軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貧民街を避ける理由

「そこの馬車‼ 速度を落としなさい‼ 早く‼ そのままでは――って⁉ うぉぁああ⁉」

ゴォオオオ‼‼ と、地響きを引き連れ、正面から走ってきた馬車は一瞬たりとも躊躇わず、ここに門などないというような速さで突き抜けていった。

「今の馬車! どこのかわかるか⁉ 照合しろ‼ 絶対にタダではは置かんぞ‼」

「あーそれより、そこ。危ないと思いますけど?」

「は? って⁉ うぉおおおおおおお‼‼」

またしても。

今度は顔のすぐ前を暴風のように駆け抜けていく馬車が。

「今の黒塗りはカイオール商会ですかね? なにかあったのかなー?」

「なにを悠長にしている‼ どこの馬車かわかってるならさっさと問い合わせんか‼」

「それはいいですけど・・・まだ来ますよ?」

「なぁあああああ⁉」

振り返れば黒い風が、追いすがるように幾つも駆け抜けて行く。

「いったいなにがどうなってるんだ・・・」

「貧民街でなにかあったんですかね? 御者の顔がかなりいかつかったですけど」

普段ならこの門など貧民街に住む人間しか通らない。

それ以外でこの門を通るのは、進んだ先にある大障壁の拠点にいく隊商くらい。

だが、それらすらも最近は通らんというのに。

「わからん。こんなことは初めてだ」

なんであれ。面倒事がこちらにまで及ばなければいいなと、そう願うだけだ。

「ホウ‼ この先は行き止まりになる‼ 左へ曲がってくれ‼」

「了解リーダー! っても、俺も一緒に回ったんである程度覚えてるんすけどね」

「そうだった‼ じゃあ先に言っとくけど‼ 行先はゴミ置き場のさらに奥だ‼ あそこなら誰もいないだろ⁉」

「そうすね! 俺達が見て回った時も誰もいなかったはずだ」

「ルートは出来るだけ広い道を選ぼう‼ じゃないと・・・」

ガラガラと車輪の音を鳴らし立て進む俺達の馬車が通った後には、少しの怒号と数多くの悲鳴が上がっていた。

「事故にだけは気を付けた方がよさそうすね」

「ああ‼ だから速度も出来るだけ一定で走ってくれ‼」

「追いつかれますぜ?」

「大丈夫だ‼ 向こうも馬車なんだから、先頭は馬だ! 横にさえ付けられなければいい!」

「なるほど。頭を押さえろってことね! 了解!」

馬車はサンの指示通りに迷うことなく進んでいく。

「それにしても、よく貧民街の位置がわかったな?」

昨日、サンは護衛役だった。

街を見まわるなんざ出来るわけもない。

「あの緑の区画が土産物屋ばかり集めてるって聞いたから、もしかしてと思っただけさ」

「土産物屋と貧民街になんか関係があるのか?」

「貧民街に住む人達は皆、生きるために色んなことを知っている。土産物屋に来る人が2通りに分けられることも。片方は帰り際に土産を買う客。もう片方は観光や旅行で到着してすぐ、ひやかしに来る客。貧民街の人達は逞しいから、そのひやかしに来てた客がなにを見てたのかを覚えて、似たようなのを安い値段で売るんだよ。旅行客が帰る前にね」

そいつは確かに逞しいな。

だが、

「なんでそんなことまで知ってんだ?」

それに、情報集めに貧民街に来たのはなんでだ?

普通はもっと別の筋を辿るだろう。

出来るなら近付きたくないのが貧民街って場所じゃないのか?

そんな意味を含んだ質問に、サンは少しだけ俺と目を合わせて。

「貧民街なんてどこも一緒なんだよ」

前を向きながらそういった。

「皆生きることに必死で、どうにか浮き上がろうとしてて、どんなことでもどんなものでも、使えるんじゃないかって一度は手に取るんだ。だから、誰もが思ってるよりずっと、色んなことを知っていたりするんだ。けど、ケチだから教えたがらない。それに、偉そうな人間が大嫌いで負けた気になるのが嫌だから、有能そうな相手には嘘ばかり吹き込む。でも・・・」

サンは通り過ぎる景色を見ながら、

「同じごみ溜めの人間には優しかったりするんだ」

懐かしさを滲ませて言う。

「だから、本当は貧民街に逃げ込むなんてしなくなかった。ここに住む人達は精一杯だから。迷惑なんて掛けたくなかった! でも‼ 原因がなんだって! 狙われてるのは俺達で・・・それは変わらなくて! そのせいで、サンパダさんにも迷惑を掛けてて。俺達が捕まったら余計迷惑になって‼ 拾い上げてもらったのに! 俺は‼」

もう途中からなにを言ってるのかさっぱりだが。

要はこれ以上、周りを巻き込みたくないとかそんなとこだろう。

「リーダー。これ、どっちだったか分かります?」

「え・・・えぇっと、突き当りを左だ。そのまましばらく直進して右に曲がればゴミ置き場に出られるはずだ」

「了解、左すね!」

感情的に取り乱していたサンを落ち着かせるためにわざと道を聞いたのか、気にしすぎなぐらい気を使える奴だな、なんて。

「――ッ⁉ いや‼ 逆だ‼ 速度を上げて、右に曲がれ‼」

感心してる暇もねぇか。