軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旧禍

「ゴルドラッセ⁉ なんでお前がこんなところに⁉」

「おや・・・? ああ! ゼネス様ですか。お久しゅうございます」

要塞から来たという軍人が集まる場所を受付の婆さんに聞いて訪れてみれば、なんとも懐かしい顔に出会う。

落ち着いた物腰とは裏腹に、恵まれた体格にぶ厚い筋肉を搭載した傷だらけの顔をしたおっさんがそこにはいた。

名をゴルドラッセ。

階級は中将で、役職は軍団長だ。

幼き俺のお目付け役であり、あらゆる武器の取り扱いや貴族としての立ち居振る舞いを叩き込んだ人物。

見た目は鍛冶師:バルシムを多少細長くしたような体格で、口調に見合わぬ印象を与える。同じような見た目の教官:ブロンソンとの違いは、教官がハゲかけてきているブロンドに対して、こっちはまだまだ現役のフサフサシルバーヘアなところか。ちなみに、こっちも同じ熊のような見た目のバルシムは潔のいいハゲだ。

「どうしてこちらへ? もうお戻りになるつもりはないものかと・・・」

「兄上からしつこく手紙を頂いてな」

「ああ。バロン様の門出祝いですか」

バロンは兄上の息子。つまり俺の甥の名前であり、帰郷の理由は予想の通りと言える。

「んなこたぁいいんだよ! で? なんでこんなところにいやがる?」

「それが任務だから、に決まっておりますが・・・永らく見ない間にお言葉遣いが随分と悪くなられたようで」

ゴルドラッセは怪訝な表情で俺を見やる。

が、驚いたことに俺も無意識でのこと。

「時間が経ちゃ変わるもんもあんだろ? お前が年老いたみてぇにな?」

「ですが。見た目と違い、礼儀は経年劣化いたしませんが?」

「冒険者に貴族らしい立ち居振る舞いなんざ要らねぇからな」

「・・・なるほど。まぁいいでしょう」

一瞬の長考の末、今さら俺にとやかく言う必要はないと断じたか、それ以上の追求はなかった。

俺は咄嗟にそれらしい言葉で返したが、本当は違う。

たぶん、本当はもっと単純に。

俺がこいつを、ゴルドラッセを苦手としているからだ。

俺にとってのゴルドラッセとは、幼き日の俺から自由を奪い、親の意思を基に俺を強制した仇なんだ。

確かに。貴族としてのどうのも、武器の扱いなんてのも、未だに使い続けているもので、感謝がねぇなんて言やぁ嘘になるが。

それでも。

加護を持たずに生まれた俺にとって、ほとんどを禁じられ育った俺にとって、親の顔すら碌に見ず巣立った俺にとって。

自由の剥奪とその執行者なんてのは・・・これ以上ない程の敵だった。

だから、俺はこの男を前に。

知らずのうちに構えを取って、言葉も態度も悪くなるんだろう。

「して。一体なに用でしょうか? 任務の邪魔をされると困るのですが?」

こいつの言動一つ一つが癇に障るが、グッとこらえ。

「森への侵入を制限してるらしいじゃねぇか? 俺はその許可を取りに来た」

手短に用件を述べる。

だが、

「なりません」

帰ってきたのはより短い否定。

「理由は?」

「任務の邪魔になるから以外にございますか?」

「その任務ってのは?」

「特秘事項に決まっていましょう?」

こめかみに走る痛みをどうにか無視しながら、

「それで冒険者ギルドに説明が通るとでも?」

「問題があるならばそちらのギルドの権力者に来ていただかなければ」

「だから俺が来てんだろうが‼」

懐から取り出したギルドカードをゴルドラッセの顔面へ向けて投げ飛ばす。

憎たらしいことに、奴は瞬き一つ挟まないまま、ピッっと2本の指で迫るカードを受け取ると、厭味ったらしく腕を伸ばし、カードを遠くに目を細めながら見る。

「ふむ・・・? 確かに、職員とございますが。こちらのギルドに所属はしておられないようなのですが、先日お会いしたご婦人よりゼネス様がお偉いので?」

「俺は元A級だからな。やめた後も、それなりの権力は貰えんだよ」

「そういうことでしたか。では仕方ありません。森への侵入は許可します」

ゴルドラッセはわざわざ両手で持って、頭を下げながらカードを突き返してくる。

「ですが。任務の邪魔になるような未熟者に入られては、大変困ります。なのでもし、そのようなものが森の中で発見された場合には、対応はこちらに一任させていただいても?」

「認めるわけねぇだろ? ゴロツキの仲間だとか言ってまとめて殺すつもりだろうが」

カードを引き抜き、仕舞いながら。見上げてくる顔の表情から対応を予想する。

笑みの欠片もねぇこの顔なら、間違いなくそうするはずだ。

「では、どうするおつもりで?」

「俺に知らせろ。身元は俺が調べる」

「それで被害が出た場合には?」

眉一つの動きだが、明らかに嫌な顔を見せてからの押し問答。

なにかあるのか?

「そいつはお前ら軍の責任だろ? 迅速な判断も、報告も、軍なら出来て当然。だよな?」

「それはもちろん。しかし、確認はどちらで行うつもりです? ゴロツキとは言え、悪漢かも知れぬ者を町に入れるわけにはいかないのはお判りいただけますでしょう?」

どうしてもゴロツキ連中を町へ入れたくねぇらしい。軍としては当たり前だが、そこまで意識するほどか? なにかあっても取り押さえられねぇなんてことはねぇはずだが・・・。

いや、あるいは逆か?

町の外の誰かと町の中にいる奴を合わせたくねぇ。又は、町の外に出た奴を町に戻したくねぇ。もしくは、それらの両方か。

「俺が森へ入ればいい。それとも、俺に森へ入られたら、なにか問題でもあるのか?」

「まさか! ただ、心配なのです。そのお歳で冒険者を引退なされたということは、実力が足りなかったのでしょう? なにかあっては総司令に合わせる顔がありません」

心にもねぇことを。

そもそも我が御父上は俺のことなんざ興味ねぇだろ。

今まで顔を付き合わせたのはただの1度だけ。

その顔を見たのでさえ、2度かそこらだ。

っつーことは、

「要らねぇ心配だ。問題がねぇなら文句もねぇよな? 言った通り、冒険者の可能性がある奴と任務中に森の中で出くわした場合、俺に連絡を寄こせ。俺が現地に赴いて判断する」

「・・・いいでしょう。しかし、連絡を受けた場合には迅速に対応いただきますよう、お願いいたします」

こいつが・・・いや。

軍がなにかを隠してるってことだ。