作品タイトル不明
side―ホウ2
「そうでもねぇよ。アレが一番重要なことだ」
「アレが⁉ 僕に見せつけるみたいに、ついでのようにやってのけたアレがかい⁉」
どうにも、フッチにはそう見えていたんすね。
突っかかるような態度なのはプライドの問題ってわけだ。
「お前には動きが直線的すぎるって言ったよな?」
「よく、覚えているよ」
「なら、そんなお前に質問だ。勝つってのは・・・どういうことだと思う?」
「意味がわからない。勝ちは勝ちだろう? 敵を殺せばそれで勝ちだ。違うかい?」
フッチの言うことは間違ってないと思う。
思うんすけど、これはそんなに単純な質問でしょうか?
勝つこと。すなわち負けないこと。
だとすれば、殺すことは勝つことではないし、逃げることだって勝つことになるわけで。
明確な勝ちってのは・・・・・・ないんじゃ?
「正解は――心を折ることだ」
そんな風に思ってたところに答えが出された。
「心を、折る?」
「そうだ。勝てない、戦いたくない、意味がない。そう思わせることだ。それが出来りゃ、相手が生きてようが死んでようが関係ねぇ。殺すってのはそのための手段、あるいは結果に過ぎない」
「あんな小手先を斬っただけでそうなるって言うのかい? その後すぐに気絶させたのに?」
答えを聞いてもフッチは納得出来ない。
そりゃそうでしょう。
今までの経験がある。殺すことで勝ってきた経験が。
でも、
「じゃぁ聞くが・・・あいつが起きたとして”さっきのはちょっとしたミスだ。次にやったら勝てるはず!”なんて言って、俺にまた戦いを挑むと思うか?」
「・・・・・・思わない。ああ、そうだね。それはない。あるはずがない」
「だったら、どんな反応をすると思う?」
「喜ぶ、だろうね。生きてることに。そして、腕の傷を見て恐怖するんじゃないかな? 夢じゃなかったことに」
「そんなところだろうな。だから、あいつらが回復した後、俺達を追ってきたとしても戦おうとはしねぇだろう。それが勝つってことだ」
「それはわかったよ。でも、殺すことがそんなにいけないかい?」
「良い、悪いじゃねぇんだよ。殺すってのは手段だ。・・・そうだな。あいつらって言ったが、最後の一人。あれだけは特別だ。とんだ勘違い野郎だからな。あいつだけはもう一度、俺に挑んでくるだろう。心が折れねぇしつこい奴だ」
最後って言うと・・・ああ~、あの格闘の。
他の傭兵に比べて一際強かったはずなんすけどね。
印象に残ってないのはもっと強すぎる人がいたせいなのか。
それとも、他の傭兵と変わらないやられ方をしちまったせいなのか。
「そうなると、最終的に殺すしかなくなる。生きてる限り抗ってくるわけだからな。仕方ねぇ」
「仕方なく?」
「ああ、仕方なくだ。考えてみろ。もしあの場に俺が残っていたら、あいつらは俺に従うんじゃねぇか?」
間違いなく、従うでしょう。
誰だって、死にたくはない。
「で、あいつらを働かせてその給料の一部を上納させる。その場合、あいつらを殺して金品を奪うのと、どっちが儲かる?」
「けど、そんなことを言ったら流石に、また歯向かうんじゃない?」
「その時はまた分からせればいい。あの最後のイカれ野郎を殺してもいい。見せしめにな。侵略国家がよくやるやつだな」
それはあまりにも効果的で。
どうなるか、は言うまでもないでしょう。
「でも、それになんの違いがあるって言うんだい? 生かしておくことが偉いのかい?」
「別に生きてるかどうかは重要じゃねぇ。重要なのは強い奴ってのは勝ち方を選べるってことだ」
「勝ち方を選ぶ・・・?」
「それが、強者にだけ与えられた権利だ。逆に言えば、それがねぇ奴は」
「弱いって?」
「そうなる。お前は殺すことを目的としてきた。その結果を勝利としてきた。つまり、殺さなきゃ勝てないってわけだ。それが動きに出てる。直線的すぎるってのはそう言うことだ。急所狙いは読みやすい。弱い奴の動きだ」
