作品タイトル不明
side-ジェイド&キューティー
――ジェイド
「うっっぐぅ‼」
構えた盾に黒く、巨大な拳が突き刺さる。
重い‼
いや、わかってただろ⁉
「うおぉらああああ‼」
気合いで跳ねのけ、腕ごと盾を振り下ろし、ガイン‼ という音と共に、もう一度盾を構える。
何度も受けていい攻撃じゃないのはわかってる。
力比べで勝てる相手じゃない。
だけど、予想外だったのは・・・・・・この部屋だ‼
無駄に白い部屋の中で黒い巨人は見やすいと思った。
明らかに目立つからな。
だが、そうじゃなかった。
目立つ・・・どころか、際立ってるんだ! 黒が‼
そもそも視界に収まらない程の巨体。
目に映るのはほとんど全部が白か黒。
そのせいだろう。
いいや、絶対にそのせいだ!
距離感がおかしい‼
外から薙ぎ払うように振られた右手を受け止める。
”フェイントだ”
後ろで眺めてやがる教育係の御高説が頭の中で蘇る。
わかってんだよ‼
こいつも! さっきの石像も! その前の変な人形も‼
反応が早すぎるってことなんかなぁ‼
わかってるんだよ‼
だから、さっきまでは上手く戦えていた。
あえて隙を見せるように動いて、空振りさせる。
そうすれば、より長い隙が生まれて、こっちは楽できる。
それが狙って出来たんだ。さっきまでは‼
「お前ら‼ なにか分かったか⁉」
ズシリ、と身体に疲労を感じながら・・・それでも咄嗟に拳を防いで後ろに聞く。
「・・・・・・ごめん。魔法は、き、効かない・・・みたい」
「さっきのガーゴイルより硬いので、外側からは難しいかと。他にも試してみますが・・・これといった案は、今のところありません」
さっきの石像をやった魔法でも無理か。
「魔法生物の体のどこかには 核(コア) と呼ばれる弱点があるはずなんだけど! なにかない⁉」
こんな時にエイラが嘘をつくはずはない。
けれど、
「なんにもねぇよ‼」
身体の正面にはそれらしきものは見当たらない。
「おい‼」
「駄目です! こっちにもそんなのは・・・・・・」
背中側かと思って、そっちにいたチビの片割れに聞いたが、そっちにもないだと⁉
となると体内か?
だとしたらまた魔法で――。
と、振り返った時。目に入れてしまった。
腕を組んで、おそらくは壁にもたれながら、偉そうに、こっちを見ているその姿を。
今まで、俺様は従える側だった。
学園の教師ですら、願い、かしずき、頭を下げた。
中等部を卒業するまで・・・。
そんな俺様が‼
あの時。その背中に憧れた。
そう成りたいと、そう在りたいと、思ってしまった。
あんなに、気に食わなかったはずなのに!
”才能がねぇ・・・とは、言えねぇよな?”
忘れてたんだ。
才能を誇れと言われたことすら。
呆れるよな?
アンタは恥ずかしいことでも構わず、言ってくれたのに。
アンタを認めないのは、アンタが俺様を認めないからだ‼
そう思っていたのは俺様だけで・・・・・・。
聞けば答えてくれるだろうか?
そう考えて、それを恥じた。
そうじゃないだろう⁉
力を見せて! 証明したいんだ‼
なのに‼‼
どうすればいい・・・⁉
考えてだけいる場合じゃない。
視線を戻して巨人を見る。
そうすればなにか・・・、
その瞬間。
視界にキューティーを捉える。
本来いるべき場所よりよっぽど前で。
「無茶するな―――」
「―――関節を狙ってくださいませ‼」
――キューティー
生態調査報告書。(ノート)
あの教育係と名乗った方に初めて会った時、知ったものですわ。
モンスターの特徴や性質、習慣、生態系などが細かく書かれた、それはもう努力の結晶のようなものだと思いました。
そして同時に、それほどのものを知らなかった自分自身を恥じましたわ。ジェイド様と一緒にいられることに浮かれ、求められる存在になろうという、自らの意思すら忘れていたことをも。
ですから・・・ジェイド様がまず、エイラやケイトにモンスターの特徴や弱点を聞いたことは当然なのです。
二人はその以前より、生態調査報告書の存在を知っていたのですから。
けれど、
「わからない・・・ですって?」
そう言った二人の言葉に耳を疑いました。
しかも、弱点がどこかにある・・・なんて。
おかしいでしょう⁉
どうみても、弱点はあの目です‼
黒い装甲で固められた身体に唯一、青く光るあの右目‼
いいえ。右目というのもおかしいでしょう。
だって、一つしかないのですから。
ただ、位置が頭の右側にあるというだけ。
ですのに‼
次に声をかけたのは最近知ったばかりの年下の男の子!
