作品タイトル不明
side-ユノ1
人に加護を与え、見守る神様。
気まぐれに手を差し伸べ、気まぐれに見放す。
そんな神様が実在する。
そして、より強い加護を与えられた人こそが、その神様に選ばれた人であり、より多くの人を導くための存在なのだと。
故に、とても偉いのだと。
それが教会にとって大切な教えであり、それを伝え、広めることが教会のやるべきことなんだと、聞かされて育ちました。それこそが正しいのだと言われて。
人は、生まれながらにして 祝福(かくづけ) されていると。
ですが・・・。
そんな当たり前の祝福すら与えられなかった人もいると、お爺様はおっしゃいました。
それはとても不幸なことですねと、私がそう言うと。
お爺様はどこか遠くを見つめながら、どうだろうね・・・と呟いていらっしゃったのを幼心によく覚えていました。
それから、私は気になってその人の話をお爺様に聞きました。
知っていることだけでも教えて欲しいと、ねだりました。
お爺様は困った顔で。ですが、仕方がないなと話してくれるようになりました。
初めて会いに行った時のこと。
どうしても気になって、何度も話をするようになったこと。
そして・・・秘密を知って、ある一つのお願いをしたこと。
他にもその方自身のことも聞きました。
上級貴族の出身であらせられること。
学園での成績がとても良かったこと。
冒険者になられたこと。
それから・・・秘密のこと。
その方は加護を持たない。にもかかわらず、なぜか周囲の人の加護を強くすることが出来た。まるで、分け与えるように。
人に加護を与える存在。
地位にこだわらず、権力を必要せず、ただ自由に。
誰かを助ける存在。
それはもう・・・神様なのではないでしょうか?
私の言葉にお爺様のおっしゃいました。
「それでも、ゼネスは人間だった。私達などより、遥かに立派な・・・人間だったよ」
その意味は分かりませんでしたが、私には。
ゼネス様が理想になりました。
それから時間が経って。
私は理想の方と出会う機会を得たのです。
日頃から感謝の気持ちをもってお祈りしてまいりましたが、この時ほど嬉しかったことはありませんでした。
どうにか気に入っていただこうと、寄り添おうとしたのですが・・・見事に躱され、その上お爺様となにやら小声で話し出してしまわれました。
正面からとはいえ、普段なら拒否などされないのですが。
やはり立派な方は違うのかもしれません!
そうして、話を進めていくうちに違和感を覚えました。
なので聞いてみました。
とても立派なあなた様に憧れるのはおかしなことなのでしょうか? と。
残念ながら答えてはいただけませんでした。
代わりにため息を一つ、ついていたのが印象的でした。
その後はお爺様が私の為にと準備してくださっていた試験の話になりました。
聖女認定試験。
同行者に運試しと力試しを行ってもらい、受験者の祈りをもってそれを突破させることで、聖女として認められる。
私は聖女見習いですから、いつかはこの試験を受けなければなりませんでした。
ですが、私には試験に同行してくださるような方が思いつかず、先延ばしになっていました。
本当のところを言えば、聖女にならなければいけない理由はありませんでした。
しかし、今ならばゼネス様に頼めるとお爺様が用意してくださった機会。逃すのはもったいないと思ったのでお願いすることにしたのです。
少しズルいかなと気が引けたものの、試験場所は迷宮で同行者の実力に合わせて生成すると聞いて、それならばと。
あまり乗り気ではない御様子でしたが、ゼネス様は引き受けてくださいました。
困っている私を見捨てたくなかったのかもしれません。
日を改めて、ゼネス様に呼び出されました。
なにか大事な話でもあるのでしょうか?
そこにはゼネス様の他に、ゼネス様を先生と呼ぶ方達や名の通った冒険者の方がいました。
色んな人に慕われているのだと、一目でわかりました。
その後にはゼネス様の冒険譚をお聞かせいただき、本当に素晴らしい方だと、再認識させてくださったのですから・・・中々マネできることではありません。
なにより、謙遜がお上手でした。
なぜって?
