軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奪われる者1

「当時この辺りは領地の切り取りにあっていた。ここからでも見えるだろう? あの要塞の向こう側には渓谷があってな。帝国の連中がそこへ巨大な橋を架け侵略してきたのだ」

要塞の方へと顔を向け、その瞼に未だ焼き付く光景を語る。

「私は志願したのではなく、徴兵されて軍へと編成された。当時はそれが珍しくないほどに戦況がひっ迫していたのだ。ここは国の北の果て。しかも、さらに北には渓谷が広がっていたからな。侵略など想定していなかったのだろう。正規の軍人だけでは足りず、私のような一般人も駆り出され・・・しかし。それでも力及ばず。この辺りは数年に渡って帝国の領土とされてしまった」

揺れる安楽椅子のひじ掛けを握る手が震える。

それは恐怖のせいか、あるいは怒りのせいか。

当事者たりえない俺にわかるはずもねぇ。

「その時の様子というのは・・・あまりにも惨いものだった。尊厳も、誇りも、全て奪われ。他人である権利すら取り上げられた。男は労働の奴隷に、女はすべからく慰み者にされ、動けなくなったものは老若男女構わず、攻撃魔法の標的や、人体実験の被験者にされていった」

捕虜に対しての扱いが条約に記されたのはこの件があってからだ。

現在も帝国とは終戦に至ってはねぇが、それでも幾つの取り決めが出来たのは、ここでそういったことが行われ、それが基で大きな傷跡を残したせいだ。

「遊びで腕を折られ、痛みに蹲れば働けと石を投げつけられ、動けなければ要らぬだろうと足を切り落とされたものもいた。当時、この場所には無法という法しか存在せず、誰もがそれを当然の権利だと思っていたのだ」

聞いているだけで虫唾が走る。

そんな話のせいか、ジェイド達6人の顔色もよろしくない。

だが、女子供が相手だからか俺が何度も聞かされた話よりも、かなり優しくなってるな。

俺が聞いた話の中には、特に酷い女への仕打ちなんかもあった。

奉仕の為に歯を全部引き抜いたり。逃げられねぇように手足の腱を切ったり。使いにくいというふざけた理由で手足を切り落とされ、その先に金具を付けられ、玩具や装飾かのように扱われたり。

挙句の果てには生きたままの女の目にモノを突っ込む奇行に及んだ奴すらいたとか。

「しかし・・・それも仕方のないことだった」

にもかかわらず、爺さんはそれを仕方がねぇと言いのける。

それに対して、

「そんなこと、あるはずねぇだろ‼」

ジェイドが憤り反論する。

「そうですわ! そのような理不尽など、許していいはずがはないのですわ‼」

キューティーもそれに続くが、

「若い者は皆そう言うがな」

爺さんは分かっていると一つ頷いてから尋ねる。

「君達は・・・命の危機を。感じたことはあるか?」

「それぐらいあるに決まってんだろ!」

「では、それを自分の力だけでねじ伏せたことは?」

「それは・・・・・・」

最初の質問には勢いよく答えたジェイドだったが、続く質問には答えを濁し、ついでになぜか俺を見る。

なんで俺を見るんだよ・・・と思ったが、そうか。

蟻の時のことを思い出してんだな。

まぁ確かにこいつらにとっては命の危機だったか。

逆に言えば、他に心当たりはねぇってことなんだろう。

「ないか。まぁまだ若いんだ。窮地に陥っても死ななかった幸運こそを有難がるべきだな。命の危機になど晒されんほうがいいに決まっているのだからな」

そうだな。冒険者だから危険なのは当然! とか考えてる奴から死んでいくってのは何度も教えてるし、今後俺の目が届かなくなったとしても、そういう窮地には陥らないようにしてくれるといいんだがな。

「だが、そういった危険を、命のやり取りを制した後というのはな。血が滾るのだ。体の芯から熱が抜けず、浮ついた気持ちになり、地に足がつかない。そして、それを咎めるものが居なければ必然。暴走するものが出てくる」

震え、ひじ掛けを握っていた手が離れ、指を組み合わせながら腰へと置かれる。

自身にも戦場での誤りになにか覚えがあるんだろう。

「とはいえ仕方がなかろう? 一歩間違えば死体と成り果て、そこらへ転がっていたのは自分だったかもしれないのだ。その姿を見て、自らの生を実感し、高揚を覚えることに間違いなどないはずだ」

それはモンスター相手でも同じだな。

相手が強ければ強いほど、その実感を得た瞬間ってのは言葉に出来ないほどだ。

否定なんざ出来ようはずもねぇ。

「なにより、相手は渓谷を超えての大進軍だ。無事に帰れる保証もなしに攻め込んできた生き残り。それを咎められたのは―――唯一。あの要塞の主のみだ」