言っていることは尤もだ。
急所狙いは分かりやすいからすぐ避けられるんすよねぇ。だから連携を組む。けど、それが一人で出来るなら・・・? もっと戦いの幅は広くなる。
聞けば聞くほど異論がない。
「それで・・・相手の手足を斬ったとして、なにがどう変わるって言うんだい?」
「さっき自分で言ったこと、忘れたのか?」
「・・・さっき僕が言ったこと?」
「恐怖をするんじゃなかったか? あいつは、俺に」
「それが・・・?」
「じゃぁ、なんで恐怖するんだ?」
「殺されると思ったからじゃない?」
「どこでそう感じたと思う?」
「腕を斬られたところ・・・?」
「腕を斬られただけで死の恐怖を感じるのか?」
「それは! その後すぐ気絶させられたから‼」
「気絶してそう感じるなら怪我なんざ気にしねぇよ。もっと細かく思い出せ。なんで怪我を気にすると思ったのか。怪我をした状況を」
「そんなこと言われても・・・本当になんとなくそう思っただけで、状況なんて・・・・・・――いや、そうか。攻撃・・・」
「そうだ。より鮮明に傷を気にするだろう想像出来たのは、攻撃の時に怪我をしたからだ。防ぎきれなくての負傷や不意打ちなら、切り替えられたかも知れねぇ。だが、攻撃に行って、次の瞬間に怪我をした。武器を持っていられねぇような怪我を。それはつまり、攻撃自体を封じられたってことだ。怪我には痛みを伴う。痛みは生命の危機を訴える。だから怪我をすれば恐怖を覚えるのはなにもおかしなことじゃねぇ」
あぁこれは見なくてもわかる。
さぞかしフッチは不満な顔をしていることでしょう。
「ただ、より正確に思い出させたのはさらに想像しやすくするためだ。敵に攻撃を躊躇わせるような恐怖を覚えさせたとしたら、どうなると思う?」
「そんなの防戦・・・というか、動かないんじゃない?」
「最初はそうなるだろうな? 攻撃したくないと考えるだろう。だがそれは、いつまで持つと思う?」
「そんなの、逃げるまでだよ」
「そうだな。1人ならな?」
あ、と誰かの声が聞こえた。いや、全員だったかもしんねぇ。
「仲間がいると、とたんに逃げられなくなる。かといって、すぐに飛び出すことも出来ねぇ。動けない。動きたくない。見ているだけの自分。それがいつまで持つ? いつ動き出す? それを止めるには?」
「それが・・・‼」
――支配の正体‼
「そう。さっき見せた戦い方で、勝ち方を選ぶって奴だ。仲間を使うってのにはそういう意味もある。やりたくない理由を与えて障害にする。あの時は敵に敵を押し付ける方法を取ったが、人質にして脅しかけても良かったんだ。降参しろ! ってな。まぁ面倒だったからやらなかったが」
なるほど。変化を与えて、その先を見据える・・・か。
「それ‼ スイも出来るようになりたいです‼」
「魔法でか⁉」
「出来ないです?」
「出来なくはねぇが・・・かなりきついぞ? それこそ幻覚魔法とか使った方が早いぐらいに」
「そういえばそれも聞きたかったです‼ 幻覚魔法って凄いです?」
「凄いかって言われれば凄いが、どう凄いかを説明するのが難しいんだよな。まず―――」
と、そんな感じで。その後も続く色んな質問に答え続けていた。
人気もない草原の道。
日が傾き空にすら変化が起きる。
なにも、おかしくはない。
変化することが当たり前なんでしょう。
それから目を逸らしていたのは・・・・・・。
いいや、まだ逸らしていたかった。それが叶うなら。
けれど・・・。
もう変化は止まりそうにない。
より良く。より強く。より新しく。
この人の言葉にはそれだけの価値があった。
だとしたら、俺は?
「もっと先を・・・か。随分とまぁ贅沢なことすねぇ」
夢を見てもいいのかもしれない。