作品タイトル不明
再会
何年ぶりだろうか? 背中に回された腕は遠い思い出よりも逞しく、けれど温もりは変わらぬまま。
しかし、
「兄上、この歳で抱き付かれても反応に困ります。再会に水を差すつもりはありませんが、俺の面体も保っていただけると嬉しいのですが?」
ヨハンはともかく女子の視線が痛い。
抱き付く兄上こと、グラン・T・グラーニンの腕をやんわりと解く。
ジェイドだけは。ゆっくりと降りる鉄塊の扉を見て、歯車式じゃねぇか! と小さく突っ込んでいてが・・・。
そりゃぁそうだろう。誤作動で扉が落ちてきて挟まれて大惨事・・・ってわけにはいかねぇからな。
「そういうな。最後に会ったのはお前が冒険者になった直後じゃないか。いつ凶報が届くのではないかと、眠れぬ夜すらあったほどだ」
「それはもう十分に謝罪しましたはず。それに、手紙も忘れずに返していたと思うのですが?」
「わかったとは言ったが、許したとは言っていないぞ? なによりその手紙も、私が催促していなければ碌に返事がなかったと記憶しているが?」
「冒険者というものは色々と忙しくて。それに滞在場所も変わっていったので、それで届くのが遅れたのでしょう」
「忙しさなら私も負けてはいないぞ? なにせ今では領主代行などという立場にされてしまったからな。当然ながらその過程も、それなりに多忙を極めていたとも」
「遅ればせながら。領主代行への就任―――おめでとうございます」
形式上、大仰に跪いてみせる。
「やめてくれ。私自身。身分不相応というか、実力不足なのは感じているんだ。それをそのようにへりくだられてはかなわない。それにゼネス。お前の方がよほど器だったと、今でも私は思っているんだぞ?」
照れ隠しもあるだろうが、そんな風に言う兄上。
昔から、兄上は俺のことを誰よりも評価してくれていた。過剰だと思える程に。
だが、
「今そのようなことを言われては、肩身が狭くなるのでやめていただきたいのですがね?」
そういう発言はこの場においてはあまりよろしくない。
俺達には冗談だと伝わっていても、傍目にはそうは映らないだろうからな。
家督争いの火種にされるかもしれねぇ。
「そうだったな。すまない。・・・なぜこれほどまでに面倒なものか。たった1人の兄弟と他愛ない話すら出来ないとはな」
「それが貴族というものなんでしょう。なにより、我が家も一応は上級貴族。それなりの立ち居振る舞いが求められる――と俺に教えたのはゴルドラッセでしたが」
「そういえばここへ帰る途中にゴルドラッセと会ったらしいじゃないか? ゴルドラッセが嘆いていたぞ? ゼネス様は貴族としての教養を忘れてしまっていた。これではバロン様によからぬ影響を与えてしまう・・・とな」
あの野郎。くだらねぇ告げ口しやがって。
いや・・・むしろ。そこら中で必要以上に触れ回ってくれれば、俺が家督を欲しがってるなんざ思わなくなるか?
それで御父上の後に就くつもりなんざねぇってのがちゃんと公になるなら、それはそれでありがてぇんだけどな。
「外で出会えば俺は冒険者ですよ。品だの格だのとは無縁の、ね」
「ハハハ! 羨ましい限りだ。しかし、バロンにはそういうことは内緒にしてくれ? あの子までここを離れたら、私は今度こそ泣いてしまうからな」
「聞かれたことを答えるぐらいにしておきますよ。それに真実をそのまま伝えれば、冒険者になりたいだなんて言わないでしょう」
「どうかな? あの子はあれで今、とてつもなく悩んでいる最中だ。お前の経験や体験を聞けば、すぐになびいてしまうかもしれないぞ?」
「では、そうならないように祈っておきますよ」
「そうしてくれ。それで――」
と、言いかけたところで兄上の視線が流れ、
「――いや、立ち話はここまでとしよう。積もる話は腰を落ち着けてから、だな」
俺の周りに居た6人を認識したことで、一旦の切り上げとなったようだ。
であれば、
「その前に一度自室を見に行っても? 今はどうなっているのか確認しておきたいので」
折角帰ってきたついでに、過去の使わなくなって部屋に入れておいてくれと送った道具類の整理をしたい。
「それは構わないが・・・お前が送る荷物のせいで散らかっているぞ?」
「だとするなら、しばらくは部屋から出られないかも知れませんね」
「まず入れるかも怪しいな。だが、文句は受け付けないぞ? なんでもかんでも送りつけて来て、その癖。顔を出さないお前が悪いんだからな。ゼネス!」
「文句はありませんが、その間は時間を取られることになるので。こいつらに要塞の中を案内させてやってくれませんか? 誰でもいいので」
「顔だけ見せてすぐに帰るものだと思っていたが、違うのか?」
「祭りが終わるまでは居ますよ」
「そうか! では本当に久しぶりに、色んなことが話せるな。わかった。案内の方は任せておけ。年越しまで1週間以上。不自由がない様にしなくてはな!」
嬉しそうに。なぜか張り切る兄上に、なにがそんなに嬉しいのか? そう聞いてみたが、大したことではないとしか答えてはくれなかった。