自らを弱いとおっしゃった後、その場にいた全員。7人を相手に勝ってしまわれたのですから、弱いなどということはないでしょう。
きっと、そう言うことで周りの方達が気兼ねしないようにしたのだと思います。だって、教え子の皆さんを一緒に連れていくための口実の様でしたから。実力を見せたかったのでしょう。
そんなことをしなくても、私はそう言っていただければお任せしますのに。
それより数日。
ゼネス様は教え子を連れて、私の試験の為に教会にお越しくださいました。
試験に向けて鍛えると聞いていたので、もっとかかるかと思っていたのですが、あまり私を待たせるわけにはいかないとお気遣いしてくださったみたいです。本当にお優しい。
教会の地下、儀式の間でお爺様の合図で試験が始まりました。
緊張はありましたが、私はただ祈るだけ。気負っても仕方ないでしょう。
ゼネス様に合わせて生成された迷宮は全面が白く、もしや死んでしまったのではないかと疑うくらいのものでした。
そんな中でもゼネス様は全員に指示を出し、教え、導きながら先を目指します。
ブレることなく、迷うことなく、的確に、最適に。
ただ・・・その迷宮はあまりにも長かったので、初めは他の皆さんに任せていたゼネス様も、時間がかかりすぎると判断して探索に加わりました。
その甲斐あって、駆け足で走り回った迷宮に終わりが見えます。
ここまではすべて、ゼネス様が言った通りの仕掛けしかありませんでした。
流石と言ってもいいのでしょうか?
そんな感想を告げる間もなく、ゼネス様は全員を集めて次の指示を出します。
どうやらこの先にはモンスターが出るようです。
いち早くそのことに気付き、教え子の勇み足をたしなめ、けれど挑戦を取り上げない。
まさに導く者の鏡のような姿です。
バテて動けなくなってしまった方もいらっしゃるようですが、それは仕方がありませんね。如何にゼネス様と言えど、なんでもできるわけではないのでしょう。その方だけを残して、戦闘が始まりました。
なんてことはありません。
圧勝です。
かすり傷もありません。
一方的に押し切って終わりでした。
さらに驚いたのはゼネス様の時空魔法。
聞いてはいましたが、この目で見るのは初めてです。それほど珍しい魔法ですから。
それと、ゼネス様はもしかしたら・・・なんでも出来てしまうのかもしれません。バテてしまっていた方も元気にしてしまったのですから。
そのことでなにかひと悶着あったみたいです。
ですが、ゼネス様がおっしゃることが正しいに決まっています。たとえ意地悪な言葉でも。
なぜかと言えば、全員がやる気になっているからです。
だから、大丈夫・・・ですよね? この最後の試練も。
そう聞いたら私にも意地悪な言葉を。
これは心が近付いた証拠でしょうか?
嘘までついて・・・万が一などない様に。どこまでもお優しい。
そうまでして、優しさを隠してまで成長を願う姿は可愛らしくもあり、成長を見て嬉しそうにする姿は確かに、人らしくありました。
お爺様が言っていたのはこういうことなのでしょうか?
1体目、2体目、3体目。
すべて、ゼネス様が手を貸すことなく倒してしまうなんて、教え子の皆さんもとてもすごい方達のようでした。
しかし、3体目を倒す時に良くないことが起こってしまいました。
バテてしまっていた方が、自分の身を犠牲にしてモンスターを倒されてしまったのです。
そのことに一早く気付いたゼネス様が、またしても時空魔法でその方を救ったのですが・・・どうにも浮かない御様子です。
期待してのことだったのでしょう? でしたら、それほど落ち込むことでは・・・などと、私が言うべきではなかったかもしれません。
後悔の滲むその顔は神様というには余りに脆く。人間臭さが溢れるものでした。
この時に気付きました。
私の憧れとは迷惑なものだったのではないか、と。