作品タイトル不明
side―ホウ1
御者台に座ってから待つことしばらく。ようやく目的地が決まったみたいすねぇ。
窓が開いてたもんだから中の声は聞こえてはいたんすけど、どうやらリーダーが決めたことのようで。
俺としてはあの人。ゼネスさんの言う通り、知らぬ存ぜぬで身を隠しても良かったと思うんすけど、まぁそれでこそリーダーでしょう・・・とも思う。
俺は伝えられた通りの道を進んだ。
「それにしても・・・武器の扱いも上手いんだな」
リーダーがそう言ったのはあの戦闘を見たからか。
「そこそこな。幼少期に色々と仕込まれた。軍で使う武器なら一通り使えるぞ」
聞かれた方はなんてことねぇと言ってのけるが、
「本当に・・・それだけ?」
うちのお嬢には聞き捨てならんことだったりするわけで。
「そりゃぁ冒険者をやってた期間だって、全く触って来なかったわけじゃねぇし・・・先に進めば手本になる奴だって現れるさ。ただそれでも、鍛錬だとかはやった覚えはねぇな」
「そう・・・・・・なにが違う? 才能? それだけ? でも・・・じゃあ、どうすれば・・・?」
はっきりと聞こえたのは、そう。の部分だけとはいえ、ブツブツ言ってるのは聞こえるんで、たぶんそんな感じのことを言ってるんでしょう。
なにせ、うちのお嬢・・・タンも。
南の辺境伯家に生まれて、同じようにその色々を叩き込まれたはず。ならば、同じだけ出来なければ満足できんと。そう考えてるんでしょう。あれで、結構な負けず嫌いすからねぇ。
その違いからなにかを見つけられりゃいいんすけど・・・パッと思いつく違いは男女の差と年齢の差くらい。背丈にそこまでの違いはねぇんで、後は技量の差。
といっても、それが一番一目瞭然なんすけど。
ありゃぁ大したもんだ。
人生柄。争いごとは数多く見てきたつもりだったのに、あんな光景を他に見た覚えはねぇ。
その場の全てを支配していた。
預言めいたことを言いながら、そうなるように敵を動かしていた。
あれは争いなんかじゃない、一方的な蹂躙だ。
傭兵共だって、一気にかかっていった方がよかったんじゃないか? と思うんすけどね・・・なんで出来なかったのか? あるいはあの人が、そうさせたのか・・・。
考えたところでわかりゃしないんですけどね。
「なんであの傭兵達をわざわざ生かしておいたんだい? 追って来られると面倒なのに」
考えてもわからないなら本人に聞けばいい。そう思ったんでしょう、普段口数の少ないフッチすらも声を上げる。
「死人を出した方が面倒だろう? 人が死んだ事実はそう簡単に消せやしない。あの傭兵共はあんなんでも向こうの商会の人間だ。俺達・・・もっと言えば、マンサ商会との諍いで人死にを出したとなれば今後、マンサ商会はこの国で色んなことがやり辛くなる。そんなのは避けるべきだと、思わねぇか?」
「それは・・・・・・そうだね。僕達のせいで迷惑をかけるのは良くない。僕が言えたことじゃないけどね」
「そこまで気にかけていただいて、光栄ですな」
「関係ねぇ奴は巻き込まない。基本的な話だ。つっても、徹底出来てはねぇけどな」
「それは致し方ありませんな。あの状況でしたからな」
「本当に申し訳なく思ってるよ」
「ですから! 頭は下げなくともッ‼」
サンパダさんの本気の声だ。
どうやら、本当に頭を下げてるみたいすねぇ。
こういうとなんなんですが、中にいればよかった。そんなに珍しいものを見れるんならね。
あの人が頭を下げる姿なんて想像すら出来やしない。
けど、これは現実で・・・。
俺が思ってたよりよっぽど、あの人は誠実なのかもしれない。
少しばかりの間があって、
「それなら、怪我をさせるのもまずかったんじゃないのかな?」
フッチが続けた。
間があったのは俺同様、皆も驚いてたんじゃないすかねぇ?
「まぁな。避けられるんなら避けるべきではあっただろうな」
「じゃあ・・・」
「ただなぁ・・・? あの状況。後から来た奴にはどう見えるだろうな?」
「どう、って・・・・・・?」
「立ってる奴こそいないが傷は仲間の武器で付けられてて、のびてる奴は殴られたような節があるだけ・・・見ようによっては仲間割れを起こしたようにも見えるんじゃねぇか?」
「そんな強引な‼」
「強引か、そうだな。だが、1人相手に全滅と、どっちが現実的だ?」
「それは、」
「1人だったかまではわからなくとも、倍以上の人数を引き連れて、非戦闘員含めた半分以下の相手に全滅。しかも見たところ相手に手傷を与えた様子もなし、だ。公表するとしたら、どっちを取る?」
「そうか。死人が出てたら仲間割れで人死にを出したって恥が広がる。でも、ちょっとした怪我程度なら――」
「魔法で治せるんだ。頭に血が上った結果だったとしても、元が質の悪い傭兵だ。むしろ良くまとめてる方だ、とでも言われるかもな?」
確かにそうだ。負けた恥は隠しておきたい。出来るものならば。
けど、死人が出ちゃそうは言ってられない。
それならいっそ諍いがあったと公表して、その結果殺されたとした方が恥が少ない。理由はどうあれ、殺した方が悪いとなるはずだからだ。特に、俺達はよそ者すからねぇ。
理由は公表しなくてもいい・・・いや、でっち上げたってかまわない。それぐらいのことは出来るでしょう。
・・・なるほど。
それにしても、
「そんなところまで考えてたのか?」
そう! そこだ! リーダー‼
「まさか。都合がよかったからああしただけだ。それに、あれ自体は常套手段だからな」
「常套手段?」
「国境線が隣接してる地域の小競り合いではよくあるんだよ。一方的にやられた時に周りには酒に酔った勢いだとか喧嘩を理由だってことにしておいて、上層部にだけ真実を伝えたり、より話を膨らませて伝えたり、な。例えば・・・幻覚魔法にやられた、とかな」
幻覚魔法は言い過ぎじゃ? と思わなくもないすけど、面子を保つのにはよく使われる手なわけだ。
「それはバレないのか?」
「場合によるだろうな。幻覚魔法だってないわけじゃねぇ。報告が上がってくれば対応は必須だ。嘘だとバレりゃ、こってり絞られるだろうがな。過去には自分で部下をぶちのめしておいて、そう報告したやつもいたぐらいだ」
「そいつはどうなったんだ⁉」
「記録にはなかったよ。なにも、な」
そいつは絶対に消されてると思う。
「待ってよ! なら、怪我をさせたことに意味なんてなくて、ただ仕方なくってことかい?」
やけにフッチが突っかかるんすけど、なにがそんなに気になるのやら。