軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、のどかな田舎へ

帝都の中でも、超がつくほどにド田舎な辺境の地に『 和泉(いずみ) の 村巷(そんこう) 』という名のこじんまりした集落がある。土壌が良く、農作物や放牧に向いたその地は、驚くほどに彩度の高い緑の植物が生い茂っており、ただ無造作に伸びる路地の傍の草木でさえ、陽の光に当てられ妙に美しく映る。

街の中を流れる小川の、心地よいせせらぎが、忙しない都会での疲労さえも癒してくれる。

日光が燦々と差し込むわりに、妙に涼しく、絶妙な温度の空気が肌に心地よい。

そんな、最高の環境。

しかし、和泉の村巷は決して観光地としては栄えていなかった。また、お世辞にも有名とは言い難い。

理由はシンプル……その道のりが長すぎるからだ。特に、帝都からとなるとかなりの時間がかかる。

いくつもの街々を経由する必要があるし、区間によっては馬車などの移動手段が用意されていない。

その上、安全な、モンスターの脅威の少ないルートを選べば、さらにかかる時間は長くなる。

美味しい空気と見事な絶景に癒される以上に、辿り着くまでが疲れる。

だから、誰も観光でそこへと行こうとしない。誰も行かないから、やたら知名度が低い。これでもある人物の影響で、それなりに知名度は上がったらしいが……なお、わざわざ行く人がいないため、そこまで名前が広がりはしなかった。

そして、旅人が基本訪れない和泉の村巷には、観光地としての環境が整うことはなかった。

まぁ、そんな都合が、この集落の自然溢れる美しさを保全している面もあるのだろう。

「のどかでいいところね!」

背筋を伸ばしながら、大きく息を吸い込むユイ。

「もう少し訪れやすい場所だったら、結構人気な観光地になった、と言うのも頷けます。だからこその、この絶景なのでしょうけど」

「まぁ、この絶景を目にしてなお、また来るかって聞かれたら、多分NOだしな」

クロスの意見に、俺も軽く同意する。

和泉の村巷だが、観光、ないし旅行用の馬車も通っていない。通る馬車は、和泉の村巷で採れた農作物を出荷し、また、和泉の村巷へと物を仕入れる、集落の住人らの馬車のみ。

だから、この集落を訪れるには話をつけ、乗せてもらうか、自らで馬車を用意するしかない。まぁ、ゆっくりと時間をかけ、歩いて目指すという手段もあるが……どれほどの時間がかかることか。

「それにしても、本当に運が良かった。何も知らずに向かっていたら、どれほど苦労したか」

そう言い、狐色の髪をした獣人を見るダッガス。

確かに、俺たちは運が良かった。

時は数時間前に遡る。

和泉の村巷から最も近い街から、俺たちは馬車に揺られ、目的のその地へと進んでいた。

「にしても、驚いたな。まさか、ルシカが知り合いを連れてくるなんて」

馬車を運転する、やけに体躯の良い中年の男性が語りかけてくる。彼は俺たちの目的のその和泉の村巷の住人であり、収穫した農作物の出荷の帰りに、空いた荷台に俺たちを乗せてくれた、心優しい方である。

人を乗せるように設計されていない荷台……座り心地は、当然良くない。

荷台の揺れが腰を、じわじわと痛めつける。

荷台は街でしっかりと清掃されているため不潔感はないが、長年使用されこびりついた、自然の土とも違う独特な土の匂いが染み付いており、こうして揺られている今も、その香りが漂ってくる。

