軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三大国会議①

「うげぇ……」

獣王祭直後、アイラは受け取った書簡を読み、心底嫌そうな顔で、奇妙な声を発していた。それを隣りで見るサリーは、随分と慣れた様子で、瞳のハイライトを消灯する。

サリーは薄々、書簡に記されたことと、似たような展開は予想していた。各国が大きな被害を、魔導国という共通の敵の手により受けた今、本格的に手と取り合う姿は想像に難くない。各国のトップが会談する未来程度は想定内だ。

しかし、書簡の内容から、異例さを察する二人。

「三大国会議を、旧聖地で行う……って、つまり」

「マキナ様は、自らの正体を表すおつもりなのでしょう」

表向きには、聖教国でのトップは教皇であり、教皇が住まうのは聖地である。これまで通り、教皇が主催する三大国会議に、教皇自らがその国のトップとして参加するのであれば、開催地は聖地になるだろう。

各国の王を呼ぶとなると、堅牢かつ、警備が厳重で、戦力の揃った場所が必須となる。聖地であれば、そんな環境を用意できるアテはいくつかある。しかし、旧聖地でそれを満たす場所は、あの地下都市以外にない。

つまり、呼び込むつもりなのだろう。

他二大国の王を、あの秘密の地下都市に。

そしてあの地下都市を説明するにはマキナの存在が欠かせず、つまり、それはマキナの存在を国王らに告げることを意味する。

「マキナ様も本気で、魔導国とやり合うつもり、ということでしょう」

アイラの様子を注視しながら、恐る恐る考察を口に出すサリー。

その台詞に、アイラの眉がぴくりと動く。魔導国との戦争……アイラの因縁を晴らす上で、この上なく好都合な場であり、心のどこかで待ち望んでいた機会でもある。

戦争……それに伴う被害を考えれば、絶対に避けるべき、悲劇的な事態でありながら、絶好の機会にどこか心が騒ぐ感覚を覚え、アイラは胸を痛める。

被害者だからこそ、その悲惨さを痛感しているはずなのに。

そんな過去を差し置いて、復讐という私情を優先している自分に、嫌気がさす。

そんな中、淡々と書簡を読み進めるサリーは胃を痛めていた。

「なるほど……こっちの書簡を皇帝に渡し、その上で皇帝を護衛し、お連れしろと。全く、マキナ様はどこまで読んでいたのか」

もう一通、しっかりと封をされた書簡を持ち、大きくため息をこぼす。

アイラに獣王祭を楽しめと言い、この帝都に留め、サリーを丸めこめ帝都へと派遣する……それらがまるで、この目的のためにあったかのような。マキナならばやりかね無い計画である。

さらに問題はここからだ。

「しかもこれ、クレア第二皇女も連れて来いって」

クレアが誘拐され、皇帝の警戒はぐんと高まっている。あれ以降、徹底的に、側近の素性を洗い直したそうだし、あれほど渋っていたセリオンの護衛を、今や快く受け入れている。

