作品タイトル不明
白魔導師、逃れたい
ふむ。きっと何かの間違いだろう。
あるいは幻覚か。疲れているのかもしれない。
そう思った俺は、何事もなかったかのように扉を閉めた。
「ふぅ……」
扉を閉めた俺は、ほっと胸を撫で下ろした。
あれはいったいなんだったのだろう。
いや、もうそんなことはどうでもいいか。
とりあえず、これで一安心……
「って、ロイド! あんたなにやってんのよ! なんで扉を閉めたの!?」
ユイが慌てた様子で言う。
ユイは何をそんなに慌てているのだろうか。
それに、なんで扉を閉めたのかと問われてもな……
「ただ、なんとなく閉めたいと思ったからだ……」
「いや、なんとなくって……」
ユイが呆れた表情で言う。
俺は別に間違ったことは言っていないはずなのだが……
普通誰だって、扉を開けた先に大勢の人がいたら困惑するだろう。それにいきなりあれだけの数の視線がこちらに向くのは、もはや恐怖だ。
そしてその恐怖から逃れたいと思った場合、とりあえず閉めるのが得策なはずだ。
「なぁ、ユイ……これはいったい何なんだ?」
「出てみれば分かるわよ」
出てみれば分かると言われてもだ。
何故だろう……
この扉からだけは出たくないと思ってしまう。
とは言え、ここに居続ける訳にもいかない。
動くには問題ないがまだ心なしか、怠さや疲れが残っているため、早く宿に戻りたいしな。
「そうだ」
あることを思い付いた俺は、扉とは反対方向へと進んだ。
そして窓を開け、淵に足をかける。
「ちょっ、何してるの!?」
「いや、扉の前には大勢の人がいるから。窓から出ようと思って……」
俺はそう言うと、そのまま窓から出ようとした。
しかし、ユイに足を掴まれ阻止されてしまう。
そのままユイは俺のことを、扉の前へと引きずる。
「痛てて……」
「さ、開けるのよ!」
ユイが鋭い目で睨んでくる。
これは、マジな奴だ。これ以上妙な真似をすればどんな目にあるか……己の未来の姿を想像し、ごくりと唾を飲み込む。
仕方ない……
「はい。分かりました……」
俺は仕方なく、ゆっくりと扉を開けた。
再び、大勢の人達の視線が俺の元へと集まる。
その光景を前に、俺は再度ごくりと唾を飲んだ。
「えーと……」
こう言う場合はどうすればいいのだろう。
アレンなら上手くやるのだろうが……。こう言うのはいつもアレンが前に立って対応していたため、俺には経験があるようで、全くない。
「ど、どうも」
迷った末、俺は軽く頭を下げることにした。
そしてゆっくりと頭を上げ、視線を目の前にいる人たちの元へと戻す。
果たして、これで大丈夫だっただのろうか?
不安が胸に込み上げる。
次の瞬間。
一人の男が口を開いた。
「おい、街の英雄ロイドだ!」
「……えっ?」
俺はその男の放った言葉を、理解することが出来なかった。
この世のどこかに「えいゆうろいど」と言う言葉があるのだろうか。
助けを求めようと後ろを振り返るが、そこにユイの姿はなかった。
いや、少し先の場所でユイの姿を見つけた。
ユイの奴……
自分だけ、窓から逃げやがったんだ。いや、そうだとしてもあまりにも速すぎる気がするが。
さんざん俺には出るなと言っていたのに……
その後、俺は様々な人から「えいゆうろいど」と言われ続けた。
そして何故か、広場へと誘導……否、強制的に連れていかれたのだった。