だが、匂いに関しては慣れればなんてことはない。

腰の痛みは慣れそうにないが……それでも歩くよりはうんと早いため、耐え、揺られ続ける。

そんな中、こうなることをわかっていたのだろう。分厚めのクッションを持参し、腰を落とす、小柄で幼なげな獣人が荷台で揺られていた。

狐色の髪と耳……彼女から、どこか小動物らしさを感じるのは、獣人ゆえではないだろう。

そんな彼女は一人、比較的快適そうに揺られながら、口を開く。

「うん。私もびっくりだよ。まさか今話題の冒険者パーティーが、和泉の村巷に行きたがってるなんてさ」

弓将ルシカ。可愛らしい見た目の彼女は、その見た目に寄らず帝国軍の最高戦力の一角である。

そんなルシカの出身地がその和泉の村巷であり、現在は休暇をもらい、帰省中のようで。帝都を出る時に、偶然俺たちと出会った。

例のクラウンの一件の時だろう。クロスとは面識があるそうで、二人は遭遇した際、すぐに気がついたようだ。顔見知りとのことで軽く会話を交わす中、目的地が同じであると知り、これも何かの縁ということで、俺たちはここまで共に行動していた。

ルシカは帝都から和泉の村巷までの長い帰路を一人で歩むのは退屈だと考えており、俺たちは行ったことのない場所に、しかも観光地でも何でもない一集落に、順調に辿り着けるか不安を抱いていた。

同行するメリットは互いに大きい。

何より、同行するデメリットがない。

「いやぁ、本当にびっくりだよ。ルシカが友人を連れてくるなんて」

馬車を操るおじさんが、語りかける。

そこまで広くない集落だ。全員が顔見知り以上出そう。その中でも、ルシカは特別顔が広く、交流が深いそうだが。

「そんなに驚くこと?」

「あぁ……だって、てっきり、ルシカは外に友人がいねぇもんだと」

「な、何でそうなるの!?」

心外だと、異議を申し立てるルシカ。

そこまで長い付き合いではないが、俺もルシカがそう思われているというのは意外だった。ここに来るまで色々と話したが、俺と違い、人間関係を構築するのも上手そうに見える。

「ルシカは話下手じゃねぇし、人と仲良くすんのは長けてる。でも、村を出るのとほぼ同時に五隊長の地位についていた。他と違うってのはいいことであると同時に、よく無いことも多い。特に、人並外れた高い地位とも慣れば尚更だ」

なるほどな。

おじさんの言い分は理解できた。というか、共感できた。俺もイシュタルについてすぐに、勇者パーティーに入ることができた。しかし、今思えばそれは勇者パーティーのメンバーという数少ない仲間を得ると同時に、その他大勢との溝を深め、接触の機会を大きく損なうものだった。

結果、外側に友人はできなかった。接する機会もあまりなかった。どこに行っても、あの勇者パーティーのメンバーという肩書きがついて回り、それが人との距離を生み出す。

しかし、ルシカは俺とは違うようで。

「いやいや、いるよ、友達くらい! ムラサキやシアファとは仲良くしてるし、帝国軍の中なら結構いるんだよ? クレアちゃんだって」

「でも、見たことねぇんだよなぁ」

「そりゃそうでしょ! こんな遠いとこに呼べるわけないじゃん! みんな、暇じゃないんだし」

帝国の五隊長が何人も訳もなく帝都を離れるのも問題だし、クレアに至っては大問題だろう。

シアファ……という名には聞き覚えがないが、帝国軍にそんな獣人がいるのだろう。

「あはは……まぁ、この村、何もないしなぁ。稀に、例のダンジョン目当てに来る変人もいるが……って、悪い意味じゃないぞ。いい意味で変人ってことだ」

俺たちの目的を事前に聞いているおじさんはそう、慌ててそうフォローするが、たった五人でダンジョンに挑む……変人なのは否定のしようもない。だから、別にフォローも必要なかった。

ユイたちも気にしている様子はない。

「それにしても意外よね。ダンジョンがあるのに人がそんな来ないって」

ユイの問いに、俺も頷く。

しかし、世間の捉え方は違うようで、

「ダンジョンに入るなんて、死ににいくようなもの……相当腕に自信がない限り、挑む気すら起きないし、そんなに腕が立つならば、他にもいくらでも稼げる仕事がある。それに、ダンジョンを攻略したからといって、アイテムを獲得できる確証はない。どういう理屈か、アイテムは持ち主を選ぶから」

