軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化がないわけじゃない

「この部屋に来るのはいつぶりになるんだっけな?」

遠い昔に宛がわれた自室の扉を前にして、妙な感覚に呟く。

なにも変わらないのはわかっている。

だが、この扉の先がどうにか変わっているんじゃないかと、そんな淡い期待が消せない。

回りもしない引くためだけにつけられた取手を引いて扉を開ける。

窓もない部屋はどこまでも暗く、ぞんざいに放り込まれた荷物で埋め尽くされてはいるが・・・なんてことはない。

なにもない部屋がそこにはあった。

「これは・・・兄上以外が受け取ってたか。まぁ、捨てられなかっただけマシかもな」

冒険に使わなくなった装備や道具類。その中で売れなかったり、売る気にならなかったものを一応兄上宛に送っていたんだが、そのすべてがこの部屋に押し込められている。

それは俺が兄上に手紙で頼んだことではあるが・・・。

奥の方はキチンと並べられていたり、崩れないように積み上げられているが、手前に行くほどその扱いは雑なものとなり、山は崩れ中身が散らばっているものすらある始末。

最初こそ兄上が受け取ってその手でここまで運んでくれていたんだろうが、次第に。忙しくなるにつれ人に任せるようになり、最後には兄上が受け取る前に誰かが勝手に判断して、荷物だけここへ投げ捨てていったんだろう。

転がる道具類を拾い上げながら中に入り、壁に備え付けられた灯りをつける。

「我ながら、随分長いこと旅してたんだな」

手に取る一つ一つにはなにかしらの思い出があり、そのたびにクライフをはじめ、元パーティーメンバーの顔が浮かぶ。

手前にあるものほど新しく、奥にあるものほど懐かしい。

この部屋でこんな気持ちになるとは思わなかった。これは自画自賛したい気分になるな。

幾つかを拾っては並べてを繰り返した末、ボロボロになった毛布が出てきた。

部屋の角まで来た証だ。

牢獄よりもなにもない部屋。それが俺の部屋だ。

あったのは壁の灯りとこの毛布だけ。

っつーより、それ以外が必要なかったんだよな。

起きては訓練場に行き、起き上がれなくなるまで叩きのめされるだけ。それなら家具もなにもいりゃしねぇ。

たまに休みもあったが、服なんかは兄上に借りてたし、外へ抜け出したこともあったが――・・・碌な思い出はないな。

唯一あの爺さんに会ったぐらいが収穫か。

「まさか。そんななんにもねぇ部屋で感傷に浸れるようになるとは、俺の成長も大したもんだよな?」

誰にでもなく。ただ1人で馬鹿みたいに笑っていると、

「誰?」

開けっぱなしだった扉の向こうから覗き込む影。

「そっちこそ誰だ? って言いてぇところだが・・・」

通路側からの光で伸びる影ですら、扉の影より短くて。

他所行きとは言えなくとも、ちゃんとした生地でしっかりとした作りの服を着ている辺り、該当するのは1人しかいねぇだろう。

「こんなところでなにしてる?」

「そっちこそ! ここは入っちゃいけないんだぞ!」

「俺はいいんだよ。俺の部屋だからな」

「え? じゃぁおじさんがお父様が言ってた叔父様?」

おじさんか。

いやまぁ確かにおじさんなんだが、やっぱり子供に言われると来るものがあるな。わかってはいたけど。

自分や仲間内で言うそれとは破壊力が違う。

この場合は正真正銘の叔父でもあるんだが。

「まぁそういうことだ。で、なんでこんなところにいたんだ? 兄上にも言われなかったか? この辺には近付くなって」

俺の部屋は地下にある。しかも特殊な位置に。

普段使われない通路の奥、他に行ける場所もない非常通路の端にあるのが俺の部屋だ。

通路を戻って階段から少し行けば牢屋もある。尋問部屋なんかもな。

子供が近付くような場所じゃねぇ。

「お父様は中には叔父様の大事なものがあるからとは言ってましたけど、近付くなとは言われませんでしたよ? お母様はその・・・言ってましたけど。でも! 1人になりたくて‼」

俯き答える少年は我が甥バロンで間違いないようだ。

「そうか。それにしても、よくこんな場所知ってたな?」

「はい! 最近お父様が叔父様の話をしてくれたんです! その時に聞きました!」

兄上が? って、今回のことを伝えたのか。

言わなきゃ言わないで面倒だろうからな。

それにしても、お父様とお母様か。

父上母上じゃ被るもんな。

御父上もまだこの屋敷・・・つーか要塞に住んでるはずだし。

なんにせよ――そうか、兄上の子供か。

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもねぇよ」

なんか変な感じだ。

自分の部屋で、自分とは関係ねぇところで増えた血縁の相手をするってのは。

だがまぁ、色々頼まれてるわけだし、このままってわけにもいかねぇよな。

「それで? なんで1人になりたかったんだ?」

とりあえず、俺は手を止めて甥と向かい合った。