作品タイトル不明
side-ユノ2
慕うことは許されることだと思っていました。
憧れることは喜ばれることだと。
崇めることは受け入れられることだと。
けれど、望まないものであるならばそれは・・・・・・。
真実を知りたい。でも、それと同じくらい真実を知るのが怖い。
だから私は。今はただ・・・試験を終わらせるために祈りを捧げましょう。
ゼネス様と一緒に祈りの間へ。
一人で行くものだと思っていたのですが・・・やはりお優しい。
中は教会の本殿に似た作りで、まさに祈りの為に作られたような空間でした。
少し迷いましたが、私は祈ります。
折角の2人きり。本当は話したいことが一杯ありましたが、まずはここまでお付き合いいただいた感謝を込めて、試験を終わらせるなければ。お話は戻る前にすればいいでしょう。
そう思って・・・いたのですが。
急に。
そう、本当に急に。ゼネス様が背後に。
そして、その腕を私の体に回したのです。
「え⁉ あ、あの? いきなり――」
祈りを捧げている最中は集中していますから、そんなことを考えてはいません。
場の雰囲気というものでしょうか?
でしたら嬉しいのですがその・・・。
と、思うのも束の間。
今度は急に後ろに引き倒されました。
「これはいったいどういう――」
ゼネス様は何も答えてくれませんが、その真剣な横顔はさっきまでとは比べ物にならないほど凛々しくて。
ドキドキしてしまいました。こんな顔で見つめていただけたら・・・と。
ですが、気になるとすればこちらを見てはいないこと。
一体なにをそんなに? という私の疑問は、
ズガァン‼‼ という轟音と一緒に吹き飛びました。
「あ、あれは・・・?」
目の前を埋め尽くすような大きな拳。それを見て、口をついて出た言葉にゼネス様は。
「一言で言やぁ・・・化け物だな」
確かに、笑って。答えてくださいました。
その後、私はゼネス様に押し出される形で祈りの間から離れました。
仲間を呼んで来い。
そう言われて。
「おい‼ アレはなんだ⁉」
門から飛び出て倒れた私を助け起こしながらそう聞くのはジェイド様・・・でしたか?
ですがすみません。
「私にも詳しいことは・・・。ただ、応援を呼んで欲しいと頼まれました。すみませんが急ぎ、戻らせていただきます!」
「俺様達がいるだろう⁉」
気持ちはわかりますが、首を振ります。
「それではダメだと、ゼネス様が。A級以上の冒険者を連れて来いと」
なので、私は行かなければなりません。
素早く立ち上がり、出来るだけ早く、ゼネス様のお力にならなければ‼
すぐに背を向け走り出そうとする私に、
「おい⁉ 1人で行く気か⁉」
ジェイド様は続けて声を掛けてくださいますが・・・。
他の方々も皆様、迷っていらっしゃいました。
なにが出来るのか、どうすればいいのか。なにより、ゼネス様のことが気になるのでしょう。
ですので、
「ここは皆様にお任せします。ゼネス様のことを・・・応援して差し上げてください」
どうか、私の代わりに。
どこまでも続くかのように感じられた真っ白な道を、どうにか走り抜けます。
来た道を戻る。ただそれだけなのに、何度も迷いそうになり、自身の至らなさを思い知ります。
そうして、辿り着いた儀式の間では・・・。
「おぉユノ。どうしたというのだ? そんなに息を切らせて」
お爺様が待ち構えていました。
「・・・ゼネス様に、言伝を・・・いただきました・・・。至急、応援を・・・A級以上の冒険者の方を・・・呼んで、いただきたいのです」
「なんと・・・⁉ 一体なにがあったというのだ⁉」
「祈りの間に・・・化け物が・・・」
「そんなまさかッ⁉ 枢機卿殿‼ すぐに手配を‼」
「承りました」
何も疑うことなく、誰も訝しむことなく、流れるようにお爺様以外の全員が儀式の間から出ていきます。
「それで。身体は大丈夫か? 委細ないか?」
「・・・はい。私は、大丈夫です」
「そうか。それは良かった。して、ゼネスは・・・・・・?」
「それは・・・わかりません。私を逃がすためにモンスターと戦っていられましたが・・・」
「そうか。では急がねばな」
そうおっしゃられたお爺様の顔は、私を心配し、狼狽えて見えたものではなくなっていて・・・。
どこか落ち着いた、覚悟を決めたような。そんな顔をしていられました。
これは・・・。
「いきなり、危急の呼び出しとは。一体どのような要件ですかな?」
枢機卿様が出ていって程なくして、冒険者ギルドの方々が。
だとしたら・・・やっぱり・・・。
冒険者ギルドの方々の内訳は。
ギルドマスター様1名。A級パーティーの皆様1組。そして、それに次ぐ実力を持つと判断されたB級冒険者の方が数名。
何事かをお爺様と少し話しただけで、
「お嬢ちゃん。その十字架、借りてもいいか?」
私から十字架を受け取って出発してしまわれました。
あまりにも早すぎます。
これは・・・もう。
「ユノはどうする? もしかすると辛いものを見ることになるかもしれんが・・・」
「もちろん、ゼネス様をお迎えに上がります。ですが・・・その前に、お爺様にお聞きしたいことがあります」
「・・・ふむ。なんだ?」
「ゼネス様がおっしゃっていました。お爺様は知っていたのではないかと。あのようなモンスターが待ち構えていることを・・・知っていて、隠していたのではないかと」
「・・・・・・・・・」
「全ては・・・お爺様の計画なのではないかと」
お爺様は黙ったまま。
長い。長い沈黙の後。
「・・・・・・・・・その通りだ」
ただ一言。そうおっしゃいました。
お爺様とお話の約束を取り付けた後。私はまた、あの白い道を進むのかと思っていましたが。
儀式の間中央にあった門が消えてしまいました。
「これは・・・⁉」
「・・・・・・終わったか」
驚く私を置いて、お爺様が呟きます。
「どういうことでしょうか⁉」
「落ち着け。なんてことはない。試験が終わったのだ」
試験が・・・終わった・・・?
