作品タイトル不明
変化させるべきか否か
「人を殺すってどんな気分?」
バロンの悩みは予想通りだった。
兄上もそんなことを言ってたし、普通ならこの歳で考えるようなことじゃねぇが、俺達にはそういう振る舞いが求められる理由がある。
にしても、なんて答えたもんだろうな?
『なにも感じねぇ』
ってのが、率直な意見だ。
今の俺が人を殺すとすりゃぁそこには殺す理由か状況がある。自分がそれに納得出来てりゃ目的を果たした達成感や、事態が収束する安堵感ぐらいはあるだろうが、特別なにかを想ったりはしねぇ。
それはそういう風に教育されたからってのもあるが、一番の理由は自分自身の正義があるからだ。
だが、目の前にいる甥バロンはまだ6歳。
己の正義などと言われたところで理解出来ねぇだろう。
しかも最悪の場合、今回の処刑対象はなにしに来たかも知らねぇ敵国の将。悪人ですらない可能性がある。
そこに正義を見出されるのは血縁者としては避けたいところだ。
罪悪感や倫理観を持ち合わせない碌でもねぇ奴になられちゃ困るからな。
っと! ちょっとばっかり沈黙が続いたせいで、不安げに見上げていたバロンの顔にどうしたんだろう? っつー色が差す。
「今までも、人が死ぬ瞬間は目の当たりにしてきただろ? その時はどう思った?」
あんまり考えこんでるところを見せると言葉の信頼性が揺らぐ。
ここは会話を繋げつつ着地点を探ったほうがよさそうだ。
「・・・怖かった。最初のなんか特に。なんでそんなことをするのかも知らなかったし、皆の雰囲気も違って・・・」
一般的な感覚だな。
あの異常な空気を楽しめる奴なんざそうは居ねぇ。
ここで興奮した! とか言われなくてとりあえず一安心か。
ま、そんな奴ならこんな悩みなんか持たねぇだろうが。
「それから可哀想だと思った。舞台上の人たちは皆、泣きながらなにかを叫んでたから。でもその理由を知ってからは、それならそんなことしなければいいのにとも思ったんだ」
正論だな。
普段処刑される奴らは国中から集めた重犯罪者。殺されるだけの理由は十分ある。
つっても、ここの慣習のみで勝手に裁いていいわけじゃねぇけどな。
今のところは皇王陛下の黙認と犯罪への抑止力として、お目こぼしをもらっちゃいるが・・・戦争激化の火種となればそれもどうなるか。
だが、これも教育ってやつか。
バロンの中には正義が芽生え始めている。
始めは恐怖として覚えさせ、それに慣れさせてから。理由を教えることで当然だと思わせる。
理由があればためらいなどいらないと。自分達の正義を植え付けていく。
「変、かな?」
俺の反応が薄かったせいか、明確な返答を求めてきた。
「いいや? 聞いてる限りじゃ一般的な感覚だろう。死ぬってのは怖いもんだし、それが不条理によるもんなら嘆いてもおかしくはねぇ。それを可哀想だと思うのも普通のことだと言えるだろう。それで・・・それが不条理なんかじゃなく身から出た錆だっつーなら、同情するいわれもねぇ」
「じゃあ僕は、なにも気にしなくてもいいの? 本当に⁉」
さて、ここが正念場だな。
今背中を押してやれば、公開処刑の場で躊躇うことはねぇだろう。
尊敬する父も、普段領地によりつかない叔父ですら、それこそが正しいというのであれば。子供にとって、それは正義になり得る。
ただし、対象が対象だけに一歩間違えば糞野郎に成り下がる。
だがもし。ここで後ろ髪を引けば・・・この領地の跡継ぎとして大きな問題を抱えることになるかもしれねぇ。
それこそ、後継者から脱落することもあり得る。
己の考える正義について、それを携える覚悟について。
俺はちゃんと言葉にして理解させられるだろうか?
あるいは――壇上に。ちゃんとした悪人を送りつけられりゃぁ、こんなくだらないことに悩まなくても済むのかもしれねぇな。