そして言うまでもなく、セリオンはクレアの護衛を快諾している。口には出さないが、内心は喜びに溢れていたことだろう。そして今は存分に、ベッタリとくっついている。

つまりだ、クレアが動けば、セリオンも動く。三大国最大の戦力が、彼女に付き従う。

そんな様々な理由により、皇帝は安易にクレアを動かしたがらない。動かせば大陸の存続に関わるレベルの危険が伴うし、最高戦力も帝都から動く。

「今、帝都からセリオンが動くと、戦力は一気に低下する。それを帝国は好ましく思わないでしょう」

五隊長の一人と、セリオンを護衛とし、しばらくの間聖教国に持っていかれるのは、あまり良い展開ではない。特に、先日の一件で国民の不安が残る今は、尚更であろう。

「あー、ひょっとすると、帝都で三大国会議を行おうって流れになりかねないわけだ」

しかし、それではこちらが困る。

「はい。もちろん、それを見越してマキナも手を打っているようですが」

「手って?」

「古代魔法の情報です」

「うわっ、つまり本気なわけだ。まぁ、あーしはあんま詳しく知らないけど」

マキナはマキナで、古代魔法の由来という特大の切り札を切ってきた。

古代魔法の由来という、特大のネタがある以上、クレアが来ないという可能性は低いが、アイラたちからすれば、来る方が問題である。

クレアが移動することで伴う危険。セリオンが同行することで起こるであろう厄介ごと、ただでさえ皇帝という重鎮の護衛なのに、その精神的負担は何倍にも膨れ上がる。

「戦力としては、これ以上ないくらい、心強いのにねぇ」

「なんででしょうね。一気にこう……胃を雑巾のごとく絞られた感覚がするのは」

最強の勇者にして、歴代最高の問題児。彼の同行が吉と出るか、凶と出るかはっきりとした見通しは立たない。

それこそ、マキナの話す内容次第では、セリオンが聖教国に敵対心を抱き、何をしでかすか分からないのだ。

それに、他にも問題があった。

「まずは、あーしらの身分を説明して、信用を得るところからか」

サリーは、一応、聖教国の公務員的な役職である。聖教国の中でも文武ともにたけた、いわゆるエリートしか配属されない部署にいる。そのため、聖教国の使いというのは、あながち間違いではない。

一方で、アイラは表向きは、ただの旅人。正しくは、マキナの命を受け、各地を渡り歩いているのだが。

「あーし、どう考えても適任じゃなくない?」

アイラが自分を指差しながら、サリーへと問いかける。

「でも、アイラを残した……そこにはきっと、何かしらの意図があるはずです」

と言いつつも、不安は残る。マキナはサリーを遥かに超える知謀を兼ね備えているが、あまりにも人間的でない判断を下すこともしばしある。他者の感情を軽んじるせいで、計画をしくじりかける……魔道具らしいミスはあるのだ。それがあるせいで、サリーもアイラも、完全に信じ切っているわけでもなかった。

「意図があるって、そう言われてもねぇ」

「まぁ、身分は、今からなんとか考えましょう。それこそ、ロイドの姉、なんてどうです? 彼、今や三大国でそれなりに信頼のある人物ですから」

各国で爪痕を残すロイドは、今や三大国のトップと浅からぬ繋がりを持つ。信頼ある人物という表現は、あながち間違いではない。しかしだ。姉として、弟の功績を借りるのは、少々抵抗というか、プライドがそれを許さなかった。

「うっ、なんか嫌だなぁ。それ」

「なら、大案を出すのでそこから……」

結局、アイラはサリーの護衛として、付き添う形に落ち着いた。それでもダメだった場合、最悪はロイドの血縁……である可能性が非常に高い人物として、名乗るつもりだった。

そうして向かった、皇帝の住まう城。幸い、サリーは聖教国からの正式な使者として受け入れられ、アイラも護衛という形で城への入場を許可される。二人の周囲には、四名の兵士と魔将クラウディアが控えている。正式な使者と分かってなお、信用はしていないという、意志がひしひしと伝わってくるが、事情を考えれば不快感はなかった。

しばらく城の中を進むと、四人の兵士は下がらせられ、クラウディアのみが付き添う形で、ある部屋へと案内された。

部屋の中心には円卓があり、座り心地の良さそうな一人がけの椅子が五つ、卓を囲むように並べられている。

窓はあるが、作りが特殊で、使用時は硬い金属のシャッターを下ろせる仕組みになっているらしい。今はシャッターが降りており、魔道具が部屋を照らしてくれている。

「ここは?」

「本来は五隊長が会議に使う部屋だ。それゆえ、盗聴対策や敵からの襲撃対策もバッチリ……皇帝もここなら、安心であろう」

「五隊長が会議に……」

そう呟きながら、部屋を見回す。殺風景な部屋だが、広さにはかなりゆとりがあり、椅子は派手ではないが、高価そうであることが伺える。

「ま、適当に座っておれ。時期、来るはずだ」

「は、はい」

部屋で待つこと数分……険しい面持ちの皇帝が、部屋へとやってくる。年齢は、五十前後と言ったところだろうか。クレアと同じ白い髪に、短く整えられた髭、シワのある口元。目元は疲れ気味なのか、やや弛んでいる。

