作品タイトル不明
見えないふり
地面に転がり見上げる空は晴天。
雲一つない秋晴れの青い空に、白い影が舞い踊る。
バシバシと窓を叩いた嵐の大合唱も今は後に残さず、スッと冷えを感じる。
あぁあの目の端に揺蕩う白は、あれは・・・洗濯物だな。
「よし。逃げるか」
魔法の暴発によって吹き飛ばされ地面に寝転がっていた俺は、地面から跳ね起き、立ち上がりながらそう口にする。
「そうするです‼」
「仕方ない」
「駄目だろ‼」
「幸い。誰にも見られちゃいねぇし、犯人は風だ。これを見たところで、季節風でも吹いたんだと勝手に判断してくれるだろ」
広場にいた人数は思っていたよりも多かったのか、周りに人の気配はなく現状は誰にも知られていない。
素早く退散し、誰にも発見されなければ、吹き飛ばされた洗濯物なんざ風の悪戯で片付くはずだ!
「国内ならまだしも、国外で面倒事を起こしたとなれば、それなりに時間を取られることになるぞ? 俺達にそんな時間があるか?」
「不義理は良くない。けど、時間もない」
「そうだけど‼ でもそれは相手には関係ないじゃないか! それに、今回だけだって保証もない! 都合が悪くなるたびに逃げるつもりか⁉ それでいいのか⁉」
言いたいことはわかる。
チラっとスイの方を見たのは子供の教育としても良くないと思ったんだろう。
だが、
「ならお前が責任を取ればいい。魔法を放ったのはお前のところのスイだ。リーダーとして報告して来い」
「なんでそうなる⁉ それにゼネスさんだって魔法をッ‼」
「違うです! ゼネスさんは魔法を使ってないです‼」
サンの言葉をスイが遮る。
「どういうことなんだ⁉ スイ‼」
「そのままの意味です! ゼネスさんと一緒に魔法を使おうとはしたです・・・でも、スイの魔法だけが発動したんです! リーダーに声をかけられた時につい、そっちに意識がいってしまったです
」
そう。俺の魔法は発動しなかった。
ワンダーゴーレムの時のように引っ張るような感覚も、吸い取られるような感覚もなく。ただ、発動しなかった。
魔力にもなんの変化もなしだ。
だから、責任というのならば魔法を発動させた張本人のスイか、声をかけ魔法を暴発させたサンにこそあるだろう。
もちろん。スイの魔力の高さを甘く見て、街外れとは言え街中で魔法の実験なんぞを始めた俺の言うべきことじゃねぇけどな。
それでも、
「表沙汰にするってんならそうなるんだよ。逆に、被害は洗濯物の紛失と汚れぐらい。しかも2、3軒分だ。言い方は悪いが事件にするほどのもんでもねぇ」
当人にとっては大問題だとは思うが、こっちにも事情がある。
「だからって‼ 見ない振りをするのか⁉」
そう言って睨むサンの姿は初めて見た時を彷彿とさせる。
そういえば・・・、
「なら、どうする?」
イラ立つサンに答えたのは俺じゃなく、タンだ。
「選択は2つ。1つは見なかったことにする。もう1つは正直に名乗り出る。でもその場合、責任は私達にある。それでサンパダさんの出品が遅れれば、サンパダさんは商人として信頼を失う。遅れないよう私達を置いて行ってもらっても、私達がサンパダさんの信頼を失う。選んで」
そうだ。あの時も。
蟻の時も、噛みついてきたのはサンだけだったな。
イメージで言うならタンの方がよっぽどキッチリしてそうなんだが・・・。
「わかってる‼ でも、見ない振りッていうのは・・・」
「サンの言う正しさってなに?」
「だからそれは! 人としてッ‼」
「それは私達にとっても正しい?」
やり取りを見ている限り、タンはずっと合理的だ。
比べて、サンは潔癖症のようにさえ見える。
そこへ、
「こりゃぁいったい・・・なにがあったんで?」
ホウがフードローブを被ったままのフッチを連れて戻って来た。
「実は――――です」
口論を続ける2人を見かねてスイがホウにあらましを伝え、
「リーダー! ここは我慢しどころってやつですよ。どうにもならんことだってあります」
「でも‼」
「わかりますよ? 気持ちはね。でも、全部ってわけにもいかんでしょう? 出来ることは順序だてて、確実にやっていく。そうじゃなきゃ、見向きもされねぇってのは・・・忘れちゃいないでしょう?」
「それは・・・忘れてないさ」
「だったら・・・ここは我慢、ですよ。それに、なにもそのまま知らんぷりしようってんじゃない。補填ぐらいちゃんと考えてるはずですよ・・・」
ホウは上手くサンを言いくるめながら、
「ねぇ? そうでしょう?」
こちらに向かって、どうにかしろ。と訴える。
はなから落としどころは決めてやがったな?
聞こえるようにしゃべってたってのはそういうことだろう。
だがまぁ。
「あぁ!」
元はと言えば俺のせいだしな。
それぐらいはサンパダと交渉すればいいだろう。
「ほら、あの人もああいってますし。全部人のせいにして知らんぷりするつもりなんてなかったんでしょう。そういうところはリーダーも見習っていくべきだと思うんすよねぇ」
「あぁ・・・そうかもな。わるい」
「ぜんぜん‼ 正しくあろうってのはリーダーのいいところですから‼」
さぁ! サンパダさんのところに合流しましょうや‼ とホウが声を上げ、フッチが案内として先行する。
言うまでもないが・・・サンパダと合流するまでの間、雰囲気は悪く。
けれど、タンだけはどこかスッキリとした表情をしていた。