ルシカの言い分には一理ある。実際、俺が魔杖を扱えなければ、王国でのダンジョン攻略は失敗で終わるところだった。最下層まで進んだにも関わらずだ。

「でも、ダンジョンを攻略したって功績は得られるじゃない」

「功績のために時間とお金、それに命までかけれる人はそういない。帝国軍もそう。帝都の守りを薄くしてまでダンジョンに挑んだ結果、何も得られませんでした……とか、国民の不信感を買いかねないリスクを考えるとね」

それが帝都がこのダンジョンを放置している理由らしい。ルシカがいうのだから、間違い無いだろう。

だから王国はすごい決断したよね、と付け加えるルシカ。

王国はそんなリスクを承知で、ダンジョン攻略に挑んだ。まぁ、あそこは割と王都から近かったという事情もあるが。

「そう思うと、改めて伝説の冒険者の異常さが際立つな」

ダッガスがそんな言葉をこぼすと、ユイは表情を変え、目をキラキラを輝かせる。

そしていつもの如く、やや早口で語り始める。

「ダンジョンに僅かな人数で勝手に踏み込み、誰一人欠くことなく、難なく攻略……やっぱ凄いわね。大賢者たち、伝説の冒険者って」

憧れの存在の伝説を語るユイはとても楽しそうだった。

「三大国からすればたまったもんじゃなかったみたいだけどね。好き勝手やる大賢者を止められるだけの力が、国にあるのかって、不安の声もあったみたいだし。特に大賢者マーリンは問題児だったみたいだしね。クラウディアなんて、いまだに根に持ってるよ?」

どこか他人事のように、楽しげに語るルシカ。

ルシカもそう聞き及んでいるというだけで、詳しくは知らないようだ。ルシカが五隊長に就任する頃には、大賢者はとっくの昔の、まるで物語の中の伝説のような存在になっていたようだ。

時折、ユイは熱烈に大賢者らの伝説を語るが、きっとその裏側で振り回され苦労した人々や、不都合ゆえ消された件などもあるのだろう。

「んで、あんたらもその伝説に挑戦しようって?」

「まぁ、無理ない範囲でね」

魔杖を掘り出したあのダンジョンの時とは違う。こちらに切羽詰まった事情はないし、失敗したとて酷い怪我さえしなければ、特に問題はない。

命最優先である。

「憑霊のダンジョンか。俺はルシカやあんたらと違い、戦うとかはよく分からんが……あんなところに行くなんざ、随分と物好きだな」

「どういうダンジョンなのでしょうか? 私たちも調べはしたんですけれど、そこまで情報は得られなくて」

シリカの言う通り、帝都を立つ前にダンジョンについて調べはしたが、あまり有益な情報は得られなかった。ダンジョンの情報……中に入った人自体、相当少数だろうし、元々、そこまで期待はしていなかったが。