それでも、気圧されそうな威厳を感じるのは、その二メートル近くある、筋骨隆々とした体躯故か。あるいは、その身に染み付いた王としての経験ゆえか。

ゆっくりと椅子に腰を下ろし、アイラとサリーを一瞥する。

「それで、要件とは?」

そう問われ、サリーはクラウディアにマキナの用意していた書簡を渡した。クラウディアは書簡にトラップが仕掛けられていないことを念入りに確認し、皇帝へと手渡す。

「三大国会議、とは。久しいな。まぁ、こんな状況だ。理由はわかる。最も、旧聖地というのが引っかかるが」

視線を書簡から、サリーへと鋭い眼を向ける。

理由は、あえていう必要もない。何故、旧聖地なのかという問い。

「あるお方が、古代魔法について、その由来と原理をお話ししたいと」

「ほう?」

その一言に、皇帝は心底、機嫌が悪そうに、眉間に皺を寄せる。

「よくもまぁ、抜け抜けとそんなセリフを吐けたな」

皇帝の怒りのこもった声に、空気が震えた気がした。

それに恐怖する二人ではないが、緊張が走る。

「モンスターを操る古代魔法……帝国はこの力に、何度も頭を悩ませれてきた。どういう理屈で受け継がれているのか分からず、安易に使うことも許されない。それを研究しようとすることさえも、許されなかった」

代々、帝国の禁忌として、不用意に調べることさえ、禁じられてきた。国家を滅ぼす力が……多くの問題を解決できるほどの力が、この手のうちにあるのに、持ってるこちらは利用できず、それなのに、厳重に守り続けなくてはならない。

これがまだ、兵器のようなモノならまだいいが、その力を有するのが命ある獣人である以上、どこか堅牢な倉庫に、永遠に隠し、封じることもできない。皇女ともなればなおさらである。その存在を、隠し通すことさえできない。

皇女の誕生は、国民に広く知れ渡る。古代魔法を持っていると知った時には、もう遅い。

「何より、古代魔法のせいで娘……クレアは酷い目にあった! 何度も後悔した。せめて、禁忌など無視して、研究し、その力の正体を解明しておくべきだったと! あるいはせっかく受けたその力を、極めさせておけばと! わかるか!? 何も知らない力に翻弄される娘を、何もできずただ眺めているこの気持ちが! なのに聖教国は全て知っていて、それを今更、真実を話すだと!」

長らく、その力の被害を被ってきた皇族として、そしてクレアの父として、激怒するには十分すぎる話題だった。

「聖教国は、帝国がどれだけこの力に悩まされてきたのか、知りながら黙っていたのであろう! 娘が誘拐された時でさえ、ダンマリだった! それが今になって話します? 貴様らは、何様だ!」

怒鳴り声を部屋に響かせながら、円卓に拳を叩きつける。

強固な机は壊れこそしないが、その振動から、どれだけ強く叩いたのか想像できる。

帝国の皇帝は代々、強さも必要とされ、勉学と同等に武術の修練を励まされる。実力がものを言うこの国家にて、その王が軟弱では格好が付かない。

また、今よりずっと昔、それこそ帝国がまだもっと小さなコミュニティだった時、武力という分かりやすい魅力は、獣人らをまとめ上げるには何かと便利だったという、過去があった。それが今なお、受け継がれている側面もある。

ゆえに、皇帝はそこらの冒険者より、個としてはずっと強い。流石に、五隊長と比類する領域の力量はないが。

サリーはそんな怒れる皇帝を前に、それでも下がることなく、一言捻り出す。

「皇帝の言い分は最もです。しかし、言えなかったのです」

「何故だ!」

「それが、聖教国の根幹を揺るがす話だからです。下手をすれば、聖教国が覆るほどの秘密です。そして、聖教国が覆れば、魔導国との絶妙なバランスは崩壊し、三大国は滅んだはずです」

サリーの言葉に嘘はない。サリーも、アイラも、限られたほんの一握りの真実を知る人間。特にサリーはその業務がら、アイラやエル以上に、深い情報を知ってしまっている。だから、アイラとは違い、そんな言葉を捻り出せた。

サリーは恐ろしく思う。きっと、サリーが他の面々……それこそ、大聖人やラミス学院長以上に情報を知っていると、マキナは考慮して、サリーを帝都に配置した。

自分の口から出る言葉さえも、マキナの予測の域の内なような気がして、いいしれない不快感を覚える。

「ふむ……嘘は言ってないようだな」

サリーの発言が真実であると察した皇帝は、乗り出した身をゆっくりと引き、再び背もたれに体を預ける。

そして目を伏せ、しばし長考したのち、ゆっくりとその口を開く。

「いいだろう。だが、条件がある」

先ほどまでの怒りを抑えるほどの条件……並大抵のものではないことは明らかで、今その口から出ようとする言葉に、嫌な予感を覚えるサリー。聞きたくない。それでも聞かないわけにはいかない。

