作品タイトル不明
side――栄光ある騎士団:ジェイド&エイラ
――― ジェイド
冗談じゃねぇぞ‼
後もう少しだって時に、もう一匹だと⁉
「ギャリャァァアアアアアアアアアア――」
首を振りながら、まるで喚き散らすように走り寄ってくるニアラプター。
当たり前だがその身体には傷なんてものはない。
基本的に縄張りの中には一匹しかいないんじゃなかったのかよ‼
生態調査報告書の情報にケチをつけたくなるが、例外として書かれてたな。番は同じ縄張りにいるって。
つまり、こいつらがそうだってことだ。
先に闘ってた方が雄なのか雌なのかは知らねぇが、後から来た方が怒り狂うのは必然だろうな。
弱ってる方も、いいとこなしのまま終わるとも限らねぇ。
どうする?
生態調査報告書に書いてあった通り、二匹同時は避けた方がいいか⁉
それとも、このまま弱ったほうを押し切って、もう一匹も倒しちまうか⁉
今まで戦ってた方は相当弱ってる。それは間違いねぇ!
そいつさえ先にやれれば、形は変わらずに1対1だ。
それなら文句はないはず‼
それに、どうせアイツもどっかで見てるんなら、俺様の強さを見せつけて早いところ認めさせておかねぇと‼ その機会がなくなっちまう‼
周りを見れば、ヨハンとリミアもやる気みたいだし。なにより、キューティーの入れ込みようが段違いだ。
あそこまでになるのは珍しい。
悔しいけど、俺達の中ではキューティーが一番強い。
学園での成績だけじゃなく、大会の実績もあるし、アイツにだって褒められてた。
だから、キューティーがやる気なら・・・十分勝てるはずだ‼
駆けつけたもう一匹に気を使われながら、どうにか立ち上がろうとする傷付いたニアラプター。
今がチャンスだ‼
後から来た方が気を使っている間に、一気に攻めればそのまま仕留められる‼ 仲間の怪我に気を使っているばかりに、周りへの警戒が薄れている今こそが――‼
「ジェイドッ‼‼」
前のめりになったところをエイラに後ろ髪を引かれる。
いや、実際に髪を引っ張られたわけじゃない。
名前を呼ばれて、こう・・・水をかけられたような感覚だ。
「そんな怒鳴るみたいに呼ぶんじゃねぇよ!」
振り向きながら文句をつけると、エイラは目を閉じて静かに首を振る。
ここが引き際だと、そう言うように。
そんなわけがねぇ‼
今このタイミングなら、間違いなくやれたはずだ‼
最低でも! あの一匹は確実に、だ‼
――だが。
それでも、エイラの撤退の意思は変わらない。
いっそ強行すれば――・・・・・と、そこまで考えて。
「ここは退くぞ‼ キューティーお前が先陣だ‼ 逃げるルートは間違えるなよ‼ 殿は俺がやる‼ いいな⁉ 急げよ‼」
そんな考えを振り払うように声を上げた。
”そうやってお前は仲間を殺すのか?”
その言葉が脳裏に焼き付いていたからだ。
その光景が、焼き付いて離れねぇからだ。
あの、黒く蠢く気持ちの悪い死神が・・・俺の瞼にはまだ巣食っていたからだ。
―――エイラ
二匹目⁉
その姿を確認した瞬間、私は逃げることしか考えなかった。
理由は2つ。
1つは生態調査報告書にそう書いてあったから。
もう1つはゼネスさんが”逃げるなら下り坂がオススメだ”と言っていたから。
まさかここまで読んではなかっただろうけど。もしかしたら、私達が逃げなきゃいけないような状況・・・つまり、負ける可能性のある相手だって遠まわしに言ったんじゃないか? と思ったから。
答え合わせはここじゃできないけど、その答え合わせをしたいなら、生きてゼネスさんに会わないといけない。
なのに――‼
ジェイドだけじゃないわ。
ヨハンやリミアもやる気みたいだし、なにより。よりにもよって、なんでキューティーあなたまでやる気なのかしら⁉
これはまずい! このままじゃまずいわ‼
キューティーは。
なんというか、そう。歯止めが効かないのよ。
やると決めたことはやりきるし、やらないと決めたことは本当にやらない。
それを説得出来ることもあるけれど、そうじゃないことの方が多いのが問題よ。
それ自体は悪いことじゃない。悪いことじゃないんだけれど!
やりきるっていうのが今は危ない。あまりにも。
どういうことかって⁉
キューティーは加減を知らないのよ! 本当に、全力でやりきるの。
つまり倒れる。
そこまでやるのよ‼ あの子は⁉
知ってるでしょ⁉
「ジェイドッ‼‼」
そういう思いを込めて名前を呼んだら思ったよりも大きな声が出たわ。
「そんな怒鳴るみたいに呼ぶんじゃねぇよ!」
すかさずジェイドが言い返してくるけど、良かったこっちを見た。
それならわかるでしょ? ここで止めないと、総崩れになるわよ‼
一瞬の見つめ合い。
まだあきらめきれないジェイドに、私は目を閉じて首を振る。
ここで行っちゃ駄目。怪我だけじゃすまないわ。
私の回復魔法じゃそれほどの重傷は治せない。
ゼネスさんが近くで見ていれば助けてくれるでしょうけど、これは試験なのよ? そんなことになれば即時失格か、回想再現を使ってもらったら、その代金を請求されるのよ? 失格にならなくても、どちらにせよ合格は不可能になるわ。
だから―――。
そう思ってジェイドの方を見ていたのだけれど、ジェイドは煮えを切らしたように振り返る。
闘って、どうするつもりよ・・・そう思ったのも束の間。
「ここは退くぞ‼ キューティーお前が先陣だ‼ 逃げるルートは間違えるなよ‼ 殿は俺がやる‼ いいな⁉ 急げよ‼」
そんな声が聞こえてきて。
少し早いけれど、私はホッと胸を撫で下ろしていた。