作品タイトル不明
RE:2通の手紙
手元にはまたしても2通の手紙。
片方は以前と同様。故郷の兄上からの手紙だ。
内容も特に変わったわけではなく、ワンダーゴーレムの単独撃破も合わせて祝いたいから早く顔を見せに来いという催促状だ。
甥の誕生日のことも書かれており、少なくとも、そう遠くない未来に一度。顔を見せに行かなければならないだろう。
もう6歳になるのか。
難儀なことだな。
そして、もう片方の手紙は冒険者ギルド本部から。
蟻の時に申請した内容が認められたという報告とそれに関する対応の通達文だ。
費用申請が認められたんで、もう金の心配はしなくてもよさそうだ。
と、思っていたんだが・・・・・・。
「金がねぇって・・・どういうことだ⁉」
俺は教会の離れ小屋でグレアムの爺さんに掴みかかる勢いで聞く。
「薬の購入がキャンセルになったのだから、仕方ないのぅ」
悪びれもせずに約束を反故にする姿は異様なまでに腹立たしい。
「全部がキャンセルなんて、ありえるわけねぇだろ⁉ 俺を使うために初めから嘘ついてやがったな‼」
教会の為に利用され、利益もなしなんてことを認められるわけがねぇ。
もしこのまま逃げようとするならどうしてくれよう?
そう考え始めた矢先。
「・・・お主。本当にわかっておらんのか?」
どこか残念そうに爺が言う。
「どういう意味だ?」
「・・・はぁ。薬が売れんくなったのは誰のせいだと思っとるのか。と言うておる」
誰のせいって・・・。
そもそも薬の注文が殺到したのは蟻の事件で大量に商品がはけたからだろう? それが全部キャンセルになるなんてありえねぇはず。だからこそ、注文が殺到したなんて言葉が嘘だったんじゃねぇかと疑ってるんだが・・・。
売れなくなった原因。
いや? 買えなくなった原因って考えた方がいいのか?
だとしたら・・・・・・いや、だが。
「いきなり全員が貧乏になったってのか?」
俺みたいに?
ありえねぇだろと笑ったつもりだったが、
「そういうことだ。わかっとるではないか」
「はぁ⁉」
まさかの肯定。
「冗談などではないからのぅ。皆、懐事情が良くないということだ。誰かさんのせいでのぅ」
「だからなんのことだよ!」
「お主・・・あの化け物を倒しただろう。だからであろう」
化け物。と言えばワンダーゴーレムに違いない。
だがそれが・・・?
と考えて、思い至る。
「・・・そういうことか」
「そういうことです!」
隣でずっと、どうにかして密着しようとしてくるユノを躱しながら話を続ける。
「けど、アレが全部売れたってのか? 出所不明品だぞ⁉」
「だが、皇国の証明付きだ。数十年に一度、出るか出ないかという素材だからのぅ。なにしろ・・・近年に一度出てしまっていることから、次は何時になるかわからんかったはずの代物だ。それがまた出たとなれば、今度こそ! と思うものもおろう。そして、売りに出された場所がこの皇都だ。現地まで買い付けに行けん者たちも、今なら手に入るとあれば多少の無理もしよう」
そう言われりゃぁそうなのかもしれねぇが・・・。
「・・・それじゃ困るんだよ」
というのが俺の意見だ。
「なにを困ることがある? アレはお主が売ったんであろう? であれば金の心配など・・・」
「それが、そうでもねぇんだよ」
「どういうことかのぅ?」
「簡単な話だ。あの素材は証文取引されたんだよ」
証文取引。
早い話が証人を立てて文書を作り、契約を交わしたうえで販売するという皇国の制度だ。
普通の取引となにが違うか、と言えば。
金が動かないことが多いということだ。
なぜなら。
この証文取引って奴は基本的に手元に金がない。あるいは、取引額が大きすぎて持ち運びが難しい。って時に利用されるもんで、納金までに期間があったり、証人が同価値と認めたものを担保にすることで販売する取引だからだ。
「それはまた・・・難儀なことになったのぅ」
「全くだ」
つまり、現状は。
商品は売れたが入金はまだ。そして、いつ金が入るのかわからねぇのに、もう商品はねぇって状態なわけだ。
「・・・はぁ。代わりの金策に心当たりはねぇか?」
「商人でもあるまいし、そんなもの・・・。というより、なぜそこまで金が入り用なのだ?」
「今月の給料が出せねぇんだよ」
そう。
ギルド職員の給料を支払うための資金がない。
それが問題なんだ。
本部からの手紙では費用請求の承認は得られたが搬送までに時間がかかると書かれてたんだ。
だから、その間にかかった費用もきっちり計上しておくように、とも。
まぁ本部からと考えれば当然だ。
いかに隣国と言えども、遥か南の霊峰を含めた山々。ハードラインを超えてくるんだから仕方ねぇ。
今は秋。運搬も容易じゃねぇだろう。
秋、冬はモンスターが活発、狂暴になる時期だ。
それは本部だからってどうしようもねぇ。
今のままじゃ全員分の給料は出せねぇ。そうなりゃ、生活できねぇ奴も出てくるだろう。
それだけは避けたい。が、
「申し訳ございません。なんのお力にもなれず・・・・・・ですが! 慰め程度なら私にも‼」
こっちは別のことで頭が一杯だってのに・・・、
「で? あえて聞かなかったがこれはなんだ? コイツになにを吹き込みやがった⁉」
さりげなく、しつこく、絶対にやめないという意思で密着しようとしてくるユノを指差して聞く。
「私はなにも・・・いうとらんがのぅ? お主、なにか好かれることでもやったのではないか?」
「そんな覚えがねぇから言ってんだろうが‼ なぁ⁉」
「申し訳ありません。これはお爺様が、どうあっても敵に回すようなことになってはならん。だから、色仕掛けでもなんでもいい。とにかく事実を作るのだ‼ とおっしゃられましたので。私としても、決して嫌などということはないので。むしろ是非お願いしたいと思うのですが・・・」
「おい爺‼‼」
睨むと音を出せない口笛をスースー言わせながら、
「そういえば、マンサ商会が護衛を欲しがっとるとかいっとったぞ? 金になるかもしれんだろう? 行ってきたらどうだ? 私はこれで失礼する!」
「こんの爺‼ 逃げんな‼‼」
脱兎の如く。老兵は姿をくらませた。