軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転機、起点

入ってきたのは屈強な体付きの男と少し腹の出た女。

「ばあさん! 依頼はまだねぇのか?」

「そうだねぇ。ちょっとないねぇ・・・」

「どーなってやがんだ! くそっ‼」

「アンタ! ちょっと落ち着きな‼」

やり取りの様子から男はどうやら焦っているようだ。

一緒に入ってきた女に宥められても平静を取り戻せてはいないらしい。

しばらく右往左往した後、俺達の存在に気付いた。

「なに見てやがんだ‼ ああ⁉」

男は相当焦っているのか気が立っている。

だから、そういうことを言いたくなる気持ちはわかるんだが、言っちゃ悪いがその動き注目を集めねぇ方が無理だ。

態度の悪い厳つい男がガサガサしてんだからな。

「見てたらなにかまずいのか?」

「見せもんじゃねぇって言ってんだよ‼」

「だったら落ち着けよ。バカ見てぇに騒ぐから、見せもんかと思われるんだろうが」

「なんだとお⁉」

男は元々袖のない腕をまくるようにして右腕を上げるが、

「やめなよ! アンタ‼」

連れの女がそれを止める。

片手は男に。もう片方の手は自分の腹に。

心配そうな顔で自分の腹を撫でる女・・・ってことは妊婦か。

「でもよぉ・・・」

振り返って不満を告げる男を女が諫める。

見た感じ。元はパーティーを組んでた男女とか、そんなところか。

それが、妊娠が発覚して急に金が要りようになった。あるいは定住を決めたか。なんにせよ、ここでの暮らしに金の問題があるんだろう。

「ッ⁉ まさか‼ おい、ばあさん‼ あんた、こいつらに依頼をやってねぇだろぉな⁉」

ハッとしてカウンターに詰め寄ろうとする男に、

「B級以上の依頼なら残ってるじゃねぇか?」

張り出されたままの依頼ボードを指差してやる。

「ふざけてんのか⁉ てめぇ‼」

すると男は狙い通り標的を俺に移して寄ってくる。

年寄りに詰め寄らせるのは気が引ける。俺も同じギルド職員ではあるし、適当にぶん殴ればこいつも黙るだろう。

そう思って腰を上げたところで、

「ちょっと、やめておくれよ! 依頼なんてはじめからないんだからねぇ!」

カウンターから必死の叫びが届く。

「ちっ! ふざけやがって・・・‼」

男はぐるりと背中を向け、またカウンターに向かう。

「どうして先生が喧嘩を売っているのでしょうか?」

「そうですよ! 僕らもいるんですよ‼」

ヨハンとリミアが小さい声で抗議してくる。

「冒険者なんて頭に血が上りやすい連中ばっかりだ。放っておいてあいつがカウンターの婆さんを殴りでもしたらどうする? 最悪死ぬぞ? それを見過ごすわけにはいかねぇだろ?」

そんなことはまずないとは思うが、それでもはっきりないと言い切れねぇのが面倒なところだ。

「” 気高きは義務の上に(ノブレスオブリージュ) ”ですわね‼ 弱きを助けるのは貴族として当然のことでしてよ?」

俺の言葉を聞いてキューティーが誇らしそうに胸を張りながら言い、

「だとしても! 私達も一緒にいるんだから、控えて欲しいわ。ゼネスさんが負けることはないと思うけど、それで恨みをかって代わりに私達が狙われるのは嫌だもの」

エイラが時と場合を考えて! と続ける。

「あんな奴に狙われたってどうってことないだろ! 俺様が返り討ちにしてやるぜ‼」

「わ、私には・・・無理。1人の時に襲われたら・・・・・・‼」

「そうね。私も同じよ。体格の差もあるし、逃げられるかどうかもわからないわ」

息まくジェイドをケイトとエイラが責める。

「なら1人にならなきゃいいだろうが‼」

2人から棘を受けたジェイドが反射的にそう返すと、

「へぇ? そうすれば私達を守ってくれるって? カッコイイじゃない? でもそれって、寝てる時も? トイレの時も? 体を洗ってる時もかしら? あなたにそんな趣味があっただなんてね?」

「なぁッ⁉」

「う、嬉しいけど、その・・・恥ずかしいね」

「そうですわね! でも、私はやっぱりうれしいですわ!」

「おい! お前らな‼」

待ってましたと言わんばかりに、エイラがジェイドをたじたじにして遊んでいた。

そうこうしているうちに、男はカウンターでの話を終える。が、どうにも納得できていない素振りだ。

結局依頼は受けられずってことなんだろうが・・・。

「丁度いいかもな」

「丁度いい、ですか?」

ジェイド達4人の輪から外れていたヨハンが俺の呟きに喰いつく。

「ああ。ここのギルドにはよっぽど人がいねぇのか、あの男があんな態度でもカウンターの婆さんは申し訳なさそうにするばっかりだ。つまり、あんなでもあの男はこのギルドにとって重要な存在ってことになる」

そうでもなければ適当にあしらわれ、追い返されて終わりだ。

「それが?」

「箔付けだよ。さっき言ってた実績作りだ。あいつはたぶん、連れの女とパーティーを組んでB級の依頼をこなしてたんだろう。だが、女の妊娠でそれが出来なくなった。しかも、個人ではC級なせいで依頼がなく、金に困ってる。だから勝てば賞金つって、こっちから勝負を持ち掛けても乗ってくるんじゃねぇか? と、思ってな」

それを聞いたヨハンは目を丸くして、リミアは猜疑心を宿らせた目で。

「よくそこまでわかるものですね。先に調べていたのでしょうか?」

「態度と言動で、ある程度はわかるだろ? あっちの女も。少しだが腹が出てるしな」

「全然わかりませんよ?」

「女性の腹部を注目して見たりはしませんので」

と、まぁ素直な意見をくれる。

「慣れりゃそのうちわかるようになるさ」

隣で責められ続けているジェイドと同じように、なじられそうになるのをどうにかはぐらかしつつ、どうやって話を進めるかを俺は考えていた。