作品タイトル不明
side――リミア
要塞の中に入ってすぐ、先生は自分の部屋へ向かいました。
別れ際に『誰が案内役になるかは知らねぇが、騒いで困らせるなよ』と、それだけを言って。
そんなつもりは毛頭無いのですが――・・・ですが、どうなんでしょう?
普通、自宅へ客人を招待したのであれば自らで案内するのが道理。
それを人任せだなんて。
先生も意外と常識外れなのではないでしょうか?
それとも、その方が貴族らしいのでしょうか?
私は貴族の友人など心当たりがなく、客人として招くことも、招かれることもなかったので実体を知りません。
ただ・・・。
「このように、1階のほとんどは道になっている。理由は戦闘車両や兵を乗せた馬車を通過させるためだ。場合によっては補給物資なども運ぶこともあるが・・・そこまでの戦闘は私にも経験がなくてね。この要塞が出来てからは、あまりそのような自体になっていないという証拠さ」
領主やそれに近い立場の人が自ら案内をするのは、流石におかしいと理解できます。それに、ジェイドさん達も困惑しているようですし。
「あの・・・よろしいでしょうか?」
「ん? どうしたんだい?」
「私はリミア・T・ルーフロンスと申します。失礼ですが、グラン様は領主代行で在らせられるのですよね?」
「あぁそんなに形式ばらなくても構わない。君達はゼネスの教え子なのだろう? それなら、私にとっても大切な客人だからね」
「いえ、そういうわけには・・・」
さらりとそういうことを言われても、はいそうですかとは言えません。
「それで? リミア君・・・だったね? どうしたんだい?」
「はい。その・・・なぜ、そのような立場の高い方が私達を案内しているのでしょうか?」
「ハハハハ! 言ったじゃないか。君達は、私にとっても大切な客人だからだとね」
「はぁ・・・」
家族の客人とあれば確かに大切にするに越したことはないでしょうが、それでも。普通なら目上の立場の人が連れてきた場合だと思います。
下の立場の人間が連れて来ても最低限失礼にならない程度で、むしろ積極的に関わろうとは思わないのでは?
なぜなら、得るものがないのだから。
いえ。得てしまってはいけないから・・・でしょうか?
下手に接触して利益を得てしまっては、搾取だと思われてしまう。
それはお互いにとって都合がいいとは言えないでの、そうならないようにするのが基本のはず。
だから、そのように言われても対処に困ってしまう。
「君達の目から見て。アイツはどうだ?」
そんな私の、私達の態度を見て。わざわざ先生の話を振ってくれる。
「――ムカつく」
最初に答えたのはジェイドさんだった。
「自分に出来るからって俺達にも出来る、出来て当然だって態度なのが気に入らねぇ! それに、出来ねぇところを見せると、なんで出来ねぇ? って顔をするのも腹が立つ‼」
言葉遣いもそうですが、先生の兄弟である人にそれを言えるのも驚きです。
とはいえ、その内容には同意できるところもあります。
あの人は、わからないことがわからないって顔をすることがあるんですよね。こっちの気持ちをないがしろにしすぎるというか・・・。
「そうか・・・ッ! それで? その後アイツはどんな態度や表情を見せるんだ?」
クックッと笑いながら続きを誘うその姿を見るに、この人にもそういう先生に思い当たる節があるのでしょうか?
「どんな・・・って。仕方ねぇなって態度で、呆れたような表情をしながら、あーしろとか。こーしろとか言ってくるな。その辺りで大体なにを言ってたのかわかるようになるんだけど、だったら初めからそう言えばいいだろ! って・・・」
「そう言ったのか?」
「まぁ、はい。そしたら、そんなもんは言わなくてもわかるもんなんだよって嫌味なこと言いやがった」
「ハハハ! アイツらしいな・・・ッ!」
どこまでも懐かしそうに笑うグラン様の表情を見て。
そうか! と思い至る。
この人は私達から、先生の話が聞きたいんだ。
だってこの人は・・・先生の兄弟ではあっても。長く一緒にいたわけでもなければ、先生が冒険者になってからのことは、見たことも聞いたこともないのだから。