軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最期の仕事

「ど、どうするのですか⁉」

「お前は逃げろ! 依頼主だからな。死なせるわけにはいかねぇよ!」

「ゼネス様は⁉」

「俺はあれをどうにかする」

「無茶ではありませんか⁉ あんな・・・・・・」

さっきの、あいつらがゴーレムと比べても、倍近くはあるんじゃねぇのかって巨体。見るからに硬そうな装甲。ただそこに存在だけで振りまかれる威圧感。

そして、魔力の欠片も残ってねぇ俺。

勝ち目はないだろうな。

だがそれでも、

「無茶だろうが、やるんだよ‼」

「どうして・・・⁉」

「個人依頼だからだ! 特別に許されてる個人依頼にギルドは関与しない。代わりに、報酬の受け取りなんかに口を出さねぇし、一切責任を追うこともねぇ。つまり、ここでこの祈りの間が使えなくなりゃ、責任取るのは俺ってことだ。賠償にいくら掛かるか、わかりゃしねぇだろ!」

そんな資金は微塵もねぇ。

だからこそ、今回の依頼を受けたんだからな。

「そんな理由で⁉」

しかし、それを聞いたユノは金と命を天秤にかけることが納得できないでいるらしい。

もちろん理由は他にもあるが、

「他人事じゃねぇぞ‼ 俺がここで死んだら、責任を取るのは依頼主・・・つまりはお前になるんだからな‼」

「そんな⁉」

「わかったらさっさと外に出て、助けでも呼んで来い‼ あいつらじゃねぇぞ‼ 少なくともA級以上の冒険者を、だ‼」

「ですが‼」

「いいから行け‼」

門の前で立ち往生していたユノを突き飛ばす。

いきなり押されたユノはたたらを踏んで、門に吸い込まれるようにして消えた。

これで、この空間には俺とこの化け物だけ。

ワンダーゴーレム。

その、マヌケな響きとは裏腹に、どんな鉱石よりも硬い外装とほぼ全ての魔法を無効にする耐性を持ち、狙いも動きも正確無比。

弱点は、身体のあちこちからはみ出して見える歯車。そこだけは他の装甲と比べて柔らかい。核もあるが、こいつの核は内側にあって外からじゃ狙えねぇ。

デカい関節部分や胴体の繫ぎ目なんかが狙いどころだが、当然の如く、この歯車さえもそこらの鉱石なんかよりよっぽど硬い。その上、身体の動きに合わせて回転するから簡単には狙えねぇ。

それで、忘れちゃならねぇのが・・・こっちは魔力切れしてるってことだ。

過去に、こいつと戦ったことはある。

勝った実績がある。この籠手がその証拠みたいなもんだ。

だが、その時には仲間がいた。

俺なんかより、よっぽど強く頼りになる仲間達が。

それに比べて・・・、

今。頼りに出来るものと言えば、この両手足・・・身体ぐらいか。

随分と落ちぶれたもんだなぁ。

そんな俺を、知ってか知らずか。

いい加減立ち上がった化け物が動き出す。

さて・・・俺はあと何分。生きてられっかな?

武器ならある。

この拳を覆う籠手。こいつの硬さはあの化け物の外装と同じだ。

だから、あの歯車との硬さ比べでも勝てる。

狙って殴れば、凹ませたり、歪めたりぐらいはできるだろう。

そうなりゃ、目の前の化け物がどれだけ強かろうが、機械仕掛けであることに変わりはねぇ。歯車一つ、割れれば動きも直止まる。

そう思ってたん、だけどな‼

近付けねぇ‼

俺の動きに合わせて、射殺すような赤い視線が付きまとい、動く先へと拳を振るう。

黒く、硬く、デカい拳がゴオォッ‼ と、鼻先数センチを抉る。

軌道を変え、障害物を使い、回り込んでも・・・踏み込めねぇ。

僅か数メートル。

伸ばした腕の内側にすら入れやしねぇ。

前に出れば胴体を回転させた横薙ぎが来る。

それ自体は飛べば避けれるだろうが、追撃までは躱せねぇ。空中じゃ身動きが取れねぇからな。

かといって、あのデカい拳を止めるのは不可能だ。

隙を作ろうにも、速さが足りねぇ・・・。

あれこれ試して、精々2、3分のはずなんだがな。

「はぁ・・・はぁ・・・ッ」

息が切れ始める。

強化が使えねぇとこんなもんだったのか?

魔力切れが恨まれるが、それにしたって不甲斐無さすぎるだろう。

「あいつらを散々煽っておいて・・・挙句この様かよ。ったく」

だんだんと、体のだるさに気がいくようになってくる。

いっそ力比べでもするか?

なんて・・・、ミンチになるだけだ。

ああ。腕がだるい。足が重い。なにより息が整わねぇ。

それでも、逃げ回る。

機械仕掛けの大巨人にそんな素振りが微塵も見えなくとも、時間は稼がなきゃならねぇ。

正面から、迫る拳を外から押して、僅かにずらして危機を凌ぐ。

後何回出来る? いや、素直に避けた方が楽か・・・?

自分の体力を測り、死のカウントダウンをしていることに気付く。

笑えてくるが、仕方がねぇ。

今の俺に出来ることが他にねぇんだから。

それにしても、あの爺。

こんな化け物がここにいることを知ってて、俺に依頼したのか?

だとしたら、立場がどうのってのは嘘か・・・?

いや、ここでユノが死ぬにせよ、俺が死ぬにせよ、立場がどうとか言ってる場合じゃねぇよな。

神聖な儀式で使う空間をぶち壊して、それで済むはずもねぇ。

死刑・・・はねぇだろうが、教会からは追い出されるか。

そこまでしてユノを教会から遠ざけたかったのか? だが、そんなことすりゃ爺の立場も・・・・・・あるいは、身内でも切り捨てられるってのを見せたいのか。

まぁ考えたところで、魔力切れでこっから出られねぇ俺が真実を知ることはねぇだろうが。

俺のやるべきは、ユノが呼びに行った冒険者・・・A級だと皇都には”蒸気の騎乗者”の連中しかいねぇが、あいつらが到着するまで時間を稼ぐこと。

その上で、あいつらが門の破壊を選択してくれるように祈ることだけだ。

迷宮の最終地点にあったあの門は、おそらく教会のどこかにある。

確かめたわけじゃねぇが、魔法空間にあって、他とは違った質感で、特殊な魔法を使うための道具を魔法で生み出すのは魔力の消費が多すぎる。

なにより、ああいうのは大体が古代の遺産だ。

今の魔法使いにあれと同じ門を作れる奴はいねぇだろう。

だからこそ、破壊は躊躇われる。

教会の人間なら尚更だ。

それを押し通すには実績を持った外部の人間が必要で、そのためのA級冒険者。まぁ、皇都の冒険者にそれが出来るかは微妙なところだが、それでもやってもらわねぇとな。

じゃねぇと、

この化け物が出てくるかもしれねぇからな。

あの門は時空魔法が使えりゃ移動ができる。

物理的に潜る必要はねぇんだ。

そして、全魔法に耐性を持ってるこのふざけた化け物になら、それが出来てもおかしくねぇ。

今までもこいつがここにいたんだとしても、今後も同じようにここにとどまるとは限らねぇ。

もしそうなったら・・・、

皇都はどうなる?

その時。教会の連中に、その存在を知っていたのに破壊しなかったと、冒険者ギルドが責任を押し付けられねぇためにも。

頼む‼

それが俺に出来る最後の・・・・・・。

そう思って、門を見た。

だが、そこで目に映ったのは。

予想外のものだった。