作品タイトル不明
重い理由
おっさん鍛冶師バルシムはジェイドが置いていった鎧を入念に調べながら答える。
「おかしいたぁ思ったんだ。この鎧、あいつにゃ合ってなかったが、それほどまでに足を引っ張んのかってなぁ? だがまぁ、オメーは伝説だなんだ言われるほどの冒険者。そのオメーがそう言うんなら、そうなんだろぉと納得した。一流からすれば、それだけで話にならねぇんだろぉとな?」
「一流だったならこんなところにはいねぇよ・・・ってのはいいとして、それ自体は俺も疑問に思ってた。特に、さっきあいつがあのシールドを持ってからはな」
「そぉだ。んで、その原因はこの鎧にあったってわけだ」
こっちを見ながら、バルシムが裏拳で胸当てを軽く叩く。
コインッと少し高い金属音が鳴る。
「まさか?」
「そのまさか、だな」
バルシムは手袋をしている。
それは職人としての作業をするためのもんで、戦闘の為のもんじゃない。
となれば当然、中に鉄だとかを仕込むことはねぇだろう。
にもかかわらず、だ。
手袋越しに叩いた鎧から、少し高い金属音が鳴った。
普通の鉄ならドンッとかゴンッとかいうはずが、コインッと鳴りやがった。
それはつまり、この鎧が軽く柔らかい手袋の一撃にすら、しっかり攻撃として反応を示したということだ。装着者を守るために。
これは、魔法による加工が行われていることを意味する。
一般的に・・・魔法加工は装着する者の魔力を使って行う。そうすることで、本人装着時にパスが通り、装着者の魔力を引き出して防御性能を上げるんだが・・・・・・この鎧は今、装備立てに置かれている。
ひとりでに防御反応を起こすとなれば、使われているのは貴重な素材。
その中で、この鎧に当てはまる要素を持つのは・・・。
「・・・重鉄鋼グラビスティール」
「ご名答。こいつぁグラビスティールで出来てやがる。碌に身動き取れなくっても納得できらぁ」
” 重鉄鋼(じゅうてっこう) グラビスティール”
強力なモンスターが 跋扈(ばっこ) すると言われる大陸の北の果て。
そこで、そのモンスター達と共生する者たちにのみ生成・加工が可能と言われている鉄材。
鉄よりも重いが、柔らかく、微量だが永続的に魔力を生みだす。
魔力の伝導率が高く、その値段は金を軽く上回る。
「・・・あいつ。知っててこだわってたと思うか?」
「そりゃぁねぇだろ。知ってたんならおれっちの 手慰(てなぐさ) み品なんかと交換で置いてったりしねぇだろ」
「確かに・・・そうだな」
だったらなにこだわってたのかって話だが、それはここでわかるようなもんでもねぇ。
「そんで? どぉするよ?」
金の入った小袋を見せて聞く。
「いくらになると思う?」
「ざっと見積もっても、うちの店5軒分は堅いなぁ?」
「こんな 寂(さび) れた店じゃぁ10軒分でもそんな価値ねぇよ」
「うるせぇってんだ‼」
適当にあしらいながら考えてはみるが・・・。
手持ちでこの鎧の買取は不可能。
かといって、この店だってこんな鎧を買えるわけがねぇ。
なら、ジェイドの着てった鎧と盾、ついでに手袋の代金だけ払って、あの鎧は俺が預かるか?
とすりゃぁ、冒険者ギルドにあの鎧を置くことになるが・・・どこに?
1階には受付とそこで使う資料をいれておく資料室、作業室があるし・・・そもそも人の出入りが多い場所ほど、あんなもんを置いておくのには向かないんだ。盗まれるかもしれねぇからな。
そういう意味では、1階は無し。
いや、一応金庫室もあるが・・・鎧を入れるってのもなぁ? 今は寂しいぐらいにガラガラだから、置けなくはないんだが・・・・・・まぁ、無しだな。
っつーことは・・・必然的に俺の部屋。2階に置くことになるんだが。
無理じゃねぇか?
置き場所はあるだろうが、この鎧・・・総重量何㎏だ?
皇都支部は古い。
中は多少手直しされてキレイに見えなくもないが、こんなもんずっと置いててみろ。床が抜けるぞ?
「金はそのままでいい。鎧の保管代だと思ってくれ」
「そりゃぁいいが・・・売っちまうぞ?」
「客も来ねぇのに売れるわけねぇだろ?」
「んだぁ⁉ 言ってくれんじゃねぇか‼」
「ホントのことだろ? それと、その鎧は店には並べるなよ?」
「そんぐらい、言われるまでもねぇ‼ とはいえ、もし盗まれちまっても、そん時ぁそん時だぜ?」
「ああ。構わねぇよ。こんな金のなさそうなところに盗みに入るマヌケがいたら、な?」
「よぉし‼ 表ぇ出ろ‼ ぶん殴ってやる‼」
「そうだな。早いとこ、あいつらとも合流しねぇとな。邪魔したな!」
「ったく! 覚えてやがれ‼」
言われた通りに表に出たんだが、なにが気に食わなかったんだろうな?
それよりも、ジェイド達と合流しよう。
あんな鎧を知らずとはいえ、ずっと使ってたんなら、あいつは強くなるかもしれねぇ。
そう思うと 扱(しご) き 甲斐(がい) もあるってもんだ。
ふと、昔は教官も俺達を見てそんなことを考えたんだろうか? などと、ギルドへ向かう道すがらに振り返るのだった。