なんなら、同じような年下の女の子にはエイラやケイトと一緒に最初に聞いていましたし‼
・・・駄目ですわ。
あの男の子はモンスターの背後にいらしたのですから、確認するのはおかしなことではありません。
そうです。
私が居たのは側面ですから。
流石に側面に弱点は考えにくいですものね。
ですけれど‼
それはどういうことですの⁉ ジェイド様‼
次は私の番ではないのですか⁉
どうしてそこで後ろを振り向くのです⁉
ましてや‼
なんですの‼ その雰囲気は⁉
聞いたら答えてくれるかな・・・とか‼ 考えてらっしゃるのではありませんの⁉
確かに。
確かに私は! ジェイド様に求められる為の努力を怠り、浮かれ、醜態をさらしかも知れません‼
ですが‼
あれほど気に食わないと言っていた方よりも劣ると⁉ そういうことですの⁉
これはいけません・・・。
これでは、一緒にいる意味がないじゃありませんか‼
だから、私は走り出します。
失った信頼を!
自らの価値を示すために‼
あのゴーレムを倒して見せますわ‼‼
とはいえ、このままでは攻撃は届きそうにありません。
ですので、
「関節を狙ってくださいませ‼」
協力は許しますわ! なぜなら、私は今とても気分がいいのですから!
だって! ジェイド様が私を心配してくださったんです‼
無茶をするな、と!
ですがご安心を! 私、この程度の相手に手こずったりは致しませんわ‼ なんといっても、この私。皇都で開かれる貴族細剣術の大会で10年負けなしですもの‼
ですので皆様。是非、活躍してくださいませ‼
最後は私が華麗に決めさせていただきますのですけど‼
”敵をよく見ろ”
これは細剣術の師範にもよく言われていましたが・・・、
あの教育係の、ゼネス・・・様? の方がよろしいでしょうか? 一応は上級貴族の血筋でいらっしゃるようですし。
のおかげで、なぜ見るのかを知れたので、そこは感謝しています。
師範はなにを見るのかや、どこを見るのか、しか教えてくれませんでしたので。
まさか、相手の考えを読むためだとは思いませんでしたわ。
なのでよく見ます。
けれど、考えていることなどわかりません。仕方ありませんね。相手は魔法生物ですもの。考えなどあるわけがありませんわ。
ですが、ゴーレムが私に狙いを定めて腕を振り上げたのを見て、足を止めます。
”攻撃しなきゃならねぇ理由なんかねぇ”
これは完全にゼネス様のお言葉ですね。
言われた時にはハッと致しましたわ。
手を出し続けて相手を圧倒するのが、私の教わった細剣術。
ですが、それだけでは相手に攻撃する気がなければ、ただの徒労になってしまうのだと気付かされました。
足を止めた私の前に黒い拳が落ちます。
魔法で作った空間だからでしょうか、地面に巨大な拳が当たっても、ガッ! という音だけで揺れもしないのは逆に不気味な感じがしますわ。
アレが軽い攻撃なわけはないので注意しないといけないのですが・・・気が抜けてしまいそうですわね。しっかりしなくては。
地面に刺さる拳の横をサッと通り過ぎて、拳を地面に届けるために曲げた膝関節の前までやってきました。
肩よりは少し高い位置にありますわね・・・?
