作品タイトル不明
そんな馬鹿な2
あいつらが受けた依頼は確か木の健康調査・・・だったか?
それならもっと別の場所でも良かっただろ。そう思わなくもないが、木の調査ってのは木だけじゃなく花の方も、あるいは花に異常があってそれを調べるためのもんだったのかもな。
鉄の花に元気がねぇだとか、マッターが依頼を受ける時にもいってたしな。
つっても、まさかバッティングするとは・・・しかも、ギャーギャー言い合っててあまりにもみっともねぇ。
この辺りは別の意味で課題だな。
実力があっても実績があっても、落ち着きがなけりゃ舐められるし、信用もされにくい。傍から見れば楽しそうだが、裏を返せば子供っぽいってことだ。信頼を置くにはあまりにも頼りねぇ。
それと、ここは森の中。町の中みてぇに安全だ。なんて、思ってなけりゃいいけどな。
さっきから、かなりデカい生物の気配が近付いてきてる。
こいつはおそらく―――、
「皆さん! 気を付けてください‼」
「グゥオオオオオオオオオオオオ‼‼」
ヨハンの呼びかけから間もなく、あいつらのもう一つの依頼の標的。ニアラプターのご登場だ。
頭から尻尾の先まで、全長5メートルぐらいか? 高さは3メートルそこそこだろう。俺の立ってる枝の位置よりはまだかなり低い。
だが、
「前衛は苦労するだろうな」
それが俺の見立てだった。
ニアラプターは種族的に言えば蜥蜴だ。にしてはデカすぎて恐竜だなんざ呼ばれてるが、竜種と違って魔力袋を持ってねぇ。ましてや、魔石の類や核、結晶体を持ってるわけでもねぇ。
だから魔法攻撃はほぼ不可能。代わりに筋肉の発達と体表の硬化が特徴的で、特にあの強靭な顎には警戒が必要だ。
そして、前衛が苦労するのは顎への警戒じゃぁなく、踏み込みと攻撃だ。
ニアラプターの懐は遠い。横はもちろん縦にも、だ。
相当な長物でも持ってない限り、物理的な方法で腹を攻撃するのは難しい。無理に飛び上がれば、尻尾で薙ぎ払われて地面に叩きつけられる恐れもある。
そうなると足への攻撃になるが、やはり。足元も分厚く、爪は固く足首は高い。それ以外の部分だったとしても、2足歩行故に足は常に動いてる。巨体の足元は踏まれる危険もあって緻密にはいきにくい。
なにより、あいつらの前衛。
ジェイド、キューティーの2人は魔法攻撃の手段を持ってねぇ。
体の表面が硬い奴らは基本的に痛みに弱い。
怪我なんざしねぇからな。
だから、ダメージを通しやすい魔法が有効な場面が多く、痛みを使って動きをコントロールするのが一番楽な攻略法になる。
俺の見立て通り、キューティーはかなり難儀してるようだ。ただ、意外にもジェイドは上手く噛みつきを捌きながら懐に潜り込む・・・がそこまでだ。
決定打がないせいで、踏み出そうとする足を叩いて前進を遅らせるぐらいが関の山。あっという間に膠着状態だ。
ヨハンの呼びかけからエイラの強化魔法までの反応が早かっただけに、速攻で決めきれなかったのはもったいねぇな。
「ここからどうするつもりだ? もう、言う程時間はねぇぞ?」
そして、このタイミングで、
「付き合ってられるかよ‼ 俺はさっさと退散させてもらうぜ‼ お前らも、死にたくなけりゃ逃げるんだな‼」
と言い残し冒険者マッターは退散。
その姿は少々情けねぇが、判断としちゃ上々だ。依頼に必要なもんはすでに入手した後だしな。ただ、初めから戦う気がねぇんなら、出会った瞬間に離脱の方が賢い。
あいつらは・・・ケイト、ヨハン、リミアで集まってるってことは魔法で戦うつもりなんだろうが、判断が遅いな。
戦闘中に相談するなとは言わねぇが、お目当てのモンスターと出会ったんだ。開幕からの戦闘内容ぐらいは擦り合わせておくべきだったな。なんなら、どんな相手に対しても”最初はこうする”って定石を作っておいてもいい。
様子を見るのは悪いことじゃねぇが、ただ眺めてるだけじゃ時間の無駄だ。
攻撃や妨害に対して、どうやって動くのかを観察した上で、動きを予測して勝ち筋を作る・・・ってのを教えたはずなんだが、いきなりは無理か。
もう少し説明しておく必要がありそうだな。いや、軍の動きを見せるのが手っ取り早いか? まぁ、追々だな。
しかし、魔法攻撃の内容は良い。
ヨハンの闇魔法でニアラプターの目を潰す。さっそく、初級魔法と見せかけて中から別の魔法が飛び出す”ビックリ箱”を上手く使っている。
ニアラプターからすりゃ、小せぇ生き物の細けぇ魔法に見えただろうが、それが鼻先で破裂して顔を覆うとは思わなかっただろう。
ケイトの雷魔法での拘束も見事だ。
足首や膝関節っつー見るからに弱い場所を狙って攻撃しつつ、つま先や踵を縫いつけるように拘束する。
傾いた体を持ち直そうと、バランスを取るためにあげた足を無理やり降ろしたり、あげられないようにしたり、2足歩行故のボディバランスの悪さも相まってニアラプターはガタガタだ。
そして、リミアの水魔法で貫く。
腹を狙ったのはいい。ケイトのおかげでニアラプターは釘付けだが、バランスを崩してるせいで頭の位置はふらふらと頼りねぇ。だから、そこを狙わずに当てやすく、比較的柔らかそうな腹を狙う発想は文句なしだ。
威力だって十分なもんだ。そこらのモンスター相手なら、間違いなく風穴があくだろう。
だがしかし、
「――グギャァアアォォオオオオォォ‼‼‼」
ニアラプターの体表は鎧そのもの。繫ぎ目を狙うでもない限り、貫通させるのは至難の業だ。
魔法を自在に扱えない反面、身体に宿し進化したタイプのモンスターは魔法耐性も高い。痛みには敏感だが、魔法が致命傷になるかは別の話だ。
それを見て畳み掛けようというんだろう。ジェイドもキューティーも前掛かりになって攻め込む。
ニアラプターもやられるだけじゃねぇ。
2人を振り払いながら、エイラをはじめ後衛2人と遊撃のヨハンを止めようと必死だ。
そんな中で、徐々に無視されていくキューティー。
細剣では傷もつけられず、痛みすら満足に与えられなかったか。仕方ねぇ。
そのせいか段々と動きが悪くなり、ついには足が止まってしまう。
自分に足りねぇもんを見つけられたんだ。なにも、悪いことばかりじゃねぇさ。
戻ってきたらそう声でもかけるか、と思っていたが。
どうにも様子がおかしい。
一瞬いつぞやのケイトが過って割って入りそうになるが、同じようなことをするほどのバカじゃねぇはずだ! グッとこらえ、思い留まることに成功した。
ゆっくりと構え直すキューティーは、いままでとは雰囲気が違う。
気迫というか、覚悟というか。纏う魔力の流れも違っている。
なにを見せてくれるのか。
気になるが―――。
「残念ながら、時間切れだ」
さっきの嘶きを聞きつけて、もう一匹のニアラプターが駆けつけた。