軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

切り斬り

『そうか』

それ以外の言葉がなかった。

ユノの両親。つまりは教皇グレアムの息子夫婦。

そして、その可能性については爺から聞いてた気がするが・・・まさか娘にも話しているとはな。

その心境は計り知れない。

噂を聞きつけ、調査に来た望福教信徒はユノを見て、知って、どう思うか?

仲間になると思い引き込もうとするか。

捨てられた哀れな娘だと嘲笑うか。

あるいは、その存在すら関知しないか。

どれであっても。その心は穏やかでいられないだろう。

その覚悟に。口を出すことが出来なかった。

それにしても―――。

「聞く順番を間違えたよな・・・」

結局、あの店の窃盗被害の小ささについては、わからず仕舞いだった。

覚悟を後にそれ以上を聞くのも憚られ。ユノを途中まで送るその道中も、他愛ない会話に終始することになったからだ。

ベルの勘には悪いが、このままなかったことにさせてもらおう。

あの店が教会と関係があるなら、下手に探れば厄介なことになりかねないしな。

このことを知ってしまったのならば、これも! これも! と。あの爺なら嬉々として言って来そうだ。容易に想像できるのがまた腹立たしいな。

今でも手一杯なんだ。これ以上の面倒事は御免だ。

これからの里帰りを思い、憂鬱になりつつも。

「残ってるサイコロ串肉サラダパン全部」

「景気がいいねぇ? なにかあったのかい?」

「盗人騒ぎがあるからな。溜め込むよりは使っちまおうかと思って」

「はっはっは! だったらパンを盗まれねぇよう気をつけな!」

帰りに広場の屋台で誰かの好物を買って帰った。

日も落ち、季節柄めっきり寒くなった中、灯りと温もりの残るギルドの扉を開く。

「あっ! おかえり~」

同時に、受付で待っていたミリーに声をかけられる。

「もう終業後だろ? まだ残ってたのか?」

「今じゃ受付は私が最古参だからね!」

受付から離れるように、頬杖を崩しながら苦笑して見せる。

「侵入者のこともあったし、戸締りはしっかりやっておこうかな? って。どう? 偉いでしょ?」

「そうだな」

ミリーは昔からこういう性格だった。

気にし過ぎっつーか、余計なものまで背負おうとする。

悪く言うなら、解決なんざ出来もしないのに、だ。

だから、

「そんないい子には、お土産だ」

「わー! サイコロ串肉サラダパンだ‼」

あまり気にさせないように、周りが気を使ってやる必要がある。

「袋見ただけでよくわかるな?」

「常連だからね‼ この袋は他の屋台のとはちょっと違うんだよ‼ うわっ‼ しかもいっぱい入ってる‼ おにーちゃん大好き‼」

つっても、愛嬌の良さから構ってやるのも楽しみになってたりするんだけどな。たぶん、俺以外でも。

袋を抱いて踊るように喜ぶ妹分に、早く帰るように促しつつ、ついでに聞く。

「教官は帰ってるか?」

「ふぉもふぉもでふぁふぇてないよ。んんっ! だから、まだ上にいるんじゃないかな?」

「喰いながらしゃべるな。つーか、帰ってから喰えよ!」

「だってまだあったかいんだもん‼」

そういえば、あの屋台は他と違ってその場で調理してるんだったな。作り置きが基本の屋台では珍しい限りだ。その辺りもミリーのお気に入りな点なのかもな。

「まぁいいや。上にいるんだな? じゃ、お前も早く帰れよ」

階段に続く扉に手を伸ばしたところで、

「ちょっふぉまって!」

懲りずにパンを口に突っ込んでいたミリーが、パンをどうにか飲み込んで呼び止める。

「泥棒って捕まえた⁉」

「粗方な。逃げてる奴らの中に今日の奴も混じってるから、俺はそいつを追いかけるついでに里帰りだ。他にも残党が居るかもしれねぇから、しばらくは窃盗騒ぎが続くだろうが、そっちもじきに収まるさ」

下手な心配をさせねぇように、ここでも打合せ通りのことを伝えておく。

「そっか、じゃあ大丈夫だね! ありがと! おにーちゃん!」

「ああ。お前も、気を付けて帰れよ。逆恨みで襲ってくる奴がいるかもしれねぇからな?」

「えぇー⁉ 送っていってくれないの⁉ 真っ暗なのに‼」

「すぐそこだろうが! それに、教官に話とかなきゃならねぇこともあるしな」

「ケチー‼」

「なんだ? パン返すか?」

「やだ‼ じゃあね!」

軽く追いかけるような仕草を見せると、パッと離れ、サッと荷物を取り、ピュッと駆け出す。

「パンありがとー‼ あとゴミ捨てといて! お願いね!」

そこらの冒険者よりよっぽど速い身のこなしで、裏口からの去り際にそれだけ言い残して、パタンと扉の閉まる音がした。

「ったく・・・」

食べる時に引き抜いたであろう串を拾って折り、ゴミ箱に捨ててから。1階の灯りを落として鍵を閉め、階段を上がった。