軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

巡り巡りて

「教官。いますかー?」

「いいからさっさと入ってこんか‼」

叩いた扉の向こうから、そんな声が返ってきた。

「なに慌ててんですか?」

「抗議要請への対策を考えてたんだよ‼ 1人でなぁ‼ どこになにしに行ってやがった‼ さぁ、言え‼ 早く‼」

よくわからねぇ書類の山に埋もれていた熊がのそりと立ち上がり、詰め寄ってくる。

「これ以上被害が出ないように、犯人を捕まえに行ってたんですよ」

「ほぉ? それで? その犯人とやらは捕まえたんだろぉなぁ?」

「いやーそれが全く。影も形もありませんでしたね

「だったらこっちを手伝えってんだよぉ! ウチの所属人数やら等級やら受注中の依頼やらまとめて、リスト作ってスケジュール組まなきゃなんねぇんだぞ⁉ しかも、他の仕事もしなきゃならん! コソ泥騒ぎの後始末もだ‼ それがどんだけ大変か! お前さんにゃぁわかるだろぉ⁉」

「わかってるからやりたくねぇんでしょうが。まぁ、どっちにしろ、その労力は無駄に終わりそうですけどね」

「ッ⁉ どぉいうこった⁉」

「それがですね――」

俺は掻い摘んで、兵士との密約について教官に話した。

「つーわけで、表向き盗賊共は捕まったってことになるんで。抗議要請は来ねぇと思いますよ?」

「なぁんでそぉなんだよ! 畜生めぇ‼」

「ま、そういうこともあるでしょ。管理者としては無駄骨でもやらないわけにはいかねぇこともあるってだけですよ」

「そんなもんで納得できるかぁ‼」

教官は魂からの咆哮を響かせて、しばらく肩で息をしてから、俺に向き直り話を続ける。

「そんで? どぉすんだ? 建前だけでも皇都を離れんだろぉ? どこへ行くつもりだ? いつ戻る?」

「それなんですがね? 一度帰省しようかと思いまして」

「お前さんがかっ⁉」

ようやく落ち着いて腰かけたっつーのに、またしても机をガタッと言わせて立ち上がる教官。

「そんなに驚くことですか?」

「駆け出しの頃から、あんだけ帰れってぇ言ってやったのに。一度として帰らなかったのはお前さんだろぉが‼」

「そうでしたっけ?」

とぼけてはみるが、確かに。

あの頃は今より。もっと、ずっと、実家に帰りたくなかった。

あそこの空気が。俺はなにより嫌いだったんだ。

「でもまぁ、冒険者も引退したんでね。困ったことに、しがらみってやつも断ち切れなくて。なにより・・・実家を頼ることもあるかな、と」

「家名を都合よく振りかざしといてなに言ってやがるって話だが。その片棒を担がせてる身としちゃぁ言葉もねぇわなぁ」

ポリポリと鼻の頭をかきながら、教官も反省の態度を示す。

「そぉか・・・お前さんがなぁ・・・なんつーかぁ、汚れちまったなぁ」

「誰のせいでしょうね?」

「さぁなぁ? しかし、こうやって振り返ってみると・・・・・・意外と昔っから、お前さんは汚れとったな! 変わらん変わらん!」

「どこがだよ! 随分大人になっただろうが‼」

「お前さんは最初っから大人ぶっとったよ‼ 一人前です! みたいな顔しておったわ‼ 今はむしろガキ臭くなったがな!」

「じゃぁ浄化されてんじゃねぇか‼」

「どっちにしろ成長の証だ! 成長とは汚れることに他ならん! お前さんはもう立派に汚ねぇ大人だってぇこったなぁ‼ 精々胸でも張っておけぇ‼」

「そんなもん、胸に貼り付けてどうなるってんだよ! ふざけやがって」

くだらねぇやり取りで笑い合う。

ここのこういう雰囲気が、俺はたまらなく好きだった。

忙しなく、雑多で、下品で・・・でも現実を知らねぇわけでもなく、それなのに。

夢だなんだと恥ずかしげもなく笑って言えるこの場所が。

逆に、規律に厳しく、統率をもって支配する軍の勢力が強すぎた実家は、あまりにも居心地が悪く。

なにより、その風習を。俺は受け入れられなかった。

「ちゃんと帰ってくるんだろぉな?」

「そのつもりですよ。あそこは俺の居場所じゃない」

「わかった。信じて待とう。今お前さんに抜けられたら、ここはなくなるだろぉしな」

「それは俺が一番困りますからね」

「しかしその間、あいつらはどぉするつもりだ? またワシが面倒を見るか? ワシは構わんが、あいつらは不満に思うんじゃねぇか?」

「いや、今回はあいつらも連れていこうと思います」

「お前さんの実家にか⁉」

「ええ。あそこはあいつらにはいい経験になるでしょう。死ぬことの意味。命の軽さ。知っておいても損はねぇ」

「そうか・・・・・・まぁ、そぉだな」

俺の実家に連れていくといったところで、今日何度目かの教官の驚愕。正直見飽きたが、まだ終わりじゃねぇ。

「それとついでに、B級昇格試験もやっちまおうかと」

「あいつらぁこないだC級になったばかりだぞ⁉ そんなに急ぐことか?」

「それはそうなんですけどね。北の魔物は強い上に、向こうは依頼も少ねぇ。だから、丁度いいんじゃねぇかって」

「そりゃそぉかも知れんが、向こうにゃほとんど冒険者ギルドもねぇだろぉ? ってぇことは・・・」

「俺が監督しますよ」

「それが心配だっつってんだろぉ? まぁ、止めはしねぇが」

今度は驚きではなく呆れだった。見飽きたとは言ったが、かわりがその態度なんじゃ驚かれた方がいくらかマシだ。

「別に不正なんざしませんよ」

「逆だ! 逆‼ 厳しくなりすぎねぇよぉにしろっつってんだ‼」

「普通にしますよ。基準が変わるわけでもなし」

「お前さんの普通が普通だった例がねぇだろぉに・・・」

「そこまで言うなら予行演習でもやらせますよ。それでいいですか?」

「おぅ! そぉしろそぉしろ! 豆知識でも、裏技でも、ルールの隙間でもなんでも教えてやれ! そんぐらいで丁度いいんだ!」

「それで丁度いいって・・・俺はそんなもん聞かされた覚えがないんですが?」

「お前さんにはそんなもん要らんかっただろぉが‼ なに言ってやがる! まったく、あの頃からお前さんってやつぁ――」

気付けば、教官の昔語りが始まっていて。俺が当時どれだけ非常識だったかってことばかり、論う。なにか思うところでもあったんだろうか?

そんな話を聞き流しながら。

きっと、あいつらも試験なんざ簡単に突破してくれるだろうと。

そんな予感がどこかにあった。