「……なんでしょう」

「もし、私が納得するだけの説明ができなかった場合、教皇の首を差し出せ」

「なっ!?」

冷静に話を傾聴したいたアイラが、驚きのあまり声を漏らす。

あまりにも突拍子もなく、そして国家間の関係を揺るがすような発言。下手をすれば、国家間での戦争が起こりかねない。魔導国のことでただでさえ国家の未来に関する緊急時なのに、帝国と聖教国が争えば……。

容認できまいと声を出そうとしたアイラを、サリーはそっと手で制する。

「サリー?」

「教皇の首は無理ですが……それより上のものの首なら、差し出しましょう」

「えっ、いいの?」

アイラの問いに、サリーは不安げにしながらも、静かに頷く。

「帝国が、古代魔法に代々悩み続けてきたことは承知なはずです。その上で、今になって全てを話す。クレアの一件もあります。憤慨する皇帝を想像するのは容易です。その上で、今会おうと決めたからには、納得させるだけの理由を、用意しているということでしょう」

あるいは、マキナは自分の首を差し出してでも、皇帝と王国の国王に真相を語る必要があると、それが今だと考えた。マキナが死のうと、国家間での戦争は起こらない。教皇より重要な存在ではあるものの、表向きに知られないマキナの死は、世間には分からない。認知されない。だから、戦争の火蓋になり得ない。

魔道具らしく、合理を極めたようなマキナなら、選択しかねない可能性を想像しつつも、そこはあえて口には出さなかった。

サリーからの許諾を受け、皇帝は落ち着きを取り戻す。

「いいだろう。その覚悟に免じて、一旦は許すとしよう。もっとも、取り下げるつもりはないが……クラウディアよ。私は急ぎ、旧聖地への出発の準備をする。クレアとセリオン、それとムラサキを同行させる」

「ムラサキを? その、いい……のでしょうか?」

ぎこちない敬語で尋ねるアイラ。あれほどの騒ぎの渦中にいたムラサキに、大事な護衛を任せていいのか。

そんな問いに、皇帝は「浅いな」と漏らし、答える。

「あえてだ。まだ、ムラサキの首を狙う連中が帝国におるかもしれん。剣の名家は長く帝国の深くと繋がっていた。そんな長い歴史を持つ家だ。帝国内の各地の多く者らとも繋がりを持つ」

剣の名家に、弱みを握られた人々、なんかもいるかもしれない。なんにせよ、長らく帝国でその地位を確固たるものにしてきた一族だ。剣の名家そのものに厳しい監視の目が行き届いているとしても、まだまだ、安全とは言い切れない。

「とは言え、それは帝国領での話。剣の名家は強力なれど、王国、聖教国では大した力を発揮せん」

剣の名家を支援するものらの多くは帝国の民。聖教国や王国に、強力な縁者がいるという話は聞かない。

そしてそれには明確な理由があった。帝国の実力主義をより濃く抽出したような剣の名家の価値観が、他二国の価値観とは合致しないと言うのが大きな要因である。

王国の貴族らも、聖教国の立場ある信者らも、そんな剣の名家の考えを共感できない。

だから、ムラサキにとって帝国を出てしまう方が、安全なまであるのだ。特に、護衛にセリオンが同行するのであれば、なおさらである。先の一件では、クレアを守るためセリオンは動けなかったが、今回は違う。

「そうでなくとも、これは彼女にとって良い休暇となろう。それに、私が帝都におらんとなると、魔将は代わりにここに置いて置きたい。ガオンには今は、帝国軍に馴染むことに労力をさいて欲しいし、鎧将は、それに協力してもらう手筈になっとる。鎧将はあの見た目ゆえ、目立つしな。弓将……ルシカは休暇を取り故郷に戻りたいと、もうずっと前から願い出ていたし」

皇帝にクレアという護衛対象に対し、最強の勇者セリオン、マキナの直属の親衛隊二名に、刀将ムラサキ。護衛戦力は十分過ぎるまである。

「なんだかんだ言ったが、魔導国に我慢ならんのは同意だ。向こうが言わずとも、こちらにも動く予定はあった」

結局のところ、クレアを直接傷つけたのは魔導国だ。帝国も、そこに住まう多くの民も、魔導国に散々傷つけられた。

一人娘の父としても、一国の王としても、魔導国を許す選択肢はない。

「終わらせるとしよう。長く続いた魔導国との因縁を。かの国の滅亡を持って」

魔導国が三大国を潰し、大陸統一へと本格的に動きを見せる一方で、三大国もまた魔導国を消し去るための、準備を進めていく。