作品タイトル不明
side―サン
”よく見てろ”
そう言われたときは、なにを・・・と思った。
予想外の事故が起きて、意図的に事故を起こして。
倒れた馬車が並んだ中で倒れた人達がいて。
壁のように積みあがっていたゴミ山が崩れて、日常が壊されるような感があった。
戦わなきゃいけないのはわかってる。
俺達だって伊達に冒険者をやってきたわけじゃない。
なのに、ゼネスさんの背中をどこか遠く感じて、その向こうに並ぶ傭兵さえ他人事のように思えた。
だからせめて、俺は言われた通りによく見ていようと・・・そしたら、
「危ないっ‼」
口だけが動いていた。
明らかにゼネスさんは油断していた。
隙だらけだった。
上の空で、なにかを思い出そうとしているような。
けど、それも取り越し苦労だった。
スッと身を引くだけで躱して、一撃の下に相手を気絶させてしまった。
流石に・・・あの堅い籠手で殴られたら耐えられないか。
手に持っていた剣すら取り落として弾き飛ばされる姿は可哀想だけど、敵なんだから仕方がない。
キィンと転がる剣を見て、ゼネスさんが再度固まる。
そして、再び動き出した時には笑顔を見せながらこう言った。
”まずは基礎からだ”と。
どういうことか、悩むまでもなかった。
なぜならゼネスさんが地面に落とされた剣を拾い上げながら、笑って言ったからだ。
俺の方を見て。
ドキッとした。
なにか・・・全てを見透かされているような。そんな感覚があったからだと思う。
ゼネスさんは手に取った剣を右手で持ち、左手の籠手に擦り付けて刃を潰しながら、その出来を見極めつつ説明まで始めた。
「まずは両手持ちの基本だ。右利きのお前は右手で柄の根元を強く握れ。一番鍔に近いところだ」
わざわざ敵に背を向けながら、手元を俺に見せつけながら、
「それで、左手は緩く。柄の先、柄頭辺りだ。お前は両手で強く握り過ぎなんだよ」
他ならない俺に駄目出しをしてくれる。
だが、それは危険だ。なぜか? 言うまでもない。背後に敵がいるからだ!
ゼネスさんが拾い上げた剣よりも重そうな両手剣を1人の傭兵が振りかぶり、ゼネスさんの真後ろに迫る!
「――ッ‼」
後ろ‼ と声に出すまでもなく。
俺にわかりやすいようにか、顔の前で水平に構えていた剣をそのまま頭上まで持ち上げ、背後からの唐竹わりを防ぐ。
ゼネスさんより大柄の、より重い大剣の一撃を、ほとんど片手持ちの剣で受け止める。
「両手持ちの場合、利き手は支えだ。だから固く握る必要がある。そして、それがちゃんと出来てりゃ体重の乗った振り下ろしだろうと、支えにより近い位置で受ければ止められる。コツとしては刃の根元、鍔との間辺りで受けるのを意識すること」
言われて、注目すれば確かに。
寸分違わずといった位置で受け止めている。
。
「もちろん筋力的な限界はあるけどな。ま、そこは強化魔法でごまかすなりやり方はある」
そうはいうけれど、ゼネスさんの体からは全く魔力を感じない。
つまり今は素の状態で、後ろからの振り下ろしを見もせずに片手で、狙い通りの位置で受け止めたってことになる。
おかしいだろ⁉ そう思うが、ゼネスさんは気にも留めないまま。
「左手を緩く握るのは左手で剣を動かすからだ。テコの原理って言えば分かるか? 両手でガチガチに握るとこれが出来ねぇんだよ。そのせいで、お前の剣筋は固くて伸びない。上段からの振り下ろしこそ威力はあるが、左右の、特に水平斬りが苦手なんだよ。押すも引くも決めるのは左手だ」
剣を頭上に受けたまま何事もない様に話すゼネスさんに、傭兵も意地になっているんだと思う。上から体重をかけて、どうにか押し潰そうと必死だ。
「それで・・・」
と、次の瞬間。右足を前に出すのと同時、左手を押し上げ刃を下にズラす。
そうなれば、上から体重をかけていた傭兵の剣は滑り落ち、
「攻撃で重要になるのは体重移動。つまり体の軸だ。これがブレると威力が落ちる。その結果は・・・言うまでもねぇわな?」
一瞬で反転したゼネスさんの素早い振り下ろしが直撃する。
振りかぶるという動作を省略した窮屈な振り下ろし、かつ反転という狙いにくい一撃にもかかわらず、それを喰らった傭兵はピクリとも動かなくなった。