作品タイトル不明
side――ケイト
「グラン様・・・から見て、ゼネスさんはどういう子供だったんですか?」
「私から見て?」
「はい。加護が、なくて・・・領民からも殺してしまえなんて言われて。それでもゼネスさんは・・・今も、生きてる。けど・・・この土地のことは嫌っているみたいだったから。ここではその、どういう風に育てられたのか気になって・・・戦士として、必要なことだけを教えられる生活って・・・どんなもの、だったんですか?」
ゼネスさんは、たぶん。優しい人だと思う。
人の気持ちに寄り添えるような優しさじゃないけど、間違った時には怒ってくれるし、正しく出来た時には褒めてくれる。
思ってること、考えてること、どうすれば苦労が少なくて済むか。
そういうことをどうにか教えようとしてくれてるのが、伝わってくることがある。
教えるのがうまいとは言えないのかもしれないけど、性には合ってないかもしれないけど、面倒見はいい人だと感じる。
そんな人が・・・全てを諦めたような態度で、見放した目でしかここの話をしなかった。
家族がいるのに。生まれ育った故郷のはずなのに。
そんなことってあるのかな?
だってゼネスさんは、グラン様の話をするときはそんな態度も表情も、見せてはなかったから。
「どういう子供で、どんな生活をしていたのか? ・・・か、難しいな」
グラン様は少し俯き顎を撫でてから、そうだな。と区切り、
「君達はゼネスの笑ったところを見たことがあるかな?」
逆に質問をされる。
「一応はありますが・・・それがどうかしたのでしょうか?」
リミアちゃんの答えに皆が頷く。
私も。それほど覚えがあるわけじゃないけど、褒められた時とかは笑ってた気がする。
「私はほとんど見た覚えがない」
「ッ⁉ それって――」
「――ああ。おかしなことだろう? 普通は。子供の時ほど笑うものだというのにな」
少しだけ細めた目には憂いが見えた気がした。
「まず、ここでの生活だが・・・それは説明した通り、戦士になるためのものだった。具体的にどういうものだったと言えば、朝起きてから寝るまでの間。その全ての時間を訓練や稽古に充てていた」
「全てッ⁉ ・・・ですの?」
「私の知る限りでは、全てといって憚りはない。当時、訓練場を開けるのはゼネスの仕事だった。閉じるのは気を失ったゼネスを抱えたゴルドラッセ。それがほぼ毎日のように繰り返されていた。私はそれが心配になってゼネスの部屋へ見に行ったことがあったが・・・あれは部屋などではなかった。生活出来る環境ではなかった。ただの空間だった。照明と1枚の布があるだけの倉庫だったよ」
「冗談・・・じゃ、ないんですよね?」
恐る恐るエイラが聞き返すけど、
「いっそ。冗談であればよかったかもしれないな。アイツの生活には無駄も遊びも・・・それどころか、必要なはずの休息すら与えられてはいなかった」
グラン様は小さく首を振る。
「父上としては加護がないことで非業の死を遂げて欲しくなかったから、誰にも負けないような強い戦士になってくれとの思いで、そんな育て方を選んだのだろう。しかし当たり前ではあるが、幼い子供にそんな考えが伝わるはずもない。アイツは父上のことも、育ての親たるゴルドラッセのことも。嫌っているに違いない。だから、この地のことを悪し様に言っても仕方のないことなんだ」
だとしたら、ゼネスさんの教え方が下手なのは自分がそういう風に扱われたから?
理由もなにも教えられず、ただやれと言われたから。
「けれど、私は父上の育て方も否定はできない。だってそうだろう? 現にゼネスは立派に生きている。強力なモンスターを単独で撃破できるほどに。なにより、学園へ入る時にはもう。そこらの一兵卒などより、よほど強くなっていたのだから」
結果論、だけど。たぶん本当だ。
私達が冒険者になろうとした時、前例の。クライフ様とゼネスさんの成績と思しいものを見た。
でも、どれも好成績・・・どころか、歴代でも群を抜いた出来だった。
それは卒業時だけじゃなくて。入学時点から、確かに。抜きん出ていた。
「そして、どういう子供だったかだが。弱くて、小さくて、泣き虫な弟だったよ。初めは。ただ――」
グラン様は歩く廊下の角を見るように思い出しながら、言葉を選んで。
「――時折見せる顔は、誰よりも恐ろしかった」