近くの里に住まう人なら、何か知っているかも知れない。

ちなみに、ここにくるまでの旅路でルシカにも尋ねたが、あまり知らないとのこと。

「うーん、あのダンジョンで、死者が出たって話は聞かないが。でも、あのダンジョンで心を病んだ冒険者ってのはよく聞くな」

「心を病んだ……その、理由は?」

「さぁ、誰も語ろうとせなんだから。詳しいことはさっぱりだ」

皆、俯き、元気なさげに帰っていくそうで。その状態になると、何があったか聞いても、答えてはくれないようで、村民も何が何だか詳しいことは知らないとのこと。

心を病んだ。よほどショッキングな何かがあるか、あるいは精神に作用する何かが存在するのか。

どちらにせよ、有益な情報なのは確かで、可能な範囲で対策と警戒はしておくべきだろう。

「ありがとうございます」

「おう。にしても、どうすんだ? ルシカんとこは、五人も泊まれるほどスペースあったけか?」

話には聞いていたが、和泉の村巷は、観光地としての機能が全くと言っていいほどないらしい。基本、人が寄り付かないから宿もない。

「うちはちょっと厳しいかな。空き部屋ないし」

ルシカの家は、狩りと調理を得意とするそうだが、建物の多くがそんな食材や調味料の保管のために使われているそうで、人が寝泊まりするのは難しいとのことだった。

武器庫もあるが、人が泊まるには汚いそう。

「なら、司書のところはどう? 過去の挑戦者も、あそこに寝泊まりしてたんでしょ?」

「司書……図書館があるのか?」

「うん。和泉の村巷で唯一の図書館!」

ルシカが手振りでその大きさを表現しながら語る。

図書館ともなれば、確かに広いイメージはある。あるのだが。

「失礼だったら謝るが……そんなに大きな集落じゃないのに、大きな図書館があるのか?」

小さな村にそんな立派な図書館があるというイメージがあまり湧いてこない。

そんな俺たちの疑問に答えてくれたのは馬車を操縦するおじさんだった。

「なんつーかな。そこんとこの家が、代々本好きでね。誰かが街行くたびに、目新しい本があったら買ってくれってっ頼むんだ。別に、大した荷じゃねぇし、金は向こうもち、俺も時たま利用させてもらってっから、全然良いんだけどよ。そんなんが、ずっと続いて、本が溜まりに溜まってんだ」

「そうそう! 亡くなっちゃった村民の持ってた本なんかも捨てずにそこで保管するんだ」

そうして、長い時間で積み上がった本たちが収納されているそうだ。

しかし、初めからそんなにも大量の本を溜め込むためにあった建物ではないし、そこに集まるのはいわゆる本のみではないそうで。

先祖が研鑽し、積み上げた狩りや農業の手法、肉の保存法、家の建て方、様々な環境的事象への対処法などなど、多くの書物が積み上がっているそうだ。

「だから、何十年かに一度、広めに増築工事が施される。そんで、大抵はスペースが余ってるってわけだ。そうでなくとも、あそこなら読書スペースとか、ちょっとした研究室とかもあるし、そこなら寝れるんじゃねぇかな」

「司書の住居との一体型だから、生活に必要なものもあるし……うん、数日寝泊まりするなら、そこがいいかも」

こちらも、明日いきなりダンジョンに挑むわけではない。今の所死者が出ていないとは言えども、攻略されたという情報のないダンジョンだ。

流石に、旅の疲れくらいは抜いておきたい。

心が病む、という新情報も気掛かりだし、対策は打っておきたい。

「あ、そうそう。こりゃ噂だが、その図書館、世に残ってると不味い書物なんかも管理してるって話もあるな」

「世に残ってるとまずい?」

シリカの問いに、おじさんはすっと真面目な顔をし、語り出す。

「そう、国が有害と判断した書籍、バレると不味い皇族の秘密、歴史から消された戦争……まぁ、大半は娯楽に飢えた子供らが、紡いできた都市伝説みたいなデマだけどな! 俺も餓鬼ん頃、何か一つでも噂を残したくて頑張ったなぁ」

真剣な表情はどこへか、話終わるころにはゲラゲラと楽しげに笑っていた。

「えっ、うちの村ってそんなの流行ってたの?」

「あーそっか。お前は、そう言うの一切気にせず、子供の頃から弓持って森ん中駆け回ってたからなぁ」

「だって、本読んだり、家で何かしてるより、外で遊んでる方が楽しくない? めっちゃ遠くに、辛うじて見える木の実を撃ち抜くの楽しいじゃん! あと、自分で空高く放った矢を、落ちる前に別の矢で狙って打ったり……そう! 角度をつけて放った矢を、追っかけてキャッチするとか! 楽しいよね」

ルシカはそう、必死に楽しさを訴えかけるが……申し訳ないが、俺にはその気持ちが到底理解できそうになかった。

同じ弓使いであるクロスでさえ、あまり共感しているようには見えない。

「良く分からんし、お前の視力でめっちゃ遠いってのは、一般人には見えないんだよ。それに普通、どんだけ角度をつけようと普通は矢に追いつくなんて無理だ。というか危険だ」