「ではゼネス様はッ⁉」
「それはわからん。気になるんなら・・・あの奥に行くがいい」
指が指示していたのは儀式の間のさらに奥。
幾つかある通路の一つ。
普段は絶対に寄り付いてはいけないと言われている場所です。
「あそこは・・・・・・?」
「あそこは本来なら教皇にのみ入ることを許される場所だが・・・。今回は仕方なかろう」
「・・・・・・なぜ、教皇のみにしか許されないのでしょう・・・?」
「もう、わかっておるのではないか? 教会に、あってはならないものだからだということを」
そう、でしょうね。
アレが危険なモンスターだということはわかっていました。
でなければ、ゼネス様が化け物などとおっしゃるはずがありません。
そして、そんなものが教会に存在すること。
それを知られてはならないから、教皇のみが入ることを許されるとされていたのでしょう。
教皇だけが入れるのは、管理するため。
あるいは今回のように、利用するため。
一瞬。どうしようもない不安に、一番見たくない光景が浮かんでしまいます。
あの通路の先にいってしまえば、現実を知ることになる。
ゼネス様が。
私の理想の方が、もういないと。
思い知らされるかも・・・・・・。
そう思うと、身が竦んで・・・。
ですが、
「・・・行くのか?」
「はい」
私は歩き出します。
なぜなら、
「きっと、大丈夫ですから」
ゼネス様はあの時。
笑っていらしたのですから。
私の思いが神様に通じたのでしょうか・・・。
ゼネス様は御無事でした。
私が扉を開けた時には、すでに門から出ていらっしゃいました。
それはとても嬉しくて。
ですが、どういった顔をすればいいのか・・・。
業務連絡のような会話の後、お爺様の所在を聞かれました。
当然ですよね。
ゼネス様はお爺様を許してくださるのでしょうか?
でなければ、私達の関係は・・・。
いいえ、それどころではありませんね。
私自身どうすればいいか・・・・・・。
けれど、今この場でそれを顔に出すことは出来ません。
私はなにもない振りをして、ゼネス様達を案内します。
離れについて。
ゼネス様を残して、他の皆様はお帰りになられました。
空はもう暗く、そうするべきだというのは私にもわかりました。
そして、お爺様の下へと向かいます。
「入れ」
ノックをして、返事があってから中へ。
「どういうつもりだったのか・・・聞かせてくれるんだろうな? 爺」
ゼネス様はすぐに切り出します。
それほど、気になるのでしょう。
私もそうです。
お爺様はなんと答えるのでしょうか?
そう思っていましたが、
「少し・・・席を外してくれんか?」
お爺様が私にそうおっしゃいました。
「でも⁉」
それでは約束が‼
「・・・頼む」
私に向けてお爺様が頭を下げます。
とても珍しいことです。
だから、それほどのことだということはわかります。
でも・・・。
助けてほしくてゼネス様を見ますが、
「部屋から出てりゃいいんだよ」
仕方がない。という顔で扉の方を見られました。
そんな・・・。
と、部屋を出る時に気付きました。
”部屋から出てりゃいい”
この言葉の意味に。
私は部屋を出ると扉を閉め、そのまま扉に背を当てたまま、その場に座り込みます。
これで、少しだけ聞き取り辛いですが、中の会話を聞くことが出来ます。
少々はしたないですが、私とお爺様の為にゼネス様が提案してくださったのですから、構いませんでしょう。
中での会話は・・・概ねは予想通り。
今回の件はお爺様の計画で、私やゼネス様を使って教会の団結を固くし、求心力をさらに得ようということのようでした。
なぜそこまでしなければならないのか。そんなことの為に私を育てたのかと。悲しくなりましたが、私にとってはその続きがあまりに衝撃的で・・・。
お父様が皇都に・・・ッ⁉
お父様のことを詳しくは知りません。
当然ですね。
教会にとっては汚点です。
恨むことも憎むこともしなくていい。
ただ、そんな哀れな者がいたということだけ覚えておきなさいと。それだけ聞かされてきました。
自身の弱さを利用し、お母様・・・当時の聖女の一人を誑かし、教会の教えに異を唱え、国外に。いえ、全教会組織から追放された人物だと。
望福教?
そこにお父様が・・・?
私は。
私はそれを知ってどうすればいいのでしょうか?
お父様のこと。気にならないはずがありません。
ですが! だからといって、お爺様や教会の皆様方の言葉を忘れたわけではありません。育てていただいた感謝も。
けれど‼ その教会の教えこそが正しいのであれば、神様に近いはずのゼネス様に対する今回の所業は・・・。
答えのない問いに答えなければならないような感覚に陥ります。
なにが正しいのか。なにが正しくないのか。
そんなの、私には・・・・・・。
ガタリ。と、中で誰かが立ち上がる音が聞こえました。
これは⁉ いけません‼
悩んでいるうちにもうそんな⁉
ここにいるのを見られるのは、なんだかすごく恥ずかしい気がします!
顔を合わせるのは気まずい気が・・・⁉
どうするべきか。なにも定まらないまま。
それでも私は逃げるようにその場を後にしました。
結局。ゼネス様やお爺様が部屋を出たのは、それからしばらくしてからのことでした。