違ったんだよ‼ だって! あの人はなんにも悪いことなんてしてないはずなんだ‼」
やっぱり爺さんの言ってた通りか。
敵国の将っていやぁ確かに、討ち取るべき相手なんだろうが。
表向き。今は膠着状態にある戦況で、さらには交渉に来たはずの相手を問答無用で、なんざありえねぇと思うんだがな。
まさか現実にそんなことを企んでやがるとは・・・。
いや、それより。
誰の描いた絵図面なのか――っつーことの方が重要か?
本気で御父上が? 少なくとも領主である以上は知らねぇなんてことはねぇはずだが、それにしたって急すぎるだろう。
隠居前にまた一暴れしたかったとか、そんな理由じゃねぇと思いたいが・・・俺は御父上のことをなにも知らねぇからな。最悪そんなくだらねぇ理由だってあり得るのか。
「それは誰のことを言ってるんだ?」
「1月前くらいに橋を渡ってきた人だよ! お爺様に話があるって」
「なんの話だったかは知らねぇのか?」
「わからないよ・・・お父様なら知ってるかもしれないけど」
「そうか。それで、御父上との会談は開かれたのか?」
「ううん。色んな大人の人達が出て行って、そしたら揉め事みたいになっていって。最後には一杯の人達に取り押さえられて、そのまま牢屋に・・・」
揉め事? ただの交渉で?
先んじて確認を取ってなかったからってことか? それにしたって、だろ。
「なんでそいつは取り押さえられたんだ?」
「理由は知らないよ! そう言ったでしょ? でも、取り押さえられたのは揉めてる時に、その場にいた人を押しのけたからだと思う」
「そんなすぐに取り押さえられるような少数だったのか?」
「少数どころか1人だったよ? 服は凄く豪華で派手だったけど・・・」
「話し合いの席も設けられないまま、そいつは今も牢屋に繫がれてるのか?」
「うん。それに、どうしてかはわからないけど、その人が処刑候補の筆頭なんだって」
バロンの話を聞く限り、気になる点が幾つかある。
一つは言うまでもなく揉め事だ。
そりゃぁ先触れもなしにいきなり本丸強襲じゃ対応できねぇだろうが、それにしても押し合い圧し合いの揉め事になるか?
それともう一つ、交渉内容だ。
爺さん曰く。そいつは和議あるいは停戦を目的とした交渉に来たって話だったが、現場をその目で見ていたらしいバロンからそんな言葉は出てねぇ。
だとすりゃぁ爺さんの言ったことが根も葉もない噂か嘘。もしくは希望的観測だったってことになるが、それはそれでおかしなことになる。
なんでかっつーと、この話題の人物が間違いなく1人で来ているからだ。
1人で来てるってのは爺さん、バロン共に同じ。さらに敵国から来ているのも、それなりの立場の人間だってのも、ほぼ間違いねぇ。
敵国から単身で来る偉いさんがわざわざ角の立つ話なんざしねぇだろ。それなら一方的に声明文でも送りつけりゃいいだけだからな。
そう考えれば必然、その人物は平和的な交渉に来ていることになる。
なら爺さんのは推測で、しかも内容もあってたじゃねぇか! となるが・・・問題はそいつがどこから漏れた話なのか、だ。
橋を渡ってくる奴は多くはないが居ないわけじゃねぇ。
難民や、帝国とは別の国の出身者で帝国を抜けてきた奴、国を跨ぐ行商人なんかもいるな。
だが、そいつらの人数もいつ来たのかも町の人間にはわからねぇ。
普通は一定期間以上をこの要塞の内側で過ごすからだ。
目的に偽りがないか、危険な思想を持ち合わせていないか、そういった領地や領民ひいては皇国にとって安全であるかの検査がある。
故に、本来なら橋を渡ってきた時期も、その時の人数も。要塞外の人間にはわかるわけがねぇんだが、今回に限ってはそれが知れ渡ってるようだ。
しかも、かなり正確に。
これは誰にとって都合がいいんだろうな?
誰かに利益がなけりゃこんな状態にはならねぇはず・・・。
とはいえ、
「わからねぇなら聞きに行くか」
「聞きに行くって、誰に? まさかお父様⁉ それは駄目だよ!」
「そんな心配しなくても、兄上はお忙しいだろうからな。本人に直接聞くさ。今もまだ、牢屋にいるんだろ?」
百聞は一見に如かずだ。
「本当に殺されるべき悪人かどうか、この目で確認してやろうじゃねぇか」