作品タイトル不明
side――栄光ある騎士団:ヨハン&キューティー
―――ヨハン
その場の雰囲気でそのまま押し込むのかと思ってたんだけど、ジェイドさんが選んだのは撤退だった。
特に驚いたのがキューティさんを先導役に選んだことだ。
なにかをしようと集中しているようだったのに。それをやめさせ、さらに先陣を指名することで頭を切り替えさせる判断は見事だったと思う。
自分が最後尾を名乗り出て敵からの注意を引きつつ仲間を逃がす姿は、正しくリーダーにふさわしいとも思った。
そして、それよりも意外だったのがキューティさんだ。
やっぱりおかしい。
普段は自分強く持ってて、小さなことでもこうする。と決めたら絶対にやり遂げるのに、どんな時でもジェイドさんの声だけは届いてるみたいだ。
それこそ心酔してるっていうか・・・。
僕はジェイドさん達について、ほとんどなにも知らない。
知らないけど、それほどなのかな?
ジェイドさんには悪いけど、正直それほど凄いとは思わないし、あんまりついて行こう! ってなるような人じゃないと思うんだけどなぁ?
それこそ、先生くらい飛び抜けてたらわかるんだけど。
でも。その先生ですら、冒険の途中でパーティーから抜けて引退したって言うんだから、冒険っていうのはもっと僕らの想像の外側にあるのかもしれない。
あのニアラプターっていうモンスターだってそうだ。
生態調査報告書に書いてはあったけど、文字としてみるより、実物はもっと大きくて、なにより迫力があった。
大きさだけなら、いつか先生の隣で見た超弩級がいたけど・・・あれは蟻だったせいか叫んだりはしなかったからね。身体に響くような大音量も、身を叩く衝撃波も、想像よりもずっと怖かった。恐ろしかった。
こうして逃げている今だって、もしかすれば狙われているのかもしれない。
盾役のジェイドさんが最後尾にいるとはいえ、今は盾を背負って走ってる。追って来られたら迎撃は難しいはずだ。
それに多少距離が離れて見えても、生態調査報告書によれば、獲物を油断させるための罠の可能性だってある。
振り返らなくても聞こえてくる地響きの振動は、僕の心臓を強く、忙しなく叩く。警鐘のようでありながら、けれども。教会に据え付けられた大鐘の如く響く。
これはきっと恐れから来ている。それは間違いない。
なのに―――。
あれだけ強大な相手であっても、一匹なら僕らはもう勝つことが出来るんだ!
そうやって、心を打ち鳴らす早鐘でもあった。
―――キューティー
――ふぅ・・・。
折角集中していましたのに。
ですが、ジェイド様に言われては仕方ないですわね!
さっきの呼びかけはエイラですわね。
たった一度名前を呼ぶだけでジェイド様と分かり合うなんて、ズルいですわ! 羨ましいですわ‼
しかしながら、今はそんなことを言っている場合ではありません。
先陣の大任を賜ったのですから、その役はきちんと果たさなくては‼
それにしても、なぜ私だったのでしょう?
こういう場合はそれこそエイラの役でしょうに。そう思ったのですが。
まさか!
先程、私が周りを気にしていたのをジェイド様が見ていて、覚えてくださっていたのではありませんか⁉
そうに違いありませんわね‼ 流石ジェイド様ですわ‼
であれば、期待に添わないわけにもいきません!
「こちらですわ‼」
私は大手を振るって先導いたします。
ゼネスさんに言われた通り、下り坂へ。
交互に左右へとターンしながら、急勾配になっている山の斜面を下って行きます。
ですけれど、下っても下っても直ぐ上にはニアラプターが見えていて・・・その大きさのせいでしょうか? あまり離れている気が致しませんわ!
「本当にこっちでよかったの⁉」
すぐ後ろのエイラからも言われてしまいますが、
「下り坂がいいとアドバイスされたのですから、間違いありませんわ‼」
と、言う他ありません。
本当のところはこれでいいのかなんて、私にもわかりかねますわよ‼
心の中で悪態を吐き捨てていたのですけれど。しばらくもしないうちに、ニアラプターは諦めたのでしょうか? 私達が見えているにもかかわらず、興味を失ったように背を向けて帰って行ったのですわ。
「ほら見なさい! 大丈夫のようですわよ‼」
私は胸を張って宣言しますが、
「その言い方だと確信があったわけじゃなかったのね。まぁ、確かに? ゼネスさんには下り坂がいいって言われたし、事実大丈夫だったけど。それで胸を張られてもねぇ?」
エイラが茶化して来ます。
その様子から、エイラも相当に焦っていたようですわね。緊張の糸がほぐれて軽口をたたくだなんて、可愛らしい限りですわ!
「ですけれど、なぜ下り坂だったのでしょう? どちらかと言えば見晴らしも良いですし、諦める理由などありませんわよね?」
「・・・たぶん重心だ」
一番後ろを走っていたジェイド様が到着と同時に、私の疑問に答えてくださいます。
「俺も走ってみて分かったが、前が重いと転びそうになるんだ。アイツも頭がデカいから同じようなことになるんだろ。常に前傾姿勢だしな」
なるほどですわ。だから今は盾を背負っているのですね?
それにしても、疲れ、呼吸を整える姿もまた絵になりますわね‼
膝に手を当てて、息を荒く、俯く顔は・・・いけませんわ! 今はいけませんわ‼
額から汗を滴らせるジェイド様に、私が自身を戒めるように気を取り直していると。
「そこのお前ら! こんなところでなにをしてる‼」
なにやら物騒な団体に出会いました。