作品タイトル不明
side――栄光ある騎士団:TP2
「それじゃあ今度こそ、行ってきます!」
ヨハンがニアラプターに近づく。
背を伸ばすように辺りを見回していたニアラプターがそれに気付くと、一吠え。
先生ならこの咆哮1つからでも、なにか情報を読み取れるんだろうか? ヨハンはそう思ったが・・・ゼネスはこの場に居らず、ヨハンにはなにかを得ることが出来なかった。
気を取り直して、予定通りニアラプターを釣り出そうとけしかけてみる・・・ものの。
「来ない・・・ですね?」
同じく隣でニアラプターを挑発していたジェイドに向いてヨハンは意思を確認するが、
「上等じゃねぇか‼」
ジェイドはどこか嬉しそうに歯を見せながら、敵から視線を逸らすことはなかった。
それを見て。
「いいわ。もう1匹いることだけは忘れないでよね!」
エイラは2人に強化魔法をかける。
「当たり前だ! 引きずり出してやる‼」
その言葉が戦闘開始の合図になった。
やることは昨日と変わらない。
ジェイド、ヨハン、そしてキューティーが前線でニアラプターの気を引いてケイト、リミアが魔法で攻撃し弱らせる。
その過程で敵を誘き寄せ、移動できれば1匹ずつ処理し、出来なければ2匹目が現れてからまとめて倒す。
それが今における最善だった。
難しいのはタイミングだ。
弱らせられなければ2匹同時の戦闘は難しく、弱らせすぎれば移動が出来ない。
1匹ずつ処理する場合、キューティーの回復にどれくらいの時間がかかるかわからないことから、しっかりと距離を取るようにというのがゼネスの指示だった。
それを見極める役として抜擢されたのはエイラ。
強化魔法以外の役割が少ないから余裕があるだろう。という理由で選ばれ、本人としても特別反対する理由はなかったのでそのまま決まった。
上手くいっている。
少し後ろから全体を見て、エイラはそう思った。
ジェイドの言葉から1匹ずつという選択肢は無いものとして考えていたが、それでも戦況が良かった。
やはりキューティーの存在感が薄いものの。
陽動、抑止、制限、攻撃。
留まるところを知らず動き続ける仲間と、ほとんどなにも出来ずに一方的にやり込められ声を上げるだけのモンスター。
構図としてみれば少しばかり酷いかもしれないが、冒険者としては理想と言える状況だ。
視界を奪い攻撃をあたり辛く、万が一を盾で防ぎ。動きを止め、狙いを絞り、少ない手数で確実に勝利へと追いすがる。
危険を排し、利益だけ貪る。
なんとも恐ろしい限りだ。
徐々に。
ニアラプターの勢いがなくなっていく。
動きが鈍り、声がかすれ、大きく開いていた口が、食いしばるように引き絞られる。
このまま行けば前回同様、仲間を呼ぶはずだ。
そうなればキューティーのポジションが下がり、前衛2人で1匹ずつを担当することになる。
お互いに長くは持たないだろう。
だからこそ、ヨハンとジェイドはどちらを受け持つのかを先に決めていた。
すでに戦っている1匹をヨハンが、飛び出してくるであろうもう1匹をジェイドが見ると決めていた。
同時に。
キューティーの止めも急がなければならない。
リミアの拘束がどこまで有効か、キューティーとケイトの魔法で2匹を同時に討伐できるのか、なにより上手くいかなかった場合すぐに逃げれるのか。
エイラはそれらの援護と判断を行わなければならず、故に。
より一層の緊張を迎えていた。
それぞれが目を合わせ、声を掛け合い、そろそろだと合図する。
ニアラプターが意を決するように、飲み下すように頭を下げ、大気を吸い込んだ瞬間―――、
「―――撤退するわよ‼‼」
背後から降り注いだ圧倒的な光によって作り上げられた影が、嘶くニアラプターに突き刺さる中で、エイラはゼネスから決められた信号を合図に撤退の指示を出した。