軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、の恩返し①

さて。どうしたものか。

一刻も早くユイたちを探したい一方で、俺には探すアテがない。

焦りは禁物だ。なんの考えもなしには動けない。

とは言え、ユイたちを確実に探し出せるのは、探知魔法を扱える俺だけで、そう言った手段を持たないユイたちが、コソコソと魔族らの目を避けながら。自力で合流するのは難しいだろう。

しかし、一介の白魔導師に過ぎない俺が、魔導国をフラつくなんて、はっきり言って無謀だ。

素性どころか、種族まで隠さなくてはならないからな。

三大国内で素性を誤魔化し、彷徨くのとは訳が違う。

「仮面でも被って移動……いやいや、仮面を外せって言われたら一発アウトだ」

魔族にもそれぞれで、一概に色黒と言うわけでもなさそうだし、そこは個人差でなんとかなりそうだ。多くは色黒だが、中には俺みたいなのもいる。

しかし、耳の形状の違いは言い訳が難しそうだ。

それに、人間と魔族では魔力の性質に若干の違いがある。こればっかりは俺には誤魔化しようがないし、個人差では片付かない。

「いや、隠蔽魔法と探知魔法を組み合わせれば……」

探知魔法を阻害するための、新たな魔法を作り上げる。それが最も無難な策かもしれない。

そんなことを考えていると、再び、扉が開いた。

そして、一仕事終えたであろう、リエが戻ってくる。

「仲間の探索方法でも考えてたか?」

「あぁ……」

「あんたって、どんな魔法を使うんだい?」

「支援魔法が主だ」

「なら、場所によっては一人で行くのは厳しいかもね」

リエの指摘通りだ。安全なルートならば、俺一人でも移動できるが、強力なモンスターが闊歩し、探知魔法でも戦闘を避けようがないルートを通らねば行けぬ街には、俺一人では迎えない。

ならば護衛付きの馬車に乗るか、あるいは傭兵を雇うか。

しかし、魔導国内で人間は概ね敵と認識されているため、現地民との接触は極力避けたい。

「はぁ……」

深いため息が口から溢れでる。

あれこれ考えてはみるものの、第一に、何をするにも情報が足りて無さすぎる。

情報がなければ、作戦もクソもない。

ここは焦らず、しばらくは、この街で情報を集めるのが先決か。

ユイたちの無事を、彼女らの実力を信じて。

「そうだ。何か手伝えることはあるか?」

一旦、無意味な思考をやめ、リエにそう問いかける。

「仲間探しはいいのかい?」

「リエの言うとおりだ。今、俺が動いても事態は悪化する。それに、少しの間ここで情報収集がしたい」

「ふーん、なるほどね。手伝いはする。だからここに居座れせてくれってことだね?」

その通りだと、俺は頷いた。

「全く、そんなこと言わずとも匿うって言ってんのに。律儀だねぇ」

リエはそう言いながら、顎に手を当てる。

「うーん、人手はいくらあっても足りないくらいなんだが、下手に動いて見つかると私の身も危なくなるからなぁ。あんたの出来る範疇で、だろ?」

「あぁ」

これなら身を潜める場所を確保しつつ、恩返しもできる。

「なら、私の助手を頼みたい」

…………

「これ、本当に大丈夫なのか?」

リエに言われ、俺は渡された顔全体を覆うほどの仮面を被り、首元には軽めに包帯を巻いた。

これで俺は、首から上を全て隠した状態になったわけだが。

チラリと、部屋に立てかけてあった全身鏡を見る。誰がどう見ても完璧な不審者だ。

こんなのが街を彷徨けば、一発で通報がいくんじゃないかと思えるほどに。

「問題ないんじゃないかい?」

「大有りな気がするが」

「大丈夫さ。それよりいいかい? 設定はこうだ。あんたはここで世話になった元患者だ。そして、その恩を返すためにここで協力している」

「設定というか、事実だな」

ここでリエにお世話になったし、元患者なのも間違いない。

そしてその恩を返そうとしているのもその通りである。

「そうだな。で、こっからが重要だ。あんたは、この近辺で話題の狐のモンスターの炎で顔を焼かれた。だから仮面をかぶってる」

「狐?」

「あぁ……火を纏い、身も心も焦がす悪魔の狐さ。ここらじゃ、有名だし、顔を焼かれたって人もいる。だから、今この街でその設定は怪しくない。ひょっとすると、そんな患者が今日も来るかもしれない」