ですが、届かないわけではありません。
とはいえ、このまま細剣を振るうのは刃こぼれなどを考えれば、いかがなものかと思いましたので・・・体を一回転させ、剣の柄の部分で思いっきり叩きますわ。
「ハッ‼」
バキッ! という手ごたえ。
剣の柄を確認しますが、こちらに損傷はありませんので、さっきのはゴーレムのダメージと見てよろしいでしょう。やはり関節は脆いもの。
少々不安でしたが、流石はエイラの強化魔法。いい仕事してますわね!
そんな私のやり方を見たヨハン・・・でしたわよね? あの子がダガーを逆手に持って同じ膝の外側に走り寄ってきます。
とりあえず攻撃を終えた私はそのまま股下を失礼して反対側へ。
あの子。ダガーを逆手に持っていたら攻撃し辛いのでは? もしやそのまま斬りかかるつもりで? そうしましたら刃こぼれが⁉ などと考えて、その後を見て侮り過ぎだったと少し申し訳なくなりました。
ダガーには指を守るための部分がついていて、そこで思いっきり殴ってましたわ。
高く飛び上がって、上から叩きつけるように。
私よりもいい感触が手に残っているのではありませんの? というか、その使い方は大丈夫なんですの?
そう思いながらも、隙を見て交代で膝を中心にたちまわりました。
その間。
ジェイド様達はゴーレムの注意を引くように動いてくれました。
特に、ジェイド様は今攻撃手段がありませんのに、頑張ってくださって・・・。きっと、私が心配なのでしょう。
そのおかげで私達への攻撃は疎らで、しかも奥に攻撃しようと足を上げる時には、そこを攻撃して転倒を狙ったりも出来ました。まぁ、それは成功しなかったのですけど・・・。
そうやって、何度も繰り返しているうちに、ゴーレムが片膝をつきます。
そうなれば最早勝ったも同然。
曲がりっぱなしになったもう片方の膝は狙いたい放題。動くこともほとんどありませんもの。
そうして、両膝をついて許しを請うような姿勢になったゴーレムの前に、私は立ちます。
これならば、目も手の届く位置になり、狙いやすいというもの。
「セイッ‼」
――いただきましたわ‼
そう思って剣を突き出す瞬間。
地面を手で押すようにしてゴーレムが動きました。
逃げる⁉ と思いましたけど、違いました。
地面を押した反動で体を起こし、腕を振り上げたんですの。
最後の悪あがきという奴ですわね。
みっともなくはありますが・・・いいでしょう! 付き合って差し上げますわ‼
膝立ちというほど立ち上がってもいません。このままでも目に攻撃は届きます。
ですが、そこは貴族の嗜み。
最後の一撃くらい、待ってあげてもいいでしょう?
なにより、ただの振り下ろしですもの。紙一重で避けるのもいいですが、私は魔法盾を使っているますので、華麗に避けなくてはいけませんね。
足を開いて、閉じて、開いて、閉じて、で右に二歩分。
まぁ、こんなもの・・・避けるのなんて造作も――
「キューティー⁉ 右だッ‼」
油断してしまいました。
ここにきて、今までにない攻撃パターン。
ジェイド様のお声に見てみれば、すぐそこまで左手が迫ってきていました。
右手は囮でしたの⁉ もしくは単に反動で持ち上がっただけ? 本命は左の薙ぎ払い。
よりにもよって右側に避けてしまったがために、もう避ける余裕なんて・・・・・・いいえ。そうでしたわね。
”相手に動かされるんなら、動かなきゃいい”
当たることが決まっているのなら、私の進む方向も決まっていますわ。
避けた分、横にずれていたとしても・・・そこに来るのなら―――。
バチンッ‼ という衝撃を受け、目の前が黒から白へ。そして、赤と白と小さな黒が入り乱れます。
魔法盾のおかげで肌を擦る痛みはありませんが、目まぐるしく景色が変わるのと、振り回されるような感覚は気持ちのいいものではありませんですわね。
けれど、剣を寝かせて伸ばした手に残る感触は。
それだけは、この上なく気持ちのいいものですわ。