作品タイトル不明
備える者
「なるほど。心当たりはいくつかあるな。だがそんな悪ガキが、なぜ帰ってきた?」
「そろそろ祭りがあるだろ?」
「あんなもののために帰ったのか? だとすれば心当たりは間違いだろう。あんな悪趣味なものを好む悪ガキなんぞ、とんと記憶にないからな」
「誰があんなもんの為に帰るかよ。・・・・・・ただ、家族が居るからな。それだけは切っても切れねぇ」
「ふん! ならば仕方あるまいな」
爺さんは俺の言葉にころころ態度を変えながらも、しっかりとした受け答えをする。
これなら昔話も安心して聞けそうだ。
「あの。失礼ですがその方は―――」
俺達のやり取りにあっけにとられていたのか、静かだった6人の中からリミアが口を開く。
「ああ。これがさっき言ってた・・・この辺りで名物になったらしい爺さんだ」
「なんだ。ガキがガキを連れて戻ったか。そうかそうか。どおりで時間が経つはずだ!」
聞きなれぬ声を聞いて、はっはっは! と笑う爺さん。
「いえ、そうではなく・・・その・・・」
けれどリミアはなにか言いずらそうにして、
「――ああ。この目か?」
爺さんがそれに気付き、自らの目を指差して話す。
「これは・・・なんというかなぁ・・・。私は長らく、見たくないものばかりを見せられてきたのだ。そのせいだろうなぁ・・・。見たくない、見たくないと思っているうちに、本当に見えんようになってしまったのだ」
自嘲した笑いと共に爺さんは光のない目を開いて見せる。
「後悔がないとは言えんが・・・まぁ、そうだな。意外と、特別困ることもなかったのでな。今となってはなんとも思っとらんよ」
「そう、でしたか・・・失礼しました」
「いやなに、気にするようなことではない。私も歳だ。目も耳も悪くなっていてもおかしなことは無いだろう? ほんの少し、それが早かったというだけだ」
爺さんはなんとかリミアに元気を取り戻そうとしてるみてぇだが、
「それが原因で兵士を引退したんじゃなかったか? 随分と早くに耄碌したもんだ」
別にこいつらはそんな細い精神はしてねぇし、さっさと本題にも移りたい。
長居すると本当に超豪華な軍用車両が来そうだ。
「ええい! やかましいわ‼ というかだな! 見知らぬガキを連れてくるのなら、先に事情の説明ぐらいしておかんか! このバカタレが‼」
「誰がアンタみたいな爺さんの身体に興味があるんだよ‼」
「だったらなにをしにこんな爺のところに来たのだ‼ 言ってみろ‼」
「決まってんだろ? アンタの武勇伝を聞きに来たのさ」
「まったく・・・とんだ悪ガキだな。私の兵役話が武勇伝などではないことは、とっくの昔に知っているだろうに」
まぁ、その通りだ。
っつーか本当に武勇伝なら聞きになんざ来ねぇ。
「そりゃあんだけ聞かされりゃぁな。だが、こいつらはそうじゃねぇ」
爺さんの前に並ぶ6人の駆け出しだった冒険者は、つい先日一人前の資格も手に入れ、これから長い旅に出る。
「こいつらは冒険者でな。これから先の高い山を命懸け登る時に、くだらねぇ話でも聞いておけば、なにかの役には立つかも知れねぇだろ?」
「くだらん話か・・・言ってくれるな。しかし、まぁそうだな。年老いた者に出来ることと言えば、小言をくれてやるくらいのものだ。よかろう。そんなに聞きたいのであれば話してやろう」
そんな若い身空で冒険者か。と爺さんは零しながらも納得し、昔話を遠くの誰かに聞かせるように響かせた。