作品タイトル不明
生きた者
「で、俺様達をどこに連れて行くつもりなんだ?」
質問をはぐらかしたせいか、若干不貞腐れながらジェイドが呟く。
「このまま要塞へ・・・ってのも考えたが、この馬車も商会に返さなきゃならねしな。町の方へ行くついでに、知り合いの顔でも見に行こうかと」
快く馬車を貸してくれたサンパダには、
『どこへなりとも。いかようにも。お好きにお使いください』
と言われちゃいるが、皇都にある特定の商会と辺境伯家が繋がってると思われると面倒だ。
時期も時期だし目立つ行動は控えるべきでもある。
だから、この馬車で要塞へ乗り付けるわけにはいかねぇ。
「それじゃどうすんだよ⁉ 俺様達に町から要塞とやらまで歩けってのか?」
「それぐらい歩けよ・・・と、言いたいところだが。心配すんな。兄上に連絡すれば豪華な軍用車両が迎えに来るさ」
「そっちの方が乗りたくねぇよ‼」
反射的に叫ぶジェイドに心の中だけで同意する。
「それより、私達としてはその知り合いって人の方が気になるんだけど。その人はどういう人なのかしら? それに、あんまり知らない人と長話されるのは対応に困るわ」
ジェイドの文句はどうでもいいとエイラが斬り捨てる。
「どういう・・・・・・そうだな。戦争当時――っつっても、今も帝国とは戦争中なんだが。特に激化していた時代、今から40~50年前に現役兵だった爺さんだ」
「歴戦の勇士というわけですわね! その人から私達に、今後の心構えを説いてもらおうと。そういうことですわね‼」
「まぁ、中らずとも遠からずってところだ」
キューティーは爺さんのことを勇敢な兵士だったと思っているようだが、あの爺さんは普通の一般兵だ。だからこそ、色んな重みを知っているわけで。
そして、それを聞かせに行こうって肚だ。
「・・・・・・」
「どうした?」
ジッと。俺の顔を見るリミアに聞くと、
「いえ、こういう時。先生の言う言葉はどこまで信用していいものか――と」
早くもそんな疑いをかけられていた。
別に騙したことはなかったと、そう記憶しているはずなんだがな?
目的の爺さんがいる家の近くで馬車から降り、別れて、道を行く。
すると、それほど間を置かず――きぃこら、きぃこらと、安楽椅子を揺らす音が聞こえ始める。
なんの音だ? と周りを見回すジェイド達を引き連れて、俺は音の主の元へと近付く。
「案外元気そうで安心したよ」
連絡など一切取っていない相手。なにより、相当な年齢だ。
くたばっていないかと、ここへ向かう途中不安にもなった。
そうでなくとも寝込んでいたら会えないよなと。そう思い始めてからは別案も考えていたんだが、どうにも取り越し苦労だったようだ。
一定の間隔で揺れる椅子には、昔とそう変わらない人物が堂々と寝据わっていた。
「元気でなどあるものか。どうせ老い先短いんだ。ここで寝ていようと、ベッドで寝ていようと、なにも変わらんだろう」
「流石に屋内か、屋外かじゃぁ結構な違いがあると思うけどな?」
「なにを言う。この老骨には湿った風も、乾いた風も、染み渡ることなど、もうありはせん。であるなら、変わらぬ日常を選んでなにが悪い?」
「その割にはよさげな布を被ってるじゃねぇか?」
「近所のガキが勝手に被せていくのだ。捨てるのも忍びないだろう?」
ニンマリと笑うその顔には、なにを言っても無駄らしい。
「それは随分愛されてることで」
「どうにも、最近では名物らしいのでな」
昔から。戦争の生き証人として、皆が一目を置いていたのは確かだが・・・名物か。
時代が変わったのか、どうなのか。
「それで? お前はいったいどこぞの誰ぞだ?」
「昔、この辺りに住んでた悪ガキだよ」
くだらないやり取りを経て、ようやく爺さんは俺に誰かと尋ねた。