そう言えば道中、外を見ては「あそこに何かある!」と語りかけてくれたが、俺やユイには見えない、なんてことが多々あった。

辛うじてクロスが視認できるほどの距離を、ルシカは平然と眺めている。

それと、道中歩く場面もあったが、軽快で足が速い。

「まぁ、ルシカは昔からずば抜けて凄かったからな。足は異常に早いし、運動神経も反射神経も抜群……同年代はおろか、年上の奴らでさえ、身体能力じゃルシカに絶対に敵わない」

「筋力はそこそこだよ?」

「そこそこって……まぁ、他と比べると常識的な気がするが、村で毎日農具振るってる大人に、腕相撲で無敗だったろ?」

「うーん、でもムラサキには勝てたことないし」

「なら、私でも勝てそうね!」

ここに来て、謎の張り合いを見せるユイ。

そう言えば、ユイも相当な怪力だったな。

「あはは……って、話が逸れたな。そんなのはどうでもよくてだ、俺が言いたかったのは、ひょっとするとあそこなら俺も知らないダンジョンについての情報を持っているかもしれないってことだ。それと司書んとこなら、言えば泊まれると思う。何かしら、対価を求められるかもしれないが」

「泊まらせてもらうんだし、タダでとは考えてない」

ダッガスの言葉に、皆頷く。

「それで、対価とは何でしょう?」

「あんたら、Sランク冒険者なんだろ? 前に来たSランク冒険者の人らには、泊まらせる代わりに冒険の話をしてくれって言ってたな。あの人、外の話に飢えてる節があるからな」

冒険の話……宿泊の対価にしては随分と安いだろう。良くも悪くも、話題には事欠かなさそうだし、そこも問題なさそうだ。

「その司書さんは、外に出れない事情があったりするの?」

「あぁ、歳の近い病弱な姉がいてな。昔、まだ両親が元気だった頃は、姉は任せて飛び回ってたが、もう両親も歳でね」

それに相当な数の本となると、管理も大変だろう。

家も広いとなると、掃除も大変そうだ。

「ロイド……」

ユイの問いかけの真意を察し、俺は首を横に振るった。

「クルムの件なら偶然だ。俺に、そこまでの技量はない。事情が分からないから断言はしないが、おそらく俺にできることはないと思う」

そう、はっきりと期待は消しておく。

事情は分からないが、聖教国の大聖人でも、聖女でもない……一介の白魔導師でしかない俺に、何かできるとは思えない。

クルムの時は、本当に運よく手に負えたから良かったものの、あれで力になれなかったらと思うと、いまだに怖い。

「期待させるのも可哀想だ」

「そう、ね」

「まぁ、それはそうとして着いたら真っ先に訪れるとしよう。もし宿泊できそうになかったら、急ぎ他を当たらないといけないからな」

有益な情報を得つつ、他愛もない雑談も交え、時にのんびり風景を眺めながら馬車に揺られ数時間……俺たちは和泉の村巷に到着した。

そして、冒頭に戻る。

長旅で凝り固まった体をほぐしながら、教えてもらった場所を目指し歩く。ちなみにルシカだが、行くところがあると言い、村についてすぐに別れた。とは言え、しばらくはここの滞在する訳だし、狭い村だ。彼女とはまたすぐに会うだろう。

「えーと、確か……って、確実にこれよね」

「だろうな。むしろ、ここじゃなかったら驚きだ」

図書館はこの街一、大きな建物ということで、近くに行くとすぐに分かった。他の家よりも数回りも大きな二階建ての家屋……高さは他と大差ないため、遠目からは分からなかったが、あのおじさんが言っていた通り、面積で言うと随分と大きな建物だ。

ここがそうだろう。

示し合わせていたわけでもないが、当然のようにユイが率先し、両開きの扉を少し強めにトントンとノックする。

「すみませーん!」

ユイがこの近所にもしっかりと聞こえるほど大きな声でそう尋ねると、少ししてから扉が音を立て、ゆっくりと動き出した。