そういう場合は、下手に会話になって『俺がその狐を知らない、見ていないこと』を悟らせないよう、リエが対応に当たるとのこと。

同じ敵にやられた仲間だと、患者に絡まれると、厄介なのは間違いない。何せ、俺はそんな化け狐のことを、いまの今まで知らなかったくらいなのだから。ろくな知識もない。

「分かった。でも、本当に大丈夫か?」

「私が身元を保証するんだ。私の患者だから、顔も見てるってね。そもそも誰も、人間を匿っているって発想はないだろう」

リエが人間を匿う理由はない。

そもそも、こんなところに人間がいる理由がない。俺だって、ここに来たのはほとんどアクシデントであり、魔導国にたった五人で乗り込むなんて無謀を、望んでするほど馬鹿ではない。

リエは覚悟を決めた俺を見ると、似たような白衣を差し出した。

白衣はその名の通り白いのだが、ところどころに洗濯じゃ落ちなかったであろう黒い汚れもあり、使い古した感じがあった。白衣からうっすらと香る清潔感のある匂いが、決して不潔ではないことを示してくれている。

受け取った白衣を羽織り、再度、鏡の前に立つ。

顔を覆う仮面、首に巻き付く包帯、そして新品ではないが故に、どこかベテランの風格を感じさせる白衣。

病院でお世話になる身なのか、お世話をする身なのか。

見方次第では、ちょっと危ない科学者に見えなくもない。

「それじゃ、行くよ」

リエの後ろを歩き、患者の待つ場所へと向かう。どうやら、俺が人間であることを気にしてか、診療所の中でもかなり端に俺を匿っていてくれたようだ。

廊下を歩きながら、仕事内容を確認する。

「それで? 大体、どのくらい診るんだ?」

「多い時は、百を超えるな」

「そんなにか」

「ここでは格安で、最高の回復魔法を受けれるからな。そもそも、金のないやつから、金は取らない」

ここでの活動は、ほとんどボランティアのようなものらしい。孤児院をやりくりするための資金は、何でも屋の方で稼いでいるそうだ。

「大丈夫なのか? そのやり方で」

「大丈夫さ。確かに、金はあんまり入らない。でも、それ以上のものを得てる。それに……」

リエが足を止め、やけに真剣な眼差しで俺の方を振り返る。

「アンタらの国じゃどうか知らないが、ここは魔導国。実力がものを言う世界、弱い奴には生きる資格さえねぇって輩が、闊歩する魔境さ」

魔導国が、実力重視の国家であることくらいは知っている。

それも暴力という実力が重視される、と。

「だから、社会的に弱い奴は、医療も受けれねぇ。金、かかるからな。ちゃんとしただけの金を稼げんのは実力のあるやつだけさ。でも、私はそんな価値観は嫌いだ。弱いって理由で人が苦しんで、死んでいいわけがない。だから救う。この手が届くうちは、誰も死なせやしない」

揺るぎない強い意思と同時に、その真っ直ぐすぎる危うさは、ユイと出会った時と似た感情を呼び起こす。

不思議なのは、自分の中に湧き出た感情とのの向き合い方が、昔とは違った気がすることだ。昔はもっと遠く、どこか冷めた目で見ていた気がする。

気のせいかもしれないが……

ともかく、俺もその意見には同意だった。

「微力だが、回復魔法なら俺も使える。軽傷の患者はこっちに回してくれていい」

「ふん、そう来なくっちゃな」

リエは嬉しげに笑みを浮かべると、再び歩みを始めた。

そうして始まった手伝い。

リエが「クーラ」と詠唱する横で俺は「ヒール」とひたすらに詠唱を続ける。あえて詠唱するのは、患者が今何をされているのか、分かった方が幾分か安心すると思ったからだ。

ほとんどタダという事もあり、多くの人が押し寄せる。

流石は、五大都市と言われるだけのことはある。探知魔法でユイたちを探す際、ざっくりとこの街の規模も知ったのだが、帝都に準ずるほどの広さだった。

人数もそれに見合うだけいる。

「覚悟はしていたが、すごい人だな」

「まぁ、この街が大都市ってのもそうだが、この辺りには危険な場所も多い。それに、言ったろう? ここは力がものを言う世界。中にはいんのさ。食うもんがねぇ、家族、特に子供に食わせるものがねぇ。だから、自分で狩りに、採集に出向く奴らがさ」

「危険だ……でも、やるしかない、か」

行っても死ぬ。行かなくても死ぬ。ならば、危険を覚悟で行く方が、何もせず諦めるよりかはずっとマシだと。

「それでも、ここはまだいい方さ。中にはもっと酷い、スラムもあるからね」

そんな雑談も交えながら、淡々と回復魔法を施していく。俺は比較的、軽傷な患者ばかりまわされていたが、リエの方は重症者も対応していたからか、全てを見終わることには、かなりぐったりと疲れた様子だった。

