作品タイトル不明
奪われる者2
要塞へと送られた透明な視線はひと時のもの。
すぐに椅子の中で丸くなるように首を傾け時代を辿る。
「この地が帝国に奪われて数年。期間としては3年に満たないと聞かされたが、地獄のような日々はもっと、もっと永く感じた。皆がそうだったろう。彼のダンデ・L・グラーニンが現れるまでは・・・」
ここで御父上の登場だ。
まぁ、ここでの戦功があって今の爵位があるんだから、それはもう大活躍だったんだろうよ。
「彼も幼少はこの地に生まれ、戦争で故郷を奪われた1人だった。当時は成人してそれほど経っておらず、17だか18だったと思うが、並みいる軍属の中で一際抜きんでた強さを持ち、蔓延る帝国軍を片っ端から切り伏せていったという。私はその頃にはもう光を失っていたから、その輝きを目にすることは出来なかったが・・・そのおかげか、その時に少しばかりの戦功をあげられてな。こうして今も呑気に庭先で佇んでいられるというわけだ」
自嘲気味に笑う爺さんに、
「そんな状態なのに、なにをしたんですか?」
ヨハンが詳細を求める。
「なに。大したことではない。少しばかり帝国軍の連中をかく乱してやっただけだ。誰も、非常時に全盲の捕虜など気にはせんからな。状況が呑み込めず戸惑っているふりをしていれば、どこに居ても怪しまれんかったのだ。武器庫であっても、食糧庫であっても、渓谷に架けられた橋の袂であってもな」
確かに緊急事態であれば、障害を持つ捕虜の管理など杜撰になるだろう。なにしろ、ほとんど奴隷のようなもんだからな。
だが、だからといって。そんなことが出来るかってのは、また別の話だ。
そして、ヨハンもそう思ったんだろう。
「どうしてそんなことが出来たんですか?」
「どうして、か。難しいことを聞くなぁ・・・」
続け様に放たれる質問に爺さんは詰まる。
「・・・なんというかな。そういうなにかがあったのだ。あの時には。そうさせるなにかが。私だけではなく、当時この地にいた者たち皆が奮起した。人としての矜持を取り戻して死にたいと、皆にそう思わせる雰囲気があったのだ。あるいは、ダンデという男がそうさせたのかもしれんがな?」
詰まりながらもそう答える爺さんの言葉にこそ、真実を感じ取ったのか・・・ヨハンも、他の5人も頷くばかりだ。
だが、俺にだけは疑問が残る。
あの御父上にそんな力があるのだろうか? という疑問が。
つっても、直に見たのは2回だけ。わからなくても不思議じゃねぇか。
俺の心など置き去りに、爺さんは話す。
「それぐらい。あの時というのは目まぐるしく時代が動いていたのだろう。なにせ、この地の解放、奪還には2年もの時間がかかったと言うのだからな。ダンデが現れてからそれほどの時間がたっていたなど、当事者の誰も気付いてはいなかったのではないか? 耐え忍んだ時間とは打って変わって、それこそ光のような速さで駆け抜けていったように思えるのだからな」
それほど必死だったってことなんだろうが、2つの期間は精々誤差半年程度。
それがこれほどの違いとなるっつーんなら、激動と言う言葉こそがふさわしい時代だったんだろう。
「皆が皆、命を懸けていた。未来の為に。誰かの為に。幸せだったあの日の為に。同じような日々がいつか訪れると信じて。全てを託して犠牲になった。決して、美談などではない。もう誰も、自らの命に価値など見いだせなかった故に、未来だけを夢見て散って逝ったのだ」
ある日突然に破綻した日常。
絶望に組み伏せられ、屈辱にまみれた日々。
希望を垣間見て、屈伏から免れた一時。
過去を取り戻し、未来を掴もうと、抗い立ち上がった瞬間。
いったいどんな夢を見ただろう。
「それが―――・・・こんなことになっているなどと。なんと言って伝えればいいのか、私にもわからんよ」
この地を奪還した時の興奮を思い出して熱く語っていた爺さんが、急激に冷え付き、諦めを口にする。
「どういうことでしょう?」
当然気にならないはずもなく、リミアが釣られるように問い返す。
「ここへは祭りを見に来たのではないのか? であれば、気付いてもよさそうなものだが」
「いえ、その内容までは・・・」
「なんだと⁉」
爺さんが睨むように顔を向けるが、
「その方が色々と考えられるだろ?」
「そうかもしれんが、全く・・・趣味の悪い」
「こんなところで生まれた奴が、いい趣味してると思うのか?」
「なるほどな。そう言われると返す言葉もないわ!」
こたえる理由も有りはしなかった。