作品タイトル不明
上手くいかないことも
基本的なことを教えた後、とりあえずやってみようということで、
「どこに体重がかかってるかを意識しろ。体の軸、重心、次の体勢。まずは自分のやりたいことから思い描け」
適当な初級魔法を飛ばしならが指示する。
「それが出来たら今度はその理想の自分を体現しろ。可能な限りでいい。その上で、周りをよく見ろ。それで目に入ったものの中から、使えそうなものと邪魔になりそうなものを覚えて、利用するか離れるかを決めろ」
初級魔法は直線を描きエイラ周辺を荒らす。
直接、偏差、置き、牽制、時間差。
直線と言っても地面と平行に飛ぶものだけじゃない。
顔へ、胸へ、腹へ、腕へ、足へ、地面へ。
速度を変えて、角度を変えて、視覚からの情報量を増やしていく。
速く、遅く、鋭く、鈍く、前から、上から、下から。
実戦に近付けるなら、ここからさらに曲線を交え、方位を増やし、全方向を意識できるようにしなければならないんだが・・・。
「ちょ⁉ ちょっと待って・・・って! 痛っ‼」
なにかを言おうとしたのか、立ち止まったエイラの顔面に魔法が直撃する。
派手に頭が後ろに弾かれるが、所詮は初級魔法。威力も絞ってあるし怪我するほどでもないだろう。
デコを軽くさすりながら、しかしすぐに顔を上げ、
「だから、いきなりは無理ですって!」
エイラが抗議してくる。
「つってもな・・・これでも大分手加減してる方だぞ?」
「そうかもしれませんけど! っていうか、本気を出したらどうなるんです?」
「どうもなにも、弾の種類と動きを増やして、全方位から攻撃が来るようにするだけだが?」
「そんなの避けれるんですか?」
「全部は無理だろうな。大体は地形を利用したり、魔法で防いだりしながら、突破して攻撃! って流れの訓練だしな」
「それならこう・・・もっと違う方法とかないんですか?」
「そういわれてもな? 人手がねぇ以上は魔法でどうにかするぐらいしか思いつかねぇ。そうなると、俺が知ってるやり方じゃこれになる」
近い実力の相手でもいれば、それを見ながら口を挟むとかも出来るだろうが、今は俺がいるだけ。
なら直接相手してやりゃいいと思うかもしれないが・・・それは難しい。
実力に差がありすぎる。
そんで、俺は手加減があんまり上手くない。というか出来ない。
それらすべての問題の対応策が今の魔法を使った訓練なわけだが、それはどうにもお気に召さないらしい。
困ったもんだが・・・かといって、いきなり実戦投入なんざ論外だ。
どうしたもんかな?
「逆に・・・こうして欲しい、みたいなのはないのか?」
「そういわれても・・・」
そうだよな。
知らない、わからないことについて教えてもらってるのに、どうして欲しいもなにもないよな。
つーか、それがわかってるならわざわざ教わらねぇか。
「その、直接指導するのはダメなんですか?」
「直接指導ってのは俺が相手をするってことだろ? そりゃ無理だ」
「なぜ?」
「反射っつーかな。つい手が出るんだよ。まぁ怪我ぐらいなら治せなくもねぇが・・・やったところで、わけもわからんまま痛い思いをするだけだ。なにが起こったかわからねぇから、成長も出来ねぇだろうしな」
長らく敵の隣にいた。
手の届く範囲に常に居座るようにして戦ってきた。
そのせいか、勝手に今だっ! って動いちまう。
「今まではどうしてきたんですか? 確か、後から増えたパーティーメンバーの方達は育てたんでしたよね?」
「基本的に基礎は他の奴が教えてたな」
アンナは俺達と同じくブロンソン教官に。フェリシアはそれまで盾役を担ってきたクライフが。エリックの棍捌きも、元は別人が仕込んだ。
「ただ、どうしても・・・って時は、見せてたな」
「見せる?」
「ああ。理想の動きをそのまま再現して見せた」
「なるほど・・・。でもそれって・・・」
エイラも気付いたかようだな。今回に限ってそれは出来ねぇってことに。
そりゃぁそうだろう。
理想の回避なんてのは存在しねぇ。いや、あったとしても・・・それは状況に左右されるもんだ。だから、俺がここで回避の動きを見せたところで、それにはなんの意味もねぇ。
どうにもならねぇなぁ・・・と思っていたところに、
「あぁぁああ‼ クッソ‼ もういい‼ 疲れた‼」
ガシャン! と倒れ込む音と共にジェイドが弱音を上げる。
「ジェイド様‼ 大丈夫ですか⁉」
「別に、大丈夫だ。攻撃は当たってない」
「私が避けてばかりいるせいですね⁉」
「そうだけど! そうじゃないだろ!」
寄り添うキューティーとわけのわからないことを言い始める。
「どうだ? 勝敗の方は」
行き詰っていた俺はエイラを連れてジェイドをひやかしに行く。
「どうもこうもない! お互いに攻撃が当たらないんだからな!」
大の字に寝っ転がったまま情けないことを言うジェイド。
それに比べて隣に膝をつくキューティーはまだ動けそうだ。
俺の代わりにエイラの相手をさせて・・・とも考えたが、ダメだ。
こいつの動きは型にはまり過ぎてる。攻めの動きがワンパターンになる程に。それじゃぁ回避の練習にはならねぇ。むしろ変な癖がつく分マイナスだ。
いっそ、その辺でモンスターを軽く痛めつけて手懐けるってのは・・・なんて、万が一を消せない以上は無しだよな。
だったら誰か雇うか? 教官に聞けばちょうどいい相手ぐらい見繕ってくれるんじゃねぇか?
いや、その場合でもどの程度かにも――
「おい‼ 聞いてるのか⁉」
いつの間にか座り直したジェイドの不機嫌な声で思考を切られる。
「いや、まったく聞いてなかった」
「ふざけるなよ‼ 俺様のことを無視してなに考えていやがった⁉」
そんなこと言う必要があるのか? と思わなくもないが。
「お前らの練習に丁度いい相手でもいねぇか・・・と思ってただけだ」
それを聞いたジェイドが、心底人を馬鹿にしたような、なにを言ってるんだ? って顔で言う。
「いるだろ? あいつらが」
あいつら? と一瞬頭を抱えたが、こいつと俺が互いに知ってる人物は少ない。さらにはあいつらという呼び方。
そうか。
ヨハンとリミアか。