柔らかな一人掛けの椅子にもたれかかり、頭を大きく後ろに倒している。

まぁ、数時間も魔法を使っていたんだ。

途中、ポーションで回復を挟んでいるとはいえ、無理もない。

「大丈夫か?」

「……まぁまぁね。いつもはここまでじゃないんだが、最近はね。今日もいつもより多かったから。あんたがいて助かった」

「力になれたなら何よりだ」

そう言えば、リエと患者の会話の中で強い傭兵が魔王軍に勧誘されてるとかいう話を耳に挟んだが、それが患者の増加と関係していたりするのだろうか。

「ってか、なんでロイドはそんな疲れてないんだよ。あんたも相当魔力使ったろ? 補給している様子もなかったが」

リエは何度かマナポーションで魔力を補給していたが、確かに俺は一度もポーションを飲んでいない。

「まぁ、軽傷ばっかりだったしな」

日々魔力量が増えてるという実感はあるが、それ以上にリエが重症者をほとんど相手していたのが大きい気がする。

「そんな次元じゃ……って、まぁいい。そうだ。メルもありがとな」

リエに褒められ、メルは嬉しそうに微笑んだ。

メルは魔法で治すまでもない軽傷者の対応や、マナポーションや水を持ってきてくれるなど、リエや俺のサポートをつきっきりでしてくれていた。

まだ十歳と少しくらいと、幼いにも関わらず的確に処置をし、リエをサポートできている。

周りを見て、自分で判断し、最適な動きをしていた。歳の割に、随分としっかりした子だ。

リエはメルの頭を撫でながら、言葉を漏らす。

「メルは賢くて、優しい自慢の子だ。孤児院のこの中でも群を抜いて大人びている」

リエが頭を撫でながら、メルへと落とした視線は優しく、同時にどこか暗くもあった。

「どうした?」

「いや、私は独学で回復魔法を磨いてきたんだが……そのせいか、人に教えるのがどうにも苦手なんだ」

リエの回復魔法が青いのはそのせいらしい。魔族だから、ということではないそうだ。

リエもリエで別に、普通の回復魔法と遜色ないために、特に気にはしていないそうだが。

「私のやり方は癖があって、教えるのが難しい。それに」

リエは確認を求めるようにメルを見る。気がついたメルは気にしなくていいよ、と言うかのように笑って返す。

「メルは、喋れない。だから、詠唱ができない」

詠唱は、魔法を扱う上で分かりやすいトリガーとなる。詠唱は魔法を習得する第一歩としては有用だ。いきなり無詠唱は確かに難しだろう。

「そうなのか」

「いや、随分とあっさり受け入れるな」

「詠唱は必須じゃないからな」

確かに、詠唱が可能か不可能次第で、習得への難易度が上がるかもしれない。

それでも、それは回復魔法の習得を諦める理由にはならないと、俺はそう感じた。

「……詠唱破棄ってやつか。でもそれは、魔王軍でも幹部級以上が扱う高等テクニックだ。そもそも彼らだってはじめは詠唱から始めるって聞くしね」

無詠唱は高等技術。それは魔導国でも共通の認識らしい。

俺はそんなこと、師匠から一言も教えてもらえなかった。だからこそ、特に偏見なく、修練に励めた側面もあるのだが。

わざと、言わなかった。無詠唱はできて当然だと言わんばかりに振る舞った……

いや、師匠がそこまで考えているはずがない。

きっとそうだ。

何にせよ、あの師匠の教え方がよほど良かったのか、未だその実感はないが、無詠唱が詠唱有りよりも難しいことには違いない。どのくらい、そこに差があるかは知らないけど。

そして初めから無詠唱を強いられるメルにとって魔法の習得が難しいのも、また事実だ。

基礎をすっ飛ばし、応用に入っているようなものだからな。

それでも、

「メルはひょっとして、リエみたいになりたいのか?」

俺の問いに、メルはこくこくと二度頷いた。

リエの隣で頑張るメルを見ていて、薄々そんな気はしていた。

メルは優しいから、子供ながらにリエを手伝っている。それもきっとそうなのだろうがそれ以上に、俺には、なんとかしてリエの技術を見て、学ぼうとしているように感じられた。

そんな熱意が、彼女がリエを見る瞳にはあった。

「確かに、喋れないメルが魔法を学ぶのは難しいかもしれない。でも、諦める理由にはならないし、その必要もない」

「あぁ……そんなことは分かってる。だがな」

メルが魔法を学ぼうとしだしたのは、何もここ最近の話じゃない。もう、ずっと昔から挑んでは、敗れている。リエも出来る限り、さまざまな教え方を試し、時には他の人にも教えを乞うた。

それでもダメだった。

だから、リエは諦めかけていた。

でも、まだ諦めるには早いと思う。メルが諦めていないのならば、尚更。

「実は、いい